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ほのぼのアニメ『ふらいんぐうぃっち』の魅力について語ってみる。

最近暑いせいか、エアコンの効いたフローリングの床で、だらんと伸びていることが多い。外はサウナのようにむあっと暑い。でもエアコンを効かせすぎると、身体が重くなる気がする。温度差のギャップにもやられる。
気温を理由に怠け者に拍車がかかっていた私は、ここのところ家事の休憩中(サボり中)にアニメをちびちびと観ていた。YouTubeで期間限定で視聴できる『ふらいんぐうぃっち』というアニメ。最初はたぶん観きれないだろうと思っていた。なんせ12話分、4時間半以上ある。2倍速で観るとはいえ、正直飽きてすぐ離脱すると思っていた。


少し物語をのぞけばわかるけど『ふらいんぐうぃっち』は“ほのぼの系”だ。時間もゆーっくり流れる。タイトルの“うぃっち”=witchの通り、魔女が主役ではあるが、描いているのはひたすら平和な日常だ。妖精や犬化した魔女、幽霊も登場するというのに、そこに違和感や不穏さが全く感じられない。このアニメを観ていると、本当にこういう存在が身近に暮らしていてもおかしくないような気になってくる。


そしてこのアニメ、個性豊かなキャラクターが揃っているにも関わらず、悪者が一人も登場しない。みんな健やかで優しい。
例えば子供向けアニメの『ちびまる子ちゃん』にだって、ナガサワくんのような嫌味な奴、ミギワさんのようなワガママで強引なキャラクターが登場する。彼らは別に悪人じゃないかもしれないけれど、時に人を苛立たせたり、不穏な空気を運んでくる存在ではある。でも12話分の『ふらいんぐうぃっち』の中には、そんなキャラクターさえ出てこなかった。
だから不思議だった。こんなに刺激の少ない、延々平和なアニメを、最後まで観てしまえたことが。
こういうものを“スルメアニメ”と呼ぶのだろうか? 素朴なのに、噛めば噛むほど味が出る。癖になり、やめられなくなる。
とにかくまんまと、最後まで観せられてしまった。


前置きが長くなってしまったが、他に書くこともないし今回はこの『ふらいんぐうぃっち』の魅力について語ってみようと思う。ではここからは作品に登場するキャラクターたちや、世界観の魅力などを具体的にお伝えしていく。


物語は主人公のマコトが、弘前ひろさきの親戚の家に居候しにやってくるところから始まる。マコトは魔女で、15歳になったら家を出るというのがしきたり。でも「高校は出ておいた方がいい」「親戚の家なら安心」という両親の意向を汲んで、高校入学の時期に合わせて引っ越してきたというのだから、現代風でなんともゆるい。


おそらく青森県弘前市を入念に取材したのだろう。とにかくアニメの背景は、自然豊かで透明感があってとてもきれいだ。キャラクターもシンプルで可愛らしい。飽きずに長時間観せられてしまった一つの要因だと思う。
マコトが電車やバスを乗り継いで六年ぶりにやってきた弘前市には、まだ雪が残っていた。マコトは雪を食べようとして、相棒の黒猫“チトさん”に呆れ顔をされる。この入り口のワンシーンだけでマコトの性格やチトさんとの関係性、物語の雰囲気までもが伝わってきた。


居候先のクラモト家には、マコトと同い年の男の子ケイ、その妹チナツ、そして彼らの両親が住んでいる。みんなとにかくマイペースでいい人たちだ。
以前会った時幼かったチナツだけは、最初マコトのことを警戒するが、すぐに打ち解ける。ホームセンターの店先でほうきにまたがって宙に浮いたマコトを、チナツがぽかんとした表情で見上げるところが可愛い。その後マコトが箒の後ろにチナツを乗せてあげると、興奮状態。すっかりなついて、べったりになる。


チナツの兄ケイは、穏やかで優しく、畑仕事や料理までできてしまう器用な男の子。ふきのとうをカラッと揚げて天ぷらにしたり。マコトや同級生のナオ、チナツを連れて山菜採りに行ったり。ふっくらとしたホットケーキを焼いたり。淡々となんでもこなしてしまう。
老若男女問わず誰とでも仲良くやれて、ちょっと変わっているかもしれないが、女子力もコミュ力も高い男子だ。


ところでマコトにもアカネという姉がいる。アカネも魔女で、魔女界では実力者として有名だという。アカネは魔法陣を描くことで海外へも瞬間移動できる。そのため初めて登場した時も、ラクダに乗って砂漠を旅していたところから、突如としてマコトの住むクラモト家に現れた。自由人で嵐のように去っていく彼女だが、後半は居心地が良くなったらしく、相棒の猫、ケニーと共にクラモト家に居着いている。
無防備な寝顔をさらし、縁側で猫のように寝てばかりいるアカネのくつろぎっぷりは羨ましい。「です」「ます」調で話す妹のマコトとは対照的な、大胆で豪快なタイプだ。酒に酔いへべれけになり、オヤジのような絡み方をするだらしなさもあるが、憎めない頼りになる姉でもある。


クラモト家の母親は明るく鷹揚な人で、何事にも動じない。父親は津軽弁なまりがひどく、マコトに自分の話言葉を理解してもらえない。そのことに密かにショックを受けている姿には、哀愁を感じる。しかしもちろん、子供たちにも好かれている優しい人物だ。



アカネの友達で、昼間は犬の姿になってしまう“イヌカイさん”。彼女はアカネとお酒を飲んでいて、酔ってアカネが作った魔法のチョコレートを食べたことで犬の姿になってしまった。効力はいつか切れるらしいのだが、夜になると素の彼女は美人なだけに気の毒だ。彼女の専門は占いで、相棒の白いハムスター、アルが「ちーちー」と鳴きながら小さな身体で懸命にお手伝いしている姿が可愛い。


不思議な喫茶店「コンクルシオ」を切り盛りする魔女の母娘。娘のアンズはマコトたちより少し年下だろうか。制服姿で店を手伝うアンズは、考古学にも興味のある賢い女の子。礼儀正しくしっかり者だ。
「コンクルシオ」の建物の外装は、何も知らない人から見たらただの廃墟だ。それが神社で参拝する際にする、二礼ニ拍手一礼をして顔を上げると、パッと趣のある喫茶店に早変わりする。
ん? ちょっと待って。魔法がかけられていたことには納得できる。でも魔女といえば“西洋”。なのに日本の伝統的な神社参拝の礼儀作法で魔法を解除するの?‥‥と頭に疑問符を浮かべたのは私だけじゃないはず。
だけど、こういう懐の深いところ、「細かいことは気にしない」とでも言いたげな作品の雰囲気がまた、このなんとも和む世界観を創造しているのかもしれない。


「コンクルシオ」には仲良しのてんとう虫夫婦や夜のトバリなどが客としてやってくる。見た目は少し人間離れしていても、“祟り神”や呪いをかけてきそうな存在は登場しないので安心して視聴できる。強いて言うなら、物語の最初の方でマコトに引っこ抜かれた“マンドレイク”の容貌が、ちょっとインパクトが強めだったというくらいだ。
あの、引き抜く時の断末魔のような叫び声を聞くと、死んでしまうこともあると言い伝えられている根菜。抜かれたマンドレイクは、“ムンクの叫び”のような「ぎゃー」という表情をしてくねくね動いていた。それを「とったどーっ!」と笑顔で掲げるマコト。シュールな図である。


箒で空を飛び、魔法陣で瞬間移動をし、人を犬に変え、薬で湖の色を変える。エピソードを挙げれば『ふらいんぐうぃっち』で使われる魔法は、決して地味に感じられないはずだ。しかしあくまで作品の雰囲気は、ほのぼのとして落ち着いたトーンなのだ。
それは弘前という自然豊かな舞台と、そこでの日常生活がとても丁寧に描かれているからだろう。雪景色や桜、山や小川、神社や田舎の街並み。背景から空気のおいしさが伝わってきそうだ。料理番組のように山菜などを調理する過程を、ちょっとしたテクニックを混じえて魅力的に、ゆっくり観せてくれるシーンも食欲をそそる。猫や狐など、動物も可愛くて登場人物たちと一緒にワシャワシャと触りたくなる。


ここまで書いてみてわかった。このアニメはとにかく観る人の五感に訴えかけてくるのだ。なんてことはない、日常で出会う小さな事象や存在を、一つ一つ丁寧に描くことで、匂いも手触りもわかるはずのない観る人の五感を魔法のように満足させてしまう。だから大きな刺激がなくても、つい世界にすっぽり包み込まれて、抜け出せなくなってしまうのだ。
もちろんそれだけが魅力ではないと思う。時には遺跡と化した空飛ぶ鯨の背に乗ったり、お祭り好きな魚が、ねぶた祭りに誘われて土から大量に飛び跳ねてきたりもする、非日常感だって味わえる。
でもやっぱり“淡々とした毎日に、幸せはたくさん溢れてる”。そんなメッセージを伝えてくれている作品に思える。


長々と書いてしまったが、観てこそ楽しめる世界観だと思う。YouTubeの『フル⭐︎アニメTV』期間限定で2024年8月14(水)まで観られるので、気になった方はぜひ。読んだことはないけれど、原作は漫画のようだ。こっちも気になる。
なんだかプロモーションみたいになってしまった(笑)。


怠け癖はなかなか治らないけれど、アニメや漫画からでも貪欲に何かを吸収してアウトプットしていきたいと思ったのでした(^-^;


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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