見出し画像

【第五回】チャップリンが生きた道~私生活と映画製作に与えた影響

人は有名になればなるほど、スキャンダルはつきものである。チャップリンも例外ではなかった。

チャップリンは生涯で4人の女性と結婚をしている。一番最初の妻はミルドレッド・ハリスは結婚当時17歳だった。「担え銃」を撮影中にハリスの妊娠が明らかになり、チャップリンは1918年9月23日に急遽結婚した。ところが、ハリスの妊娠は虚言だったことが発覚。

最初の妻・ミルドレッド・ハリス

スキャンダル対策(「できちゃった婚」の報道による人気低下を恐れていた)もあり、やむなく大急ぎで結婚したチャップリンだったが、妊娠してないことがわかり大打撃を受ける。


チャップリンは、結婚は創造力をかき消されると感じていたため、そもそも結婚自体に乗り気ではなかった。実際に、結婚してからチャップリンはスランプ状態に陥ることになる。…とはいえ、結婚そのものが原因というより、ハリスとの関係性に問題があったのではないかと推測できる。


そして結婚後、同年11月に「何でも屋ジャック」の撮影をスタートさせたが、アイデアが固まらないまま実施された。

撮影は全く進まず、数ヶ月が経過する。作品名「何でも屋ジャック」から「サニーサイド」に変更したが、一向にスランプ状態から脱却できないままであった。ところが、3月半ばになるとチャップリンは撮影に集中するようになり、4月15日に撮影が終了した。


サニーサイドについては、「虫歯を抜くような苦労をして作り上げた」と自伝で語るほどである。

「サニーサイド」

「サニーサイド」については賛否両論あるだろう。当時のマスコミからの評価は悪く、事実チャップリン自身も失敗作と認めている。(個人的な意見を述べると、チャップリンの愛嬌溢れる姿が好きで、お気に入り作品の一つだ)。


1919年にチャップリンとハリスの間に第一子を授かり、奇形児の男の子ノーマン・スペンサー・チャップリンを出産するが、3日で息を引き取ってしまう。

1919年7月、次回作「キッド」の撮影を進めた。子役のジャッキー・クーガンを起用し、撮影は順調に進んだが多くの製作時間を要した。新作を求めるファースト・ナショナル社をなだめるために「一日の行楽」を急遽撮影することに。

「一日の行楽」では、珍しく2児の父親役を演じており、末っ子役でジャッキーも出演している。

「キッド」「一日の行楽」で出演したジャッキー・クーガン
「一日の行楽」ポスター

本作は厳しい評価が下されたが、「キッド」製作から公開までのつなぎで取り組んだ作品のため、批評については気にしていなかったようだ。

「キッド」の撮影期間は1年に及び、撮影中にハリスとの結婚生活は終わりを迎えていた。チャップリン曰く、ハリスは知性的とはいえない女性だったようで、性格の不一致により離婚に至った。

1920年にハリスは離婚訴訟を起こし、「キッド」のフィルムを差し押さえようとした。さらに、ファースト・ナショナル社はハリス側につき、「キッド」の未編集フィルムを差し押さえようと企む。これらの企みに気づいたチャップリンはハリウッドから脱出し、ソルトレイクシティへ逃げて「キッド」の編集作業を行った。


初の長編映画「キッド」が公開されるやいなや、瞬く間に大ヒットを収めた。

「キッド」でのチャップリンとジャッキー

あらすじ
ある婦人は、恋人の芸術家に捨てられ、慈善病院からひとり赤ん坊を抱いて退院する。彼女は悩んだあげく、路上に停車していた自動車の中に赤ん坊を置き去りにする。ところが車は二人組の泥棒に盗まれ、赤ん坊は貧民街に捨てられる。そこへ通りかかった放浪者が赤ん坊を見つける。彼は赤ん坊を乳母車を押す女性や足の悪い男に押し付けようとするが、拒絶され途方に暮れる。赤ん坊に母親がつけた「この子をよろしくお願いします」という手紙を見つけた男は、赤ん坊を自分のアパートに引き取り育てることにする。捨て子をした婦人は思い直して赤ん坊を探しに戻るが、車が盗まれていると知り、失神する。

5年後、成長したキッドは放浪者と共に、詐欺まがいのガラス窓修理[注 1]で生計を立てながら暮らしていた。キッドを捨てた婦人は人気女優となり、貧民街に慈善活動にやってくる。彼女は偶然成長したキッドと再会し、おもちゃを与える。その後キッドは街のいじめっ子とけんかになるが、婦人がなだめる。加勢に行った放浪者はいじめっ子の兄と乱闘騒ぎになる。けんかは治まったが、婦人が熱を出したキッドを抱いて放浪者の家に連れてくる。往診した医師は、キッドが赤ん坊のとき身に着けていたという手紙を見て当局に通報し、孤児院の職員がキッドを無理矢理孤児院に連れていくが、放浪者は孤児院の車を追いかけてキッドを奪還する。

放浪者とキッドは安宿に泊まる。キッドには警察から1000ドルの懸賞金が掛けられていた。新聞でこれを見た宿の主人はキッドを眠っている間に抱き上げ、警察に駆け込む。キッドの母親である婦人は、キッドと再会を果たす。翌朝キッドがいなくなったことに気づいた放浪者は、探し疲れてアパートの入り口でうたたねする。彼は夢の中でキッドと天使になって空を飛んだり悪魔に惑わされたりする。

警官に起こされた放浪者は車に乗せられて豪邸に連れていかれる。キッドと母親と再会を果たし、家に招き入れられるところで物語は幕を閉じる。

引用:キッド (1921年の映画)|Wikipedia

感動的なチャップリンと子供の物語は、これまでの喜劇作品とは大きく違っていた。放浪者チャップリンは赤ん坊を引き取り、貧しい環境でたくましく育て上げる。子供が孤児院に連れていかれそうになったときは全てを投げ出す覚悟で奮闘し、何とか職員から引き離して、涙を流しながら子供を抱きしめる。

もはや、女性のために尽くすロマンチストな放浪紳士というよりも、子供想いの優しい父親だったのだ。

「キッド」にはチャップリンの幼少期や家庭環境、ハリスとの間に生まれ、わずか3日で亡くなった我が子への想いが詰まっていると考えられる。チャップリンは本作に対して、かなり思い入れがあったに違いない。


そして、「キッド」ではチャップリンの2番目の妻となるリタ・グレイが出演している。

「キッド」でのリタ・グレイとチャップリン

リタも前妻と同じく、チャップリンに大きな影響を及ぼした人物の一人となる。



ー続く



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?