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今日中にこれ食べてね

学生時代、母が長期入院していたことがあった。

母の入院中、そして退院後自宅療養するようになってからも、何も手伝おうとしない妹。家のこと一切は私が受け持つしかなく、遠くまで通っていた学校から帰宅後、私は目まぐるしく家事をしていた。

そんなとき、近所に住む母の友人がよく、「作ってきたから夕食にこれどうぞ」とおかずを大量に持って来てくれた。

決まって、私がぐったりとしながらもようやく夕食を作り終えたその頃に突然訪れ、「傷みやすいから今日中に食べてね」と言い残し。

母は「せっかく作ってきてくれたんだから、いただこうね」と感謝をするように私に言った。

私の作った料理は…どうなったんだっけ、思い出せないや。多分追いやられたから、今でもこんなに傷ついているのだろうけど。

母は、自分を思いやってくれる友人がうれしかったのだと思う。

でも私は? 私だって大変な思いをしながら、慣れない料理を頑張ってたのにね。

そんな思いなど知らず、持って来てくれた人は、自分は良いことをしたという気分で満たされてたんだろうな。

もう一人、時折夕食を差し入れてくれる近所の方がいた。

その方は必ず事前に電話をくれて、「今日は夕食の準備済んだ?」と聞いてくれた。

「あー、もう作ったんですよ」と話すと、「じゃあまたにするね」と言ってくれ、 「まだ何も取り掛かれてなくて」と話すと、「疲れてるでしょ、たくさん作ったのがあるから、もし良かったら持っていくけど、どうかな?」とこちらの意向を確認してくれていた。

私はその人から、本当の優しさと親切を学んだのだった。