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2020年を振り返る

2020年もたくさんの応援をいただきありがとうございました。年が始まった頃は、誰がこれ程まで混乱の年になると予想していたでしょうか。そんな中で、自分がどのように音楽シーンに携わることができたのか(或いはできなかったのか)、振り返ってみたいと思います。

1月

ありがたいことに、2020年で一番本番をいただいた月でした。
1月13日にはフランクフルト音楽・芸術大学にて、バッハのパルティータ第4番を初出し。

1月15日には、Bad Homburgという町でコンサートをさせていただきました。

2つの本番の裏では、1月18日にフランクフルト音大で行われる現代音楽アンサンブルのコンサート「Flexible Sounds」に向けて、準備が着々と進んでおりました。プログラムは、
Feldman : The Viola in My Life II
Boulez : Derive 1
Ronchetti : Opus 100
Rihm : Chiffre 2
特にロンケッティさん(フランクフルト音大の招待作曲家)の作品では、IEMA(アンサンブル・モデルン・アカデミー)の卒業生であるDiego Ramos Rodríguezさん、そしてアルディッティ弦楽四重奏団のLucas Felsさんとご一緒に、また作曲家ご本人とリハーサルができて、貴重な体験となりました。

1月27日にはバルトークのコントラストを、

1月28日にはベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第7番を演奏させていただき、怒涛のような1月、今考えれば、たくさんの演奏会に追われて幸せな時間、を過ごしました。

2月

上旬は、とあるコンクールの予備審査に出す録音のために、ハイドンのソナタを猛特訓…師匠フローリアン・ヘルシャーのもとで古典を勉強するときは、いつも自分の根本から変えなければならない気がします。
3月に予定されていた日本での2つの演奏会に向けての練習もしつつ、6月に予定されていたシュトックハウゼンのコンタクテのリハーサルが始まりました。

しかし、下旬あたりからあっという間に、「私たちの見えない敵」の気配が強くなってきました。

3月

3月に予定されていた3つの本番「7人の作曲家展vol.4"オトリウム"」「小倉美春コンサートシリーズ〜「ピアノのために書く」とは〜vol.2」「〜遊空間プロジェクト〜 vol.1 3台ピアノの可能性を探る」はそれぞれ延期。苦渋の決断でした。

演奏会に向けるはずだったエネルギーを持て余していた私が取り組んだのは、以前から作ってみたいと思っていた動画でした。前月試しに作った「リゲティの練習曲の練習方法」に続いて、

「譜読み動画」

「演奏家は本番中何を考えているのか」

「現代音楽の練習動画」

などを公開しました。思ったよりも皆さんの反応をいただけて、演奏会で直接交流することが叶わなかった当時の私にとっては、何よりの応援になったことを覚えています。

4月

ドイツはロックダウン、日本は緊急事態宣言という状況の中で、来たるべき演奏会に向けて、静かに譜読みを進めていきます。
世界の状況に心を痛めてから、初めて譜面に音を起こすことができたのもこの時期でした。メゾソプラノのための「Agnus Dei」書き始めてからはすっと、心の内が手から出てくるようでした。

また、篠村友輝哉さんの対談シリーズ「音楽人のことば」を公開していただいたのも4月でした。音楽シーンを見ることはこの先あるのだろうか、と不安な気持ちを抱えていたこの時期に、「それでも音楽は続いていく」という前提の下で、音楽について見つめ直すことができたのは、ありがたいことでした。

5月

5月も、本来なら3つ本番の予定でした。5月2日エッセンでのリサイタル(シェーンベルクop23、シューベルトD784、ベートーヴェンop101)、中旬アントワープでの向井響さんピアノ協奏曲、5月31日河村絢音さん渡辺繁弥さんとのトリオでコンサート(ミヨー、ストラヴィンスキー兵士の物語、バルトークコントラストetc)どのプログラムも心から楽しみにしていたのですが、残念ながら延期或いは中止となりました…

引き続き動画活動の一環として、「#おうちでリゲティ」を始めたのもこの時期です。リゲティの練習曲から一場面を抜粋、字幕での解説をつけるこのシリーズ、まだの方はぜひご覧ください。

5月17日には、サティの誕生日を記念して、『ヴェクサシオン』を840回、世界124人!のピアニストでリレーするプロジェクトに参加させていただきました。オンライン越しとはいえ、久しぶりに人前に自分の演奏をお届けできて、緊張しながらも嬉しかったことを思い出します。下記のリンクからアーカイブ動画がご覧いただけますので、ぜひ(私は326回目からの登場です)。

作曲の方は、わたなべゆきこさんが主宰する「仮想音楽家レジデンス・アカデミー」のために、小さい作品を1つ。ソプラノ、ピアノ、テープのための「p( )ay」は、祈りには欠かせない文句「父と子と聖霊のみ名によって、アーメン」をテキストとして書かれました。祈りを神に届ける際の言葉であり、本来なら同じ空間でアンサンブルするはずの2人の音楽家を結び付ける、唯一の拠り所として、この文言は扱われています。薬師寺典子さんと大瀧拓哉さんの素晴らしい演奏でどうぞ。

6月

6月も3つの本番が予定されていました。6月7日フランクフルト音大でのシュトックハウゼン コンタクテの夕べ、6月12日桐朋学園大学作曲作品展(拙作『Credo』初演)、6月20日フランクフルト音大での「Flexible Sounds」第2回目。特にコンタクテの夕べは、ピアノ&打楽器バージョンを2回演奏、間にエレクトロのみのバージョンを挟むという、非常に面白いはずの試みだったので、そのまま立ち消えになってしまったのは残念無念…他の演奏会も延期へ。

さて、noteで少しずつ執筆を始めたのがこの頃です。ご挨拶の記事に加え、昔参加した2つの現代音楽講習会の記事(ダルムシュタット夏季現代音楽講習会シュトックハウゼン講習会)も思いの外反響をいただき、嬉しかったです。始めた当初はこれも書きたい!あれも書きたい!と題材はたくさんあったけれど、なかなか全てには追いついていない状況…それでも私が現代音楽を勉強し始めた頃、あったら良かっただろうな、と思う記事を書いていきたいです。

動画の方は、「#おうちでシュトックハウゼン」シリーズを始めました。シュトックハウゼンのピアノ曲IXに特化してお送りしましたが、2021年3月14日のピアノ曲全曲演奏会に向けて、他の作品も取り上げていきたいです。

また、「製本ライブ」なるものにも挑戦してみました。今さらっている作品を製本しながら、製本のコツ・その作品について、まったりお話していくものです。機会があればぜひ別の曲・別の製本方法でお送りしたり、「ダイナミクス別色塗りライブ」もお送りしたりしてみたいなと思っています。

7月

7月21日に行われる予定でした、フランクフルト音大での演奏会「Shortcuts」も延期になりました。イタリアの作曲家Marco Stroppaのソロ作品を準備していました。

演奏する本番の予定がしばらくなくなることとなったので、この月は久しぶりに作曲にどっぷり浸かりました。2017年に作曲したピアノソロ、打楽器、弦楽オーケストラのための「Feu improvisé」を、ピアノ協奏曲「enflammé」に改編しました。作曲の喜びと苦しみを痛感した1ヶ月となりました。

8月

8月には、大学時代よりお世話になっている作曲家の中村匡寿さんの作品[ Minuet for Piano ]を演奏させていただきました。

9月

9月には、ようやくライブでの演奏会に復帰できました…!
9月13日には、アンサンブル・モデルンのトロンボーン奏者Uwe Dierksenさんの作曲した映画音楽を、IEMA(アンサンブル・モデルン・アカデミー)卒業生Diego Ramosさん・Nathan Wattsさん、フランクフルト・ムゼウム管弦楽団奏者Miguel Garcia Casasさんとご一緒させていただきました。

9月15日には、フランクフルト音大での演奏会「Shortcuts」にようやく出演できました。私の師匠フローリアン・ヘルシャーにとっても大事な作曲家Marco Stroppaの「Traiettoria...deviata」「Dialoghi」「Moai」を演奏させていただきました。これは師匠の作曲家なんだな、と壁を感じながらも必死に追いかけた準備期間。これからも大切にしていきたいレパートリーです。

その他、学内のオケでバルトーク「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」のピアノパートを勉強させていただきました。まるでピアノ協奏曲!何よりも勉強になったのは、オーケストラのために書くということがどんなことか、初めて実感できたことでした。

10月

10月24日には、ストックホルムで行われたMonopiano音楽祭にて、ピアノソロのための拙作「Labyrinthe」が再演されました。ピエール=ロラン・エマールさん繋がりで知り合ったJonas Olssonさんには、この曲を2回も再演していただいて、頭があがりません。彼の素晴らしい演奏をぜひご堪能ください。

また、学校が長期休暇だったこの時期を利用して、「7人の作曲家展」の告知動画作成をしていました。「7人の作曲家ならぬ6人の作曲家に聞いてみた」と題して、12月13日の延期公演に出品する作曲家たちにとある質問をして、6人6様の回答を一気にご覧いただけるシリーズです。個人的に見たいな、と思っていた動画を作っていたので、撮影中編集中もとても楽しかったです。コンサートが終わった今でもお楽しみいただける内容となっておりますので、よろしければぜひご覧ください。

作曲の方は、ソプラノとヴァイオリン、そしてピアノという編成で新曲に取り掛かりました。「なぜ天使は悪魔になったのか」というテーマで、ソプラノと弦楽四重奏のための拙作「Credo」の前に位置付けられるような作品です。初演の見通しは未だ立っていませんが、いつか必ず音出しできますように…!

11月

11月19日には、関係者のみの公演となった桐朋学園大学作曲作品展にて、ソプラノと弦楽四重奏のための「Credo」を初演していただきました。待ちに待った世界初演に携わってくださった素晴らしい奏者の皆さま( 岡崎陽香さん・吉村美智子さん・瀬川さくらさん・田原綾子さん・村松幸実さん・そして指揮の田邉皓さん)に心から感謝です。カトリックである自分に正面から向き合った作品、「これが私の曲です」と堂々と言える曲が初めて実現できて、忘れられない体験となりました。

12月

12月は、久しぶりに日本のお客様とお会いできました…!
12月13日の「7人の作曲家展vol.2"オトリウム"」では、拙作「Credo」を岡崎陽香さん、クァルテット・インテグラさん、田邉皓さんに再演していただいた他、後閑綾香さん「Pianist choreograph for dance」をダンサーの仁⽥晶凱さんと共に、向井響さん作曲、フルート、アンサンブル、電子音響のための「美少女革命: Σ」を、間部令子さん、若杉知怜さん、山本一輝さんと共に、初演させていただきました。どの作品も興味深く得難い体験でした。年明け早い段階で、演奏会の模様が配信される予定です。ぜひ、7人の作曲家展Twitterアカウントをフォローしていただいて、情報お見逃しなく!

また、12月26日には、待ちに待った自分のリサイタルを開催できました。実は2時間のフルプログラムは初めて、緊張もしましたが、お客様の心地良い雰囲気の中、無事最後まで駆け抜けることができました。演奏会の模様は、2021年1月11日まで、プログラムノートと共にお楽しみいただけます。

こう書き記してみると、難しい状況の中でも、ある程度コンスタントに何かを発信し続けることができたのは、良かったのかなと思います。そして、勿論発信したものを受け止めてくださったり、反応してくださったりした皆さまのお声が、励みになったことも忘れられません。

番外編【超独断・個人的面白Tweetベスト10】

ということで、1年分のTweetを見返しているときに面白いなと思った・或いはこれから掘り下げていきたいテーマだなと感じたものを、自分の記憶に留めるために勝手に!発表していきます。

10位~2位(順不同)

圧倒的第1位

2021年

2021年にはまず何と言っても!3月14日のシュトックハウゼンピアノ曲全曲演奏会が待っています。音楽人生の中で最も厳しい挑戦になるなと感じていますが、私をいつも導いてきてくれた作曲家が、今度はどんな世界に連れて行ってくれるのか、ワクワクでもあります。

本チラシ表

他にも、いくつか大きな本番の機会・作曲の機会をいただいております。お知らせできる日を楽しみに…♪

2021年は、演奏の本番で勉強させていただきながら、引き続き作曲やレパートリー開拓もしてきたいです。年々演奏と作曲の両立の難しさを実感していますが、良い形で、継続できたらと思っています。

2021年以降挑戦していきたいこととしては、3つほどあります。書いたら実行しなきゃ!となるので、書いていきたいと思います笑

1. 作曲家小倉美春としてのホームページを作る
わざわざ「挑戦」と銘打つほどでもないかもしれませんが…ありがたいことに作品や音源がある程度たまってきたので、より公にアクセスしやすい形で、まとめられたらと思います。

2. 新しいコンサートシリーズの企画
自分がホストとなって、とある演奏家の方(同世代?)をゲストで呼び、拙作を含めながら1時間、トークも交えつつ、私とその演奏家さんの音楽感が交錯する空間を作りたい。そんなコンサートシリーズのアイディアを思い付きました。どんな演奏家さんをお呼びしたいかなと考えたところ、もう20人くらいばっとお名前が…実現に向けて、少しずつ動いていきたいです。

3. オンラインレッスン
私が作曲を始めたとき、「作曲家はこんな風に楽譜を見ていたんだ」と驚きました。作曲と演奏両方学んできた私が何ができるかな、と考えたときに、「分析をどう演奏に役立てたらいいか」「楽譜の読み方」についてもっと知りたい方は多いのではないかと思いました。まだ具体的には決まっていませんが、将来的にそのような方面でのレッスンを提供できるように準備していけたらと思っています。

来年はどのような音楽シーンが繰り広げらるのでしょうか…どんなときも「ポジティブな」未来を向いて、自身の音楽活動に心砕いていきたいものです。

2020年も応援ありがとうございました。2021年もどうぞよろしくお願いいたします!

2021年12月31日 小倉美春

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