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サマヤと、三昧耶戒

真の密教行者であるために

月4回開催するツォク供養は、密教のサマヤを浄化する優れた方法でもあるわけですが、今回はそのサマヤについて、取り上げます。

密教行者のあるべき姿は「サマヤとはなにか?」を知ることで、より明確化します。とはいえこの記事は、すでに密門に入っておられる方々を批判するものではありません。あくまで蔵密行者としての私自身の立ち位置を確認するために、筆を進めたものです。

日本も少しずつ、チベット仏教の高僧が来日されて灌頂を授けていただく機会が増えてまいりましたが、同時に日本ではサマヤに対する心構えや知識がまだまだ必要なのは、痛感していました。

サマヤの理解をしっかりすることが、真の密教行者への一歩といえます。

内容の都合上、途中から有料記事にしました。サマヤの本質についてここまでまとめることができてひとまず安心していますが、サマヤと何の関係もない方は、無料部分だけで充分でしょう。

とはいえ有料部分に書けるのも、一般に入手できる情報以上のものはありません。踏み込んだ話はしていませんので、ご理解ください。

三律儀

二十年ほど前、チベットの先生から「三律儀ドムスム」の伝授と講義を受けたのは、今となっては懐かしい思い出です。何週間にもわたって先生のお宅に通い詰めて、講義を受けました。自分でも読み込んで、ドムスムに関する複数の注釈書を使って理解に努めました。

「三律儀」というと日本人には馴染みが薄いかもしれませんが、チベットの僧院では初期の段階で学習すべき典籍(お経)です。なぜならこれは大乗仏教徒にとって大切な、3種類の戒律(律儀)に関する説明だからです。

3種類とは、小乗仏教における「別解脱律儀戒」、大乗仏教における「菩薩戒」、そして密教(金剛乗)における「サマヤ戒(三昧耶戒)」です。チベットの各宗派で、多くの注釈書が存在します。

それぞれのじょうにおける約束事が、書かれています。3種類の戒律の伝統がすべて継承されているチベット仏教では、これを学ぶ必要があるのです。いわばこれは、私たち仏教徒にとってのルールブックです。

大乗仏教の菩薩戒を受ける前も、そして密教の灌頂を受ける前も、なまじ守れない誓約をしてしまわないよう、ドムスムを学んでおいたほうがいいわけです。

僧院大学の学長(博士)の私邸で、個人的な講義と伝授のひとコマ。
ネパールにて。撮影:気吹乃宮。

サマヤはいつ成立するか

サマヤとは、灌頂を受けたときに成立するものです。もっといえば、入壇し、導師を金剛阿闍梨とみなしたときに成立します。

言い方を換えれば、灌頂を受けたことのない人は、サマヤも成立しません。

灌頂にも、いろいろな種類があります。ご本尊とのご縁を結び、加持をいただく「結縁灌頂」「許可灌頂」といったものから、四灌頂(後述)がフルで組み込まれた正式な灌頂(大灌頂)まで。インドで成立・発展しただけあって、インド的な習慣や文化を色濃く残しています。

ですが『ニンティク・ヤシ』(四箇心髄)のようなゾクチェンの大灌頂になると、まったく雰囲気が一変します。「これは地球外生命体がもたらした文明に違いない」とすら感じるほどです。

それはともかく、密教の灌頂は典拠となるタントラ(密教経典)があり、タントラの分類によってサマヤも異なります。さらにその場で導師からアドバイスがあり、それも受法者は守らなければならないわけです。

結縁灌頂ならともかく、四灌頂がフルで組み込まれたより高度なタントラの灌頂になると、密教への正式な入門となり、サマヤも重大になります。

古訳派だと外密三乗・内密三乗のうち後者の一つ、大瑜伽マハーヨガタントラに属する「グヒャガルバ・タントラ」(幻化網秘密蔵タントラ)、新訳派だと無上瑜伽タントラに分類される「ヘーヴァジラ・タントラ」(喜金剛タントラ)や「サンヴァラ・タントラ」(勝楽タントラ)、「カーラチャクラ・タントラ」(時輪タントラ)などがこれに該当するでしょう。

ダライ・ラマ法王を導師として、観自在菩薩の結縁灌頂が執り行なわれるところ。
2018年、横浜にて。撮影:気吹乃宮。
台湾にて。ガルチェン・リンポチェによる阿弥陀仏の結縁灌頂。撮影:気吹乃宮。

欧米だけでなく、近年ではシンガポールや台湾、香港などでもチベットの導師を招聘して、結縁灌頂だけでなく、ハイクラスの灌頂が受法できる機会も多くなりました。

特に台湾では、年中どこかしらで灌頂が催されており、一般人でも何回・何十回と受法する機会があるわけです。もはや灌頂は、懐かしい法友が再会する「同窓会」と化しています。

参加者の中には初めてでサマヤがわからない人もおられるのでしょうが、そこは、台湾人が抱く信仰心の篤さがカバーしているように見受けられます。サマヤとは、信仰心の強さが最重要だからです。

しかし私のような日本人がそこに参加したらどうでしょう? もともと台湾人は信仰心も篤く、しかもサマヤについて中国語で何度もレクチャーを受けているわけで、すでにかなりの差が、そこに生じています。

さらにインドやネパールで執り行なわれる本場の灌頂は、基本的に僧侶向け(将来の仏教界を担う若き活仏・高僧向け)ですので、内容もハードルもさらに高くなります。よって私のような海外から来た凡夫は、先ほどの三律儀ドムスムを自主的に、事前に勉強していないと追いつかなくなるわけです。日本人が海外で灌頂を受ける際の注意点は、ここにあります。

大灌頂の休憩中、差し入れのバター茶を受法者に配ってくれる小僧さん。
カトマンドゥ(ネパール)にて。撮影:気吹乃宮。


私が皆さんにアドバイスできるとしたら、以下に尽きます:

密教の灌頂を受けたことのある人は、サマヤについて考え、できる限り浄化につとめましょう。

日本でもすでに多くの灌頂が執り行なわれましたので、サマヤという存在を忘れてしまっている方や、サマヤについてもう一度確認したいという方もおられるかもしれません。そういう方はもう一度、戒の本質に立ち返っていただいて、戒をリフレッシュして道を前進されることを願っています。

本稿では「三律儀」を引用したりしません。たとえばサマヤといっても前述の「グヒャガルバ・タントラ」では五つの根本誓句(新訳派でいう十四根本堕)、十の支分の誓句(新訳派でいう八支分の粗罪)と、依拠する密教経典によって項目も異なります。サマヤの詳細をお伝えすることは、それ自身がサマヤの破壊になりかねません。ここでは(主にゾンサル・ジャムヤン・ケンツェ師の)一般書籍からの引用で、サマヤの本質的な部分を確認したいと思います。

前半のまとめ

無料記事はここまでとなりますが、言いたいことは言えたように思います。今はサマヤを保持していないけど将来においてチベット仏教の灌頂を受法したいと望む方がおられたら、後半部分(有料記事)も参考になるかもしれません。

これはチベット仏教(密教)だけの特異性では、ありません。釈尊から連なる仏教のあり方なのだと、すべて書き終わってから改めて実感を深めたところです。

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