ガレージで / エッセイ
もうこれは随分前の話になるけれど、車を修理に出したガレージに、二人のバングラデシュ人の青年がいた。
当時は、日本ではあまり見かける事がないバングラデシュ人。彼らは職業訓練校に通っていて、研修で自動車整備会社に勤めている事との事だった。
少し好奇心もあって、僕はその晩、彼らを居酒屋に誘った。食事をしながら色んな話をした。宗教の話、日本文化の話、バングラデシュの話とか。
彼らはバングラデシュの戦災孤児で、仏教寺院の孤児施設で育ったとの事。その中でかなり優秀な頭脳を持っており、日本に来たのはとある篤志家の、いわゆる善意の援助によるものだと知った。
「でもですね、僕らは自動車整備を学びに来たはずではなかったんです。日本の大学で工学を学べるという話だったんだけど・・。」
「毎日の生活を管理されて、重苦しい毎日で、こんなだったら、貧しくてもバングラディッシュの方がずっといいです。」
返す言葉もなかった。
彼らを日本に呼んだ人物は、いわゆるいいことをしているつもりなのだとは思う。
しかし、それは独りよがりの善意であることは目に見えていた。どうせバングラデシュ人だから自動車整備でも学ばせておけばいいだろう、そう考えたのだろうか。
街の有力者が集まる場所へ二人を連れて行く。私はこんなにいい事をしていますと見せびらかすために。
地元のローカル新聞のちょっといい話の取材を受ける。私はこんなにいい事をしていますと見せびらかすために。
反吐が出そうだ。僕はこういう押しつけがましい善人が一番嫌いだ。
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