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寝れるカモミール 6

まぜそば屋さんの目は赤い。

その人の作る まぜそば に夢中になっています。
その人が作る まぜそば をできる限り毎日食べるために仕事の合間を縫ってジムに足繁く通い、栄養補完のために高いサプリを飲んでいます。もう食べるものは、まぜそばだけがいい。まぜそばだけで健康に生きていける体に進化したい。まぜそば専用体(マゼソバセンヨウタイ)になりたい。でも残念ながら何も気を使わずにまぜそばを食べ続けると病気になって、まぜそばを食べた次の日に膝に激痛が走ったりするそうです。生き地獄。

昼が高カロリーでも夜ご飯を調節したら健康的な感じがするので、昼ごはんに可能な限り毎日そのまぜそばを食べています。

仕事柄、ずっと家に籠っていて、尚且つ、かなり忙しいのでデリバリストゴーを使うことがほとんどです。でも週に1回は散歩がてらお店に行くようにしています。テイクアウト専門店なので、帰りは走って帰ります。なるべく崩れないように気をつけますが、どうせ混ぜるので。スピード重視です。

定休日は基本的に日曜日みたいですが、不定休なので月曜までお休みだったり、いきなり水曜休みだったりまちまちです。デリバリストゴーで注文できる=営業中と判断しています。少なくても週4日は営業していました。このお店を見つけたばかりの3年くらい前に1回だけ、1週間くらいお休みの日続きましたが、その時はお店の前に張り紙が貼ってありました。

ただ、今回は何かがおかしい。

もう10日間、まぜそばを食べてない。デリバリストゴーが準備中になっている。11日目の今日、デリバリストゴーでの配達を辞めたのかと思ってお店に来てみたけど、OPENの看板が出ていないし、張り紙も貼っていない。これはおかしい。目の赤いまぜそば屋さんに何かあったのでしょうか。思えば、こうなる1週間前から少し様子がおかしかった。まぜそばのトッピングで入っているピーナッツがマカデミアンナッツに変わっていました。カシューナッツならまだしも。マカデミアンナッツをまぜそばのトッピングにするとは珍しい試み、くらいにしか思っていませんでしたが、もうその時から何かおかしくなっていたのかもしれません。

目の赤いまぜそば屋さんの安否も気になりますが、正直、自分も参ってしまっています。

このまぜそば屋さんを見つけてから、ほぼ3年間、ずっとまぜそばを食べてきたわけです。心はまぜそば専用体、言うなれば、まぜそば専用心(マゼソバセンヨウシン)になっているわけです。もう何を食べても味がしない。他のお店のまぜそばや、汁なし坦々麺では満足できないどころか、あのまぜそばが恋しくなって涙が出る。人生で一番楽しいご飯を食べる時間なのに、悲しい涙を流している。どんどん心と舌が凍てついていく。もう、あの人が作るまぜそばを食べることができないのでしょうか。

お店の前から立ち去ることができない。

ちょっと見に来ただけのつもりだったのに足が動かない。看板が出ていないし、もちろんドアの鍵もかかっているだろうから、もう何もすることはできないのに。もう、この扉の向こうはスッカラカンかもしれない。この10日間の間に、撤退してしまった可能性も充分に考えられます。

あ。

今ここからお店に電話をかけてみてみようかな。厨房の見える位置に電話が鳴るのを見たことがある。今時珍しくFAXを受信していたのが印象的で覚えています。

もう人目は気にしていられない。勇気を出して、白いドアに耳をくっつけて、デリバリストゴーに載っているお店の番号に電話をかけてみる。中から音が聞こえれば、流石に撤退していない、し、もし、もうお店を閉めることにしたのだとしても、あの人がここに来る日があるはず。会えたところで何をしたいのかわからないけど、あのまぜそば屋さんにとても会いたい。まぜそばの恋しさがあの人に向かっている。辞める気なら説得したい。でもそれもよりも、多分きっと、ありがとうを伝えたい。

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