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寝れるカモミール 15

土踏まずには、小型GPSを貼り付けてある。
本当は足の甲までぐるっと包帯やテーピングテープを使って固定した方がいいけど、もしも、裸足になった時にバレないように、防水で密着度の高い絆創膏を使っている。これで足の裏を見ない限り、ここに仕込まれていることはわからない。

キーホルダーに見せかけた防犯ブザーもデニムパンツのベルトループにぶら下げて、防刃マフラーを首に巻いている。マフラーといっても、細くて薄い素材に見えるから4月の今ならさほど不自然じゃないだろう。あと、万が一、これは本当に万が一の時のために、用心するに越したことはないから、デニムジャケットの下に来たパーカーのポケットにピストルサイズのスタンガンを忍ばせてある。
なるべく身軽の方がいい。もしもの時は、身体から離れているものなんて奪われてしまうだけだから使い物にならない。

隣で歩く山は何やら大きいリュックを背負っている。

何が入っているのかはわからないけど、なんとなく想像はつく。
きっと山も経験と方法が私と違うだけでやっていることは同じだ。
さっきからまっすぐ前を見て歩いてはいるけれど、全身から不安が伝わってきている。

「リュック持とうか?」

「え?いいよ!なんで?」
「いや、私手ぶらだし」
「持ってもらったら私が手ぶらになっちゃう」

「まあでもなんか重そうだし」

「え?」

そう言って、驚いた顔、おそらくわざと誇張して作った驚いた顔のまま、山は右手をスウェットの下から出し、下に着ていた長袖のTシャツを肩まで捲ってから、力こぶを作って見せてきた。

「私、身長伸びただけじゃないから、筋肉も相当ついているから今は。多分今の私だったらライにも勝てるよ、力でなら。」

「昔も山に勝った記憶1回もないけど」

そもそも喧嘩なんてした覚えがない。口喧嘩くらいならしたこともあった気がするけど、それでも勝った記憶はない。

「うん、そもそも戦ったことないからね!とにかく私も力は強いってこと!だから大丈夫だからね!」

山が口角を上げただけの笑顔で言ってくる。さっきの誇張した驚き顔は、珍しく煽るノリみたいなことをやっているのかと思ったけど、単に緊張しすぎて表情管理がおかしくなっているだけのようだ。

「ありがと、安心だね」
「うん、任せて!まあ、でもさ、まあ、そんなに、だよね?きっとそんな怖い感じのことにはならないよね?きっと!だって、そもそも悪い人じゃない可能性高いよね?今わかっているその人の情報って?だって、ね?一応菓子折り持ってきたし」
「あ、そうだったの!気が使えなかった!」
「いや買って行くよって言えばよかった、なんかバームクーヘンにしちゃった、アールグレイ味が一番人気って言われたけど、カモミールティ配っている人にアールグレイ味配るのもなんかなって思って、プレーンにした」
「私も半分出すね」
「いや、いいいい、付き合わせてるのこっちだし」

正直、私が、カモミール配り人間に興味が沸きすぎて強引に会う約束を取り付けたけれど、山の中では私が山に付き合っている構図らしい。お人よし。もしマルチ系のやつだったら、格好のカモだぞ。

「あれ?ここかな?」

山が立ち止まるので、地図アプリを見てみると、ここらしい。普通の住宅地にあるちょっと古めのアパート。一階部分は車庫のようで、ここだとしたら2階?か、3階?だけど、普通の住宅にしか見えない。

「ここ、みたいだねえ」
「階段、登ってみる?あ、私が先に見てこようか」
「いや、ダメダメ、ちょっと電話してみるよ」

昨日の発信履歴から名刺にあった番号に電話をかけてみると、すぐに昨日と同じ声がした。

「お電話ありがとうございます。寝れるカモミールです。」
「あ、昨日電話した白田です。」
「あ〜どうも〜、あ、迷われました?」
「あ、そうなんです、地図に出たところに来たんですけど」
「あ〜〜ありがとうございます、ちょっと迎えに行くのでそこで待っててくださーい」
「わかりましたー」

慣れた感じだ。
きっといつも、電話が来たらこの住所を案内して、電話が来て迎えに行くという一連の流れがあるのだろう。

「あってた?」
「あ、迎えに来てくれるって」
「おお、そっか、わかった。私、多分顔わかるから任せて」

山は、そういってから背中に背負っていたリュックを前に回して、体を固くした。元から白い顔がさらに青ざめている気もする。なんて声をかければいいのかわからず、山の背中を少し摩っていると、階段から誰かが降りてくるのが見えた。薄いピンク色のロンTに白のロングパンツ。清潔そうな髪型だ。

「あの人?」
「あ、絶対そう」

山の背筋が伸びる。緊張が伝わってくる。なんとなく私も身構えて両手をジャケットのポケットに入れて、中で電話を握りしめる。

「あ〜どうも〜、白田さん?ですか?」
笑顔で近づいてきながらその人がいう。

「あーそうです〜初めまして」
「あ、おふたりだったんですね?」
「そうなんです〜友達の向井です、あ、大丈夫でした?」

山の苗字は、山崎だ。山は空気を読んで偽名を受け入れている。

「あれ?あなた、」

その人が、山崎改め向井を見つめる。

「間違っていたらごめんなさい。先に謝ります、すみません。あなた、えっと向井さん」
「はい」
「一度、お会いしたことありますよね?あの、そうそう、あのルカさんの、あの、まぜそばのお店で」


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