寝れるカモミール 10
絶対に泣いている。
幼馴染が母と腕を組んで真っ直ぐ前を見たまま泣きながらこっちに向かってくる。反射的に2人の元へ走る。
「え?なに?どうしたの?大丈夫?なに?」
「足、あいかわらず早いね(;;)」
「え?そうかな?え?大丈夫?」
「まあまあ、私ちょっと片付けたりしてくるから、お茶とかやってあげて」そう言って母は、家に入らず植物園へ戻って行った。
「公園行ってたの?」
「そう、久々に」
いつの間にか、山が泣き止んでいて安心する。
「そっか、全然変わってなかったでしょ、あ、まあ入って!こっちも全然変わってないから」
「お邪魔します」
「はーい」
「・・・あ、これ、懐かしい」
玄関に飾ってある中学校の卒業式で母と山と私の3人で撮った写真を見て山が言う。
「山は知らないだろうけど、中学卒業してからずっと飾ってあるよ、もう10年とか?」
「そっか」
「ほんと10年ぶりの再会が偶然とか、、あ、まあ座ってて!大広間で!変わってないしわかるよね?」
「うん多分」
「まあ、真っ直ぐいけば着く!なんか飲み物とかとってくるね」
「ありがとう」
「ごはんも用意したんだけど、リイさんとシタターンまだちょっとかかりそうだから!あ、お腹減ってる?」
「シタさんにも会えるんだ」
「もちろん、まだいるよ〜自分が家出てる間もずっと家のことやってくれてた!今、張り切ってお菓子焼いてる!お腹減ってる?」
「そっか」
「お腹減ってる?」
「あ、ごめんお腹は大丈夫」
「オッケー!」
キッチンに着くとシタターンがカップケーキをデコっている。
「山きたよん」
「あら、ほんとですか〜」
「顔見てくれば?続きやろうか?」
「いや〜これは作っちゃいます、なんか緊張しちゃう」
「・・・なんか、こっちも緊張してきたな」
さっき泣いたし。でも、えー嘘ーあんなに仲良しだったのにーと言いながら生クリームを絞っているシタターンが嬉しそうで、自然と自分の口角もあがる。
「飲み物、何がいいかな」
「全部もってといたら?お茶ワゴンそのまま持っていけますよ」
「ありがと」
「あ、ケトルはそこの、電源抜いても保温されるんでコンセントを」
「あー大丈夫!自分でやるから、ありがと」
上段にコーヒー豆、ドリッパー、何種類かの茶葉っぽいやつ、ケトル、ティーポットとマグカップとロンググラス、下段になんかお茶請けっぽいお菓子たちがいくつか乗った通称お茶ワゴンの空いてるところに冷蔵庫からテキトーに缶ジュースをいくつか取って乗せる、ミネラルウォーターと緑茶のペットボトルも載せておく。
山はお酒も飲んだりするんだろうか。大学とか大人になってから出来た友達だったらビールとか持ってくけど。まあ、一応、缶ビールとウイスキーも載せておく。氷と、炭酸も・・・。
「ねえ、これやりすぎじゃない?」
「ふふ、パーティみたいでいいじゃないですか〜、2人ともお酒も飲める年ですもんね〜」
そう言いながら、母が作ったサングリアも1本持たされて、大広間に向かう。
「お待たせ〜」
「わ、なんかすごい」
「ね〜、何人くるの?って感じだけど4人だから安心して、何飲む?」
「え、どうしよ」
「なんでもあるよ、お酒もあるし、ドリンクバーです」
山が立ち上がって、ワゴンを吟味している。
やっぱり山は背がかなり伸びた。自分もかなり背が高い方だから、首を少しも曲げずに目が合う人が久しい。
「山、かなり背伸びたよね」
「うん、20歳すぎても毎年伸びてた」
「え!すごい成長するじゃん!」
「うん、でもそれが怖くて、あんまご飯食べれなくなっちゃったりしてたんだけど」
「え、ごめん」
「あ、ごめん今は全然大丈夫!だし、あ、あの背が高いのが嫌とかじゃなくてね、なんかどこまでデカくなっちゃうんだって思ったらなんか怖くなっちゃった時期があって、あのだから、デカいのが嫌とかじゃないよ」
「ふふふふ、大丈夫だよ、今、身長同じくらいだもんね、リイさんなんてもっとデカい」
「2人に目線が近くなった自分にびっくりした」
「ね〜、巨人一家の仲間入りだよ〜」
前から家族みたいなもんだけど。は、流石にどう言ったとしても恥ずかしいから言わない。
「あれ?これ」
山が白い紙袋を手に取っている。
「あ、なんだろね、それ。なんかもらったやつかな?開けていいよ」
「これ、あれだ。絶対。」
「知ってるお菓子だった?」
「ライにまぜそば屋さんで会った日に、怪しい人に渡されたやつだ・・・」
「え?なに?」
「この袋、かなり高級な紙でできてて、普通この紙で手提げ袋作らないっていうか、そもそも紙質的に向いてなくて珍しすぎるから、多分絶対これ、そうだ。」
「え、紙?そうなんだ?え、怪しい人っていうのは?」
ただの白い紙袋にしか見えないけど。デザイン事務所であんな可愛い名刺とか作ってるから、そのあたり詳しいんだろう。それより怪しい人ってなんだ?全くついていけない。なんの話?置いてかないで。
「あの日からかも・・・」
「何が?」
「まぜそば屋さん!!」
背中も見えなくなった。
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