【詩】変わってく私を見ていて下さい

 私は、という語り始めからしてもう終わりの現象の一部なんですよ。そういうと自分のことをそうやってごまかさないで欲しい、といつも詰め寄られるんですが、こうやって体を捻りながらキスをして舌が絡めば、私は、そう今の現象の私は、きらきら流れるように欲情していて、肉体的でありながらただただ脱肉体的な興奮に走ってしまっている。こうやって空っぽに自分の中身を押し流すから私が私である理由なんてどうでもよくなって。生きるということは何かの理由が階層的な樹形構造をとることで成り立っているから、私、もう生きているなんていえませんよね。それ、終わりってことじゃないですか。何だかあなたが一番生きたいと思っているだろうときに、私は死に始めています。愛撫が進むとそれに合わせて私が消えていく。たとえ死ななくても、消えてしまえば、私ってもう終わりなんだから。
 私の視線が快楽から突きだした触角のように動いている。部屋をつくる人工物の集積がどんどん意味を失っていきます。画家はモノを意味ではなくて色や形や気配で捉えて表現することで世界の改変を行いますが、私の視界は単に総てを解体して既知と未知の境目をなくしてしまうだけ。ねえ、三つの点が逆三角形の頂点になって並んだだけで人はそこに人の顔を意味付けするっていいますよね。逆なんですよ。私、今、人の顔が人の顔にならないの。人の顔だけじゃなくて、周りのあらゆるものがもう意味あって作られたものじゃなくなってきているんだ。あなたの掌とわたしの皮膚との境界も分からない。あなたをあなたに私を私にするための輪郭線がうまくつながらない。こうして息を喘がせて排気している萬の言の葉だけがね、過去だか未来だかわからないけど、決して今ではない私の幻影を映し出しています。その言葉は私を見て私に祟ることだけができる私、つまりこの詩です。
 みんなまとめてようこそ。無機質の言葉に花乱れ咲く事物の総体へ。

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