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『Liberation Songs』全曲解説



はじめに

2024/4/28開催のM3春2024にて、所属バンドInferno Libertaの1stフルアルバム『Liberation Songs』を頒布いたしました。同時にBandcampBOOTHでもDL販売されております。

アルバムを作ってM3で頒布しよう、という話自体は誰ともなくごく自然にバンドのひとつの目標としていつの日か設定されていました。デモを作って歌詞書いて仮歌録ってライブで演奏して、というルーティンを繰り返してる内に「せっかくならちゃんと音源として完パケして出したいよね」みたいな話がミーティングで出て決まった感じです。
で、音源ならフルアルバムでCDっていう物理的な形にしたいよねどうせなら、っていうことまで自然と。2023年の12月頃にはもう具体的な話として走り出していた感があります。記憶違いでなければ。

そこから半年も掛からず本当にCDとして出来上がって皆さんのお手に取って頂ける事となり、人間やろうと思えば出来ない事はないもんだなと我ながら驚きもしましたし、自信にもなりました。一生懸命作ったのでまだお聴きでない方は是非お試しいただいたうえで感想とかくだされば幸いです。

アルバムタイトルは身代亜土夢考案。バンド名にLiberta(自由)が入っている所からLiberation(解放)という言葉をまず思いつき、単語ひとつじゃちょっと味気ないなと思ってSongsを付けた形です。仮タイトルのつもりで提案しつもりが代替案も出ずそのまま採用されちゃったんですが、後から考えたら俺の敬愛するハードコアバンド・マイナーリーグの楽曲にLiberation Songっていうのがあって、無意識にそこから持って来たケースも考えられますね。
これに限らずアルバムの楽曲の中で、いろんなバンドの真似みたいな事をやろうとしてはいるもののあまり再現出来てなくて結果的に別物になってるみたいな部分が俺のボーカルに関してはかなりあります。あーここはアレをやろうとしたのかな?っていろいろ考えながら聴いてもらうのもいいんじゃないでしょうか。

この記事ではそんなアルバムに収録された楽曲群に一曲ずつコメントしていこうと思います。と言っても身代亜土夢は歌詞とボーカル以外は基本メンバーに任せっきりなので、そういった目線での話になります。よろしくお願いいたします。

楽曲解説

01. Intro

tomo3ちゃんのリズムとこなーさんのベースによるアルバムの序章。
聴いていただければわかる通り、このバンドのサウンド面に関してまず特筆すべき点はこなーさんによる尋常ではない歪みを伴った超重低音ベースでしょう。ライブのリハーサルで音出しするとまず驚かれる程ですからね。
ひとつ覚えているのが、その時もライブのリハだったんですが誰も音出ししていないのに終始ホワイトノイズが「サーーー」って流れていてそれはこなーさんのベースの凄まじい歪みによるものなんですが。我々メンバーとしてはもうそういうもんだと思って特に何も気にしていなかったんですが、ライブの主催の方から「ずっとノイズ薄っすら出てるけど良いんですか…?」って初めて第三者によるツッコミが入って、初めて「ああそういえばそうですね」ってメンバー全員でなったのがちょっとおもしろかったなという思い出話。

02. Too Late To Cry

ギターとボーカルも入って本格的にアルバムがスタートする始まりの曲。確か実際にバンドとして初めて形になったのもこれだったと記憶しています。デモの段階でもうこのままの形で出来上がっていたので(これは他の曲もほとんどそう)、初めて聞いた時は「ああ俺マジでハードコアバンドやれるんだ」と思って凄い嬉しくなって、たぶん一晩かそこらで歌詞書いて仮歌録ったと思います。ただ初めに作った歌詞とボーカルは、タイトルのフレーズ自体はあったもののかなり違う感じで曲中に変な語りみたいなのまで入れたりしてました。で、メンバー全員に聴かせたところ若干変な空気感になったのを肌で感じて「あ、やばいハズしたわこれ」ってすぐ気付いて慌てて作り直したのがこの歌詞でした。

これを書いた事でこのバンドで歌詞を書く上でのスタンスが決まったような気がしていて。
身代亜土夢として個人のオリジナル楽曲や企画ものなんかで何曲か歌詞を書いていますが、その時はいくつかの基準やルールを自分の中で設けていて。それを満たしつつ後々残る「作品」としての体裁に整えながら、なおかつ自分の言いたい事をひり出すというある種のパズル感覚にも似た作り方をしています。なのでドツボにはまって時間が凄く掛かったものもありました。
一方このバンドでの作詞は敢えてその「自分ルール」を全部撤去して良い意味で「なんでもあり」にする事によって混沌感とライブ感を出す。更に明確な攻撃対象を設定してそこへ向けて歌う。自分の中ではそんなスタンスとして無意識にやっているように思います。基本日本語詞でありつつも固執せず英詞も普通に入ってたり、なんかやさぐれてたりするのもその一環ですね。

タイトルは「叫ぶには遅すぎる」という意味で、これは長い間遠回りしてやっと憧れのバンドが出来ることになった自分への皮肉と同時に、何かを叫んで訴えているつもりのいろんな人たちへのカウンターでもあります。後はTHE HIGH-LOWSのToo Late To Dieっていう曲のタイトルが元ネタだったり。終盤スローダウンしたパートの歌詞が言いたい事そのものであり全てですね。

03. インフェルノリベルタのテーマ

前曲とほぼ同時に書きました。
「勝手にテーマにするな」「別に下ネタ以外でも笑う」とメンバーからも大好評だったこの曲。まだ音以外のバンドの精神的な方向性を自分の中で決めあぐねていたのもあり、前曲をシリアス路線(別に今見るとそうでもない)と仮定した一方でこの曲はS.O.DやBBQ CHICKENS、UNDOWNやヌンチャクみたいな悪ふざけ路線の雛型として書いてみました。結果的に楽曲自体はどちらかというとシリアス、ライブでのMCは悪ふざけというバランスに落ち着いたのかなとなんとなく思います。
あとはやっぱりパンクバンドには「〇〇(バンド名)のテーマ」が必要だろうということで。「Theme of~」とかバンド名そのままをタイトルにっていう案も後から出たんですがそこは断固カタカナで!と我を通しました。

内容としては本当に音を聴きながら文字を当てはめていったらなんかこうなったとしか言いようがありません。最後なんで急にラブコメの話になってるのかっていうのも特に意味はなく、俺が昔から思っていることをこの際だから入れました。ラブコメとか恋愛物ってマジで「他にやることあるだろ」って思っちゃって全然没入できないんですよね。そういう曲です。

04. 歩幅

MVにもなっている、一応バンドの定番曲。これも随分早い段階からライブでやっている一曲です。
「人と人とがそう簡単に分かり合えるわけがない」という考えが基本的に頭の中にあります。分かり合えたと思ってもそれはその時たまたまその人と歩幅が合っているだけに過ぎず、歩幅なんてどうせすぐ変わるし行く先もそれぞれ違うんだから勘違いするなよ、と。そんな目線で書いてますね。
じゃあこのバンドも今たまたま歩幅が合ってるだけなのか?っていう事になると思いますが、個人的にはこんなにまとまりのないバンドもないんじゃないかって思います。つまり最初から歩幅なんて合ってない。それなのになんかやってる。そんなバンドだからやれることもあるんじゃないですかねって、他人事みたいに思います。

最後の三行に関しては、本音と建前もたまたまその時思ったことに過ぎずすぐに入れ替わったり、もしくはただの建前を本音だと自分で思い込んでたりもするよねっていう話です。
「判子をつく」という表現が自分は好きで、これは立川談志が『鼠穴』の枕で言っていた「人間所詮は全部なりゆきで、だけどなりゆきじゃおもしろくないから後から(結論を出した、決断したという)判を押している」という弁から採っています。
談志はそうやって人間の性質を別に断罪していたわけではなく、それすらもひっくるめてそれが人間というもんだと受け入れていたわけで、それこそが彼の言う「業の肯定」という事なんだと思っています。俺はやっぱり肯定なんかできないし、「勘違いすんなよ」と言わずにはいられないなあと思いますが。

05. 河流るる所以

こんなんでも昔は頭が良くて利口な子供だと言われていました。いろいろ期待されてもいたんだろうなあというのは今振り返れば分かるんですが。
まあガキの頃の優等生っぷりなんてそんなもんはその時だけの美徳で、なまじそうやって褒めそやされて生きて来た結果ろくな人間にもなれず、あれだけ褒めそやしてきた周りの人間も気が付けばどこか消えていなくなってるなんてのはよくある話で。
そんなののやるせなさをたぶん書こうとしたんだと思います。

終盤の三拍子パートはかなり飛び道具的で気に入っています。
河とか川って俺が書く時は実家のすぐ近くに流れている某川のことを思い浮かべて書いてます。別に綺麗な川でもなんでもなく、土手とかもろくに手入れもされないから草が伸び放題で、なんかいつも曇り空みたいな印象がある本当にしょうもない川なんですが。
あの川をしょっちゅう見ていたガキの頃は、本当にこのままどこにも行けずにつまらない人生をここで終えるんじゃないかと言い知れぬ不安に襲われたりしたもんです。川というのはそんなどこにも行けず何も出来なかった人間ひとりひとりの涙が集まって出来てるんじゃないかという、そんな妄想を歌詞にしています。

06. 黒国

『鬼太郎誕生ゲゲゲの謎』『ゴジラ-1.0』を立て続けに映画館で観た事で触発されて書いた記憶があります。どちらも終戦後まもなくという時代を題材に、日本という国が戦争という大義名分の下に何をやっていたのかという事を曝け出すような部分がありました。デモを聴いた時に軍艦に乗った兵隊に民衆が旗を振って見送っているモノクロの映像と冒頭の「レゾンデートルが聞いて呆れるぜ」というフレーズが頭に思い浮かんで、そこから一気に書き上げました。

別に反戦歌だとか右翼・左翼みたいな分かりやすいイデオロギーを振りかざすような歌ではないという事は、誤解されないように明記しておこうと思います。あの時代の実際の空気感なんて我々は知らないし、知る方法すらないわけですし。むしろこの令和の時代でも立場とかやり方が変わっただけで本質的には戦中と似たような事やろうとしてる連中っていますよね、という事を歌っているんだと思います。あと、俺はこの国が終わってるだなんて思わないし日本人で良かったと思ってます。

07. イデアと月

イントロのギターを聴いて、真っ暗な空に浮かんでいる満月を見上げている情景が頭に浮かんでそこからすぐ書けました。前曲もそうですが、自分のいくつかの作詞法の一つに曲を聴いて何か断片的な映像や情景が思いついてそれを膨らませて書くというものがあります。不思議な事にそんな書き方なのに後から読み返すと無意識のうちに意味を込めた詞になっていて、俺はこんな事を思っていたんだなと自分で自分に気付かされるような感覚があります。
これに関しては月って創作物の中だと割と良きものというか何かの象徴みたいな高尚なものとして扱われる事が常だと思うんですが、月側ももうそれを知っていてなんかドヤ顔してふんぞり返ってるように見える事があってそれがムカつくというよく分からないテーマになっています。そうやって自分の立ち位置とかそれに対する評価を知っていて、謙遜するどころか当然の事として受け止めて偉ぶっているような奴って恥知らずだよねという歌です。

タイトルには元ネタがあって、『超昂天使エスカレイヤー』という変身ヒロイン物のエロゲーです。敵怪人との戦闘に負けると普通にエロシーンに突入するわけですが、その時敵怪人がエロい事するのに邪魔が入らない都合のいい異次元空間を作り出すという流れがあって、それが『イデアの壁』っていうんですね。なんか語感が良いので拝借しました。

エロとハードコアは紙一重だ(適当)

08. 壊音

疾走感のあるこれぞハードコアという感じの楽曲。
個人的には「インフェルノリベルタのテーマ」のアナザーサイドというイメージで書きました。気に入らない奴の気に入らない本質を曝け出して引きずり出して、壁なんか全部ぶっ壊す。このバンドはそういうバンドなんだぞ、という感じで書き上げました。Let me down your face=引っ込んでろというフレーズが割と気に入ってます。いい意味であまり深い意味が無くすっきりした味わいの歌になったと思います。

09. 夏の葬列

ドラムのtomo3ちゃんが作曲した泣きの一曲。タイトルは最初から決まっていて、なおかつ中盤の叫びパート以外はきっちりとメロまで入っていたのでそこに当て嵌めるように作詞していきました。
「俺」は一度死のうとしたものの「お前」のおかげで思い留まって、それなのに「お前」は「俺」より先に死んでしまったという、珍しく明確なストーリーのある詞になりました。「俺」が後追いで死んで終わる案もあったんですが、なんだかんだで結局それはやめました。そんなことしなくても人間どうせいつか死ぬんだし、という事だと思います。

「どうせいつか死ぬ」という事は別に諦めや無常観ということではなく、むしろ凄いポジティブな考え方だと思っていて。どうせほっといてもみんな死ぬんだからわざわざ変な理由つけて自分から急いで死ぬとか馬鹿馬鹿しくない?って思うんですよね。飯食って時間が経てばそのうち自然にうんこしたくなるのに、空腹の状態で「早くうんこしなきゃ(義務感)」って焦ってるみたいな滑稽さすら感じるというか。
なので皆さん急いで死のうとするのはやめときましょう。バカみたいだから。

曲解説でうんことか書く必要ある?

10. FATALITY

曲タイトルは致死性とか事故死・災害死という意味ですが、そのままの意味ではなく洋物格ゲー『モータルコンバット』で決着が着いた時にグロい方法で相手を惨殺する演出システムの方から採りました。(例:相手の首を背骨・脊椎ごと引っこ抜く、肉体を真っ二つに裂いて内部の骨を露出させるetc)
ちなみに身代亜土夢はグロが大嫌いです。

アルバム中最長の演奏時間を誇り、その大半を正気ではないビートダウンに費やす曲構成。メンバー間でも鬼門扱いされ、演奏にも歌唱にも高カロリーを要するという問題の曲であります。
この曲で言いたい事は英詞部分の「何故この世界は致命的な欠陥を放置しているんだ?」に集約されていると思います。誰もそれを指摘せず見て見ぬ振りしているそんな世界より、そんな事を考えている俺の方が狂っているのか?そんな自意識の葛藤と言いましょうか。誰しもそんな経験はあるんじゃないかなと思ったりします。
俺と世界、本当にイカれてるのはどっちなんでしょうね?

11. Know your place

タイトルは「身の程を知れ」という意味で、俺の他者に対する怒りって結局この一言に帰結するんじゃないかなと思います。たいしたことない奴がまるでさも自分は主人公なんだ、とか代表者・代弁者・権力者・実力者なんだ、みたいな面して幅利かせてるのを見ると本当にこのフレーズが頭に浮かんで殺してやりたくなります。

アルバム通していろんな物事にケチつけてぼやいて来ましたが、この曲はその中でも明らかに名指し出来る実在の攻撃対象を想定して書きました。ちなみにその攻撃対象の名前がたまたまミーティングで話題に上がった時、この曲に関してそういう心持ちで書いたとメンバーにも白状しています。「そうだろうなとは思っていた」という反応でした。明らかにしたらいろんな意味で居場所が無くなりそうなので第三者への明言は一生しないと思います。いやまぁ完全にそこピンポイントというよりはそこも含めていくつかの対象が居るのと、そういうの関係なく普遍的な怒りを表した曲としても聴いてほしいというのもありますが。
身の程を知らない奴って本当にいちばん痛々しく歪んで見えるので、あまり身の丈を超えた言動はしないようにしたいですね。

12. Outro

余韻。ハードコアのアルバムで一曲ハードコアっぽくないのが入ってるのってなんかいいですよね。これ聴いたらもう一回頭から聴くのもありでしょう。


おわりに

気が付いたら凄い長い記事になってしまいました。こんな感じで実はいろんな事を考えながら作ったアルバムでした。俺は歌詞とボーカルのみでしたが、作曲した他のメンバーのサウンド面からの解説なんかも読んでみたい気はしますね。
そんなわけでいろんな思いが詰まった『Liberation Songs』、まだお聴きでない方は是非この解説を読みながら聴いてみてください。既に聴いてくれた方ももう一回聴いてみてください。
ありがとうございました。


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