あっちゃんと文通の話

新卒で入った会社の同期の、仲のいい友人だった。入社してすぐにあった東京での研修。ちっちゃいけどパワフルで美人な私の同期は、「いつか、あつし、どう?」って写メを見せてくれた。

東京には三週間、いる予定だった。

どんな流れでそうなったのか、覚えてないけれど。デートすることになった。

初めて会った彼は、写真より中性的な感じだった。それでいて、短パンから見える足元が意外と毛深くて、何故か警戒したのを覚えてる。

行ったのはたしかアジア料理の店だった。味は覚えてないけど、店内はアジアのにおいがして、向き合って座る彼は、笑顔が可愛かった。一瞬で好きになった。グローバルな感じの人で、おしゃれで、繊細な人だった。私の知る男の人は、アジア料理なんて好まない人ばかりだったから、びっくりした。私はおしゃれでもないし、田舎モンだから、気後れした。

あっちゃんって呼んでいいですか、って聞いて、そのあと、私は、大阪に配属された。

あっちゃんは学生時代からバンドをしていたらしい。そのCD送るね、って言ってくれた、冗談だと思っていたら本当に届いた。

あの頃はたしかラインがまだメジャーじゃなくて、わたしたちは電話番号のショートメールで連絡を取っていた。

もともと文通が趣味だった私、手紙で返事を書いた。そこから、文通がスタートした。

時代錯誤だと思ったけど、文通ができることが嬉しくて、そして、あっちゃんもお手紙、好きなんだろうなって分かって、それが嬉しくて、酔っていた。

家族のこと、好きな食べ物のこと。毎回なにを書こうか楽しみで仕方なくて。

オススメの映画、いろいろ教えてくれた。

あつし、って名前、いいなって思った。

ポストに封筒が入っていた時の喜び、私はいまだに忘れられない。封筒にはいつも、切手じゃなくて郵便局のシールが貼られていた。わざわざこの手紙、毎回、郵便局に持ち込んでいるんだな、可愛いなって思った。

彼は友人とルームシェアをしていた。私は、夏に、会いに行った。お洒落な人だったから、痩せたかったし、髪も切りたかったし、着ていく服がなかったけど、間に合わなかった。

彼はお洒落なパン屋さんと、喫茶店に連れて行ってくれて、おうちで美味しいごはんを作ってくれた。私は家に泊まらせてもらったけど、本当になんにもなかった。家にはおしゃれな音楽がずっと流れていて、私はどうしても、彼との温度差というか、気持ちが埋まらない気がして、しんどくなってきた。

品川駅まで送ってくれた。私はあっちゃん、付き合ってほしいって言った。彼は、すごく困った顔して、おそらく言葉を丁寧に選んだ末、ごめん、ってひとこと言った。私は、付き合うほど好きじゃないってことやんね?と彼を責めた。惨めで泣けてきた。あのときはあっちゃんを困らせることしか考えてなかった気がする。

大阪に帰ってきてしばらくして手紙が届いた。

私はすぐに開封できなくて、家の近くの喫茶店に行った。そこで手紙を読んで、ボロボロ泣いて、隣に座っていた女の子に、ものすごく凝視されたのを覚えている。彼は、賢い人だったから、付き合わないの、正解だったと思う。

あっちゃんは、今もお洒落な仕事をしてる。

お洒落な写真を撮って、外国にいて、きっと私とは住む世界が違ったんだろうなと思う。SNSで見つけたけど、ずっとフォローできずにいた。最近やっとフォローした。

あっちゃんの誕生日もずっと忘れられない。

文通のこと、思い出したら、鼻の奥がツーンとする。そんな感じ。

すごく魅力的な人だった。優しくて繊細だったけど、笑顔があどけなくて、好きだった。

あっちゃん、マルセイバターサンドのアイスがでたんよ。うちも、コーヒー好きなんよ。面白い本があったよ。

今でもたまに、あっちゃんに、手紙書きたくなる。

もっかい、どっかで会いたいな。

向き合って、座って、コーヒー飲んで、

またあの可愛い笑顔で笑ってほしい。

いつか

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