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異世界への移動方法と、スマホの持つ呪術道具としての力について

「コミック アース・スター」という漫画サイトがあります。

連載中の作品を見ると、ほとんどが異世界ものであるのに対して、一つだけ浮いているのが「ヤマノススメ」という、中学生女子が登山を楽しむ漫画。ほかの漫画と全然雰囲気が違います。

これは、もともと「アース・スター」では異世界ものに限らず多様な漫画を連載していたのが、ある時期に「アース・スター」運営が異世界ものに注力する方針とした結果だと思われます(2018年ごろと記憶しています)。この結果、当時連載していた異世界もの以外の漫画は相次いで終了してしまったのですが、「ヤマノススメ」はあまりにも人気が高かったために例外的に終了とならず、「アース・スター」が異世界もの一色になった現在も「ヤマノススメ」だけがそのまま残り続けているのです。

このように、ここ5年ほどは異世界ものは人気を保っていて、単なる流行というよりも一つのジャンルとして地位を確立したように思います。私個人は、基本的に異世界ものの新作は追いかけないことにしています。あまりにも似たような漫画が多すぎて、だんだん区別がつかなくなってきてしまったのです…。

異世界ものはここ10年間くらいの流行なのですが、それ以前には異世界ものは存在しなかったのかというと、全くそうではありません。ちょっとマイナーですが、「ファミコンまりクン」は主人公がテレビ画面に吸い込まれてゲームの世界を冒険する漫画ですし、それ以外にも「ファミコン風雲児」、またはゲームですと「ファミコンジャンプ」などゲームやフィクション世界の中に入り込むような作品は昭和の時代から無数に存在したと思います。

ただ、当時の「異世界もの」の多くがテレビのモニターを媒介として異世界とつながっていたのに対して、最近の「異世界もの」は、命を落としたり、または眠ったりすることで異世界に移動するタイプが多いという違いがあるように思います。そういえば、映画「リング」の貞子もモニターから這い出てきましたし、漫画「電影少女」でもビデオガールはモニターから飛び出てきました。かつてはモニターが異世界とこの世のインターフェイスとしてとらえられていたのです。

ビデオガール初登場シーン

これは、当時は動画を映せるモニターと言えばテレビまたは映画のスクリーンくらいしかなく、モニターサイズがそれなりに大きかったことが影響しているのでしょうか。スマホの液晶画面からは、とても1/1スケールの人間が出てこれるようには思えません。そのため、現代の異世界ものは、スクリーンを媒介せずに魂を直接異世界に移動させるタイプのものが多いのかもしれません。

もう一つ、現代に流行っているの催眠アプリものです。これは、18禁ジャンルのものが多いので、興味がなくて全く見たことのない方も多いかもしれません。スマホのアプリ画面をほかの人に見せることで、相手を催眠状態にして思い通りに相手を操るというものです。ネット上の広告で催眠アプリものの漫画に意図せずして遭遇した方も多いと思います。
一例として、Xで見つけた健全な催眠アプリ漫画を張ってみます。

催眠「アプリ」というからには、このジャンル自体はスマホがないと成り立ちません。それでは、スマホ以前には、このように「画面を見せて相手を自由に操る」ような話はなかったのかというと、こちらもそんなことはありません。いわゆる「サブリミナル」ものが相当します。
もっとも有名なのは「世にも奇妙な物語」の「サブリミナル」という話です。

ガムのコマーシャルの合間に、65歳以上の老人に対して自殺を促すようなサブリミナル動画を挿入して、人口過密を解決しようという物語です。当時はサブリミナル効果という言葉が一種の流行語となり、映画や広告でもサブリミナル広告を活用したとうたったものがいくつか発表されました。(例えば、映画「RAMPO」など)

サブリミナル物と催眠アプリものの最大の違いは、その手間にあります。サブリミナル物では、他の動画に人間が認識できないほど短い別の動画を挿入することで他人を操作するので、長い動画を見せる必要がある上に、命令したい内容に応じて動画を作り直さなければなりません。一方で、催眠アプリものは、(一般的には)短時間のアプリ動画を見せながら命令したいことを言う(または念じる)だけで済むので圧倒的にお手軽です。

これは、スマホが万能の呪術道具として認識されていることとも関連すると思います。かつてのテレビは受動的に見るためのものであり、テレビを能動的に操作して現実世界に影響を与えることはできませんでした。スマホ登場前のパソコンにはいくばくか現実に影響を与える能力がありましたが、当時はパソコンの通信性、携帯性に劣っていたこと、そして、IoTも進んでおらずネットワーク経由で操作できるものが少なかったことから、スマホほどの万能感はありませんでした。
一方でスマホは、かつて例がないほど個人とそれ以外の世界をシームレスにつなぐことができる道具として認識されるようになり、スマホにある種の万能感が付与されるようになった結果、催眠アプリものが流行したのだと思っています。

かなり昔の歌で、ミニモニの「ミニモニ。テレフォン!リンリンリン」を思い出します。

電話をかけましょう リンリンリン
パカパカ、電話パッカ リンリンリン

当時はガラケー最盛期。
この曲は子供向けにつくられたものですが、当時の子供が持つ、携帯電話に対するあこがれをうまくあらわした曲です。ただし、ここには電話で遠くの人と話ができるという楽しさはあるものの、スマホが持つような万能感は見られません。ガラケーもスマホも単なる通信機器だということには違いがないのですが、スマホが呪術道具としての圧倒的な力を得たことは、2010年代における世界の大きな変化なのだと思います。

カバー画像は、「催眠アプリ」で検索したらトップに表示されたアプリです。マジで催眠アプリが実在したとは…。

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