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今年の三冊(よそから転載)

わたしはもう10年以上、ある小規模な読書会に参加しています。
最近は参加者が減ってしまったのですが、私が昔試しに参加した他のいくつかの読書会と違って、異常に向上心にあふれているわけでもなく、だからといって読書そのものに興味がないわけでもなく、ちょうどよい空気感が気に入っています。
その読書会の参加者の方の一人が、毎年「今年の三冊」という企画を取りまとめてくださっています。これは、会員それぞれがその年に読んだ本の中から面白かった3冊と、来年読みたい本を3冊選ぶというものです。

せっかくなので、この企画向けに私が書いた文章を転載しておきます。長いです。(一部、他の会員の方の名前等が出てくるところは削除、編集等を行い、note向けに改行等々を修正しています)
今年読んだ本(漫画単行本除く)はだいたい80から90冊くらい?です。いろんな本を読みましたし、面白い本もそうでない本もありましたがいい暇つぶしにはなりました。


(以下、転載分です)

今年は、夏に突発性難聴にかかったのが最大の出来事でした。1/3の確率で完治、1/3の確率でいくらか改善、1/3の確率で全く回復せずとのことでしたが、即医者に行ってステロイド飲んだおかげかガチャに勝利しなんとか完治。対戦ありがとうございました。
例年と同様、小説と、小説以外の本、漫画をひとつずつ選んでみました。

『なめらかな世界と、その敵』 伴名練

自分で読書会の課題本に選んだ本なので自画自賛っぽくて恥ずかしいですが、今年読んだ小説のなかでは断トツの面白さでした。表題作「なめらかな世界と、その敵」については、予想以上の理屈っぽさに読書会の課題本としては失敗したかな?と思いつつも、私も理屈っぽい人間なので個人的にはとても楽しめました。一部の方を除いてあんまり評判の良くなかった「ゼロ年代の臨界点」も、古本屋でたまに見つける文学史の本を思い出して面白かったです(「翠橋相対死事」とか「九郎判官御一新始末」といった、架空のSF作品のタイトルも秀逸です)。
でも、やっぱり好みでいえば中二病設定盛り盛りの「美亜羽へ贈る拳銃」です。

そしてきみは読み始める。神冴実継と、北条美亜羽の恋物語を。
彼らが、いかに互いを愛し合わなかったかの物語を。

こういう恥ずかしい導入文も大好きですし、芝居っけたっぷりのセリフも大好きです。インプラントを注入する銃にWK(ウェディング・ナイフ)なんて名前を付けるセンスも大好きですし、なんとなく先の読めるどんでん返しも大好きです。結局は、私はこういう恥ずかしい雰囲気の話が好きなのだと思います。

『31歳ガン漂流』『32歳ガン漂流 エヴォリューション』『33歳ガン漂流ラスト・イグジット』 奥山貴宏

3冊あげてしまっていますが、シリーズものなのでどうかご容赦を…。東洋経済ONLINEというサイトの「ネットで故人の声を聴け」という記事で知って、古本屋から取り寄せて読んだ本です。著者の奥山貴宏は、ロックなどの音楽、映画、ガジェット系のライターでしたが、2002年12月、風邪をこじらせて入院した際にステージIII-bの肺がんが判明し、余命二年を宣告されました。
本書は、それから2005年4月に亡くなるまでの日記とブログ記事が掲載されています。ここで特徴的なのは、彼は秋田の実家に治療のために帰郷したりせず、またはホスピスに入って緩和治療を選んだりもせず、東京で一人暮らしを続けながらライター業を続けることを選択したことです。定期的に母親に東京まで通ってもらいサポートを受けつつ、入院中も映画を見て記事を書き、PHSによる定額通信サービス「AirH"」で原稿を提出する日々。そば屋やラーメン屋の新規開拓に余念がない姿には悲壮感はなく、ただ病気による肉体の苦しみを率直に受け止めているように見えました。

この日記は、そういう自分の内面に目を向けた感動系の闘病記とはまったく逆。
自分の内面、感情、「助かりたい」とか「死にたくない」とかそういったものは全部突き放し、可能な限り削除した上で書いている。
怒り、絶望、恐怖、悲しみ、そういう要素は全部オレ一人だけで楽しむためにとっておく。
勿体なくて、誰とも分かち合いたくない。
読者に悪いけど、全部オレ一人だけの領域。

もちろん、本人の心の内には様々な思いがあったのでしょうが、外に見える形でここまで泰然とした文章を残せるのは相当なものだと思いました。

『ずっと青春ぽいですよ』 矢寺圭太

2年間たった一人で高校のアイドル部を続けてきた部長の山田(男)は、3年目にして初めて2名の新入部員(男)を迎えて、ついに夢であったアイドルのプロデュースを始めようとします。クラスメイトの女子にアイドルにならないかと声をかけるものの面白がられるだけで相手にされず、いつの間にか自分たちが女装してアイドル活動をやることになる…というストーリーです。
女っ気のない男子高校生特有の仲の良さとか、アイドル活動を断った女子が面白半分にかかわってくることによる混乱とか、たしかによくわからない青春ぽさが感じられる漫画です。限られた時間にだけ許されたゆるい高校部活の雰囲気。私も昔こういうのにあこがれて写真部に所属したのですが、中途半端な進学校だったからみんな結構早く帰って勉強とか塾に忙しかったんだよな…。

 
その他印象に残った本たち
『回想のブライズヘッド』 イーヴリン・ウォー

1920年代にオックスフォードで学生時代を過ごした主人公が、幸運にも出会うことができた親友。その後、軍人となった主人公が第二次大戦中に宿舎として与えられたのが、偶然にも親友の生家であり、主人公が青春時代に一時期を過ごしたブライズヘッド城でした。
この親友は宗教と人生の折り合いがつかずにアルコールにおぼれてアフリカに沈み、その10年後に主人公と恋人関係となった親友の妹とは結婚直前でやはり宗教的な理由で別れることとなります。かつて若かった頃にはいつまでも続くと思われた美しい友情の日々、そして壮年時代には心が通じ合ったと思われた親友の妹との日々、それらはすべて消え去って二度と得られなくなるのです。
美しくセンチメンタルな筆致で、宗教的な観念を持つ者と持たざる者の相互理解が不可能なことが記されています。のちに、ウォー自身はこの作品を嫌ったそうですが、確かに皮肉屋のウォーの作品とは思えないほどの感情的な文章に思えました。


『ナチス狂気の内幕』 アルベール・シュペール

建築家としてヒトラーに気に入られ、のちに軍需相としてナチス政権の閣僚となったシュペールが獄中で書いた回想録です。ヒトラーの人間的魅力と、終末期におけるその破綻。退廃的な雰囲気。私も会社員していて失敗プロジェクトにかかわることが多い(というかほとんどがそう)のですが、ダメになるときは本当にこういう感じだよな…と身につまされてしまいました。
 

『まったく最近の探偵ときたら』 五十嵐正邦

週刊連載を二本同時でこなすという恐ろしい多作の漫画家さんによる、探偵ものギャグ漫画です。かつて高校生探偵として人気だった名雲桂一郎が、30歳を超え体が衰えてからの奮闘が描かれています。体の衰え早すぎないか?とも思いますが、毎回毎回面白いです。探偵っぽさはないですが。
 

来る2024年に読みたい本・作家
・先日梅田のハービスENTでやっていた古本フェアで、E.M.フォースターの短編集「天国行きの乗合馬車」「永遠の命」を購入しました。フォースターは会社入ってすぐのころに「インドへの道」を読んでいたく感動したのを覚えています。「ハワーズエンド」はあんまり好きではなかったのですが、この短編集は面白いといいなと思います。
(註:「天国行きの乗合馬車」は、この文章を書いた後、年内に読んでしまいました。)

・会社で私のかかわっているプロジェクトが非常にまずい状態となり、おとりつぶしの危機がついにやってきました。私の勤める会社はリストラの可能性は低いものの、どこに飛ばされるかは分かったものではないし、それまでにも相当不愉快な思いをすると予想されます。本屋さんで見つけた「誰も農業を知らない プロ農家だからわかる日本農業の未来」という本は、著者が船井総研から農家に転職した方だそうで、身の振り方の参考のためにちょっと読んでみようかな…と思っています。

・「深緋コンポート」の1巻がAmazonとかで電子書籍配信されてる!これはもともと同人漫画で、ニコニコ漫画で無料配信されていたもので。お金を払わず読むのが気の毒なほどのボリュームと質でした。体に腕や足を自由に移植することが普通である都市「クロプトホーク」を舞台にした物語。あんまりAmazon好きじゃないのですが、BOOK☆WALKERとかコミックシーモアは会員ではないので…。悩みます。あと続き早く出してほしいです。

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