僕の隠し事
僕は嘘をつくのが好きだ。どうしようもない、しょうもない嘘。すぐにバレてしまうし、バレるための、場を少し温めるだけのなんてことない嘘をつくのが好き。
バレるとかバレないとかじゃない、言った瞬間に「そんなわけないだろ」と分かる嘘は誰も傷つけないから特に好き。「チュートリアルの徳井が脱税で死刑になるらしい」という嘘は五本の指に入るくらいに好きだ。あのM-1グランプリで自転車のベルに固執していた色男が脱税していて、そのうえ裁判所で考え抜かれた末に死刑になるなんて面白すぎるから。脱税という概念がそもそも結構面白い。
反対に、ずっとつき続けることになる嘘や隠し事は大嫌いだ。というよりも苦手。胃が痛くなる。
性質上、ずっと続く嘘はバレない=少なくともリアリティのあるものだから、脱税で死刑みたいな突飛さがないせいでモノとしてみても面白くない。
番組やYouTuberがやるみたいな大掛かりなものであれば面白いかもしれないが、ただの一般人には長~く質の悪い嘘程度にしか成り得ない。面白くないものに自分の意識を長期間割くことになるし、バラしの瞬間も大抵笑いより驚きや怒りが勝ってしまうから、なんというかコスパが悪い。僕はその日暮らしの嘘を喰って生きていたい。
だから、最近の流行りである人狼ゲームやAmong Usは苦手だ。周りを疑ったり周りに疑われたりしながら、必死に嘘をついて、隠し事をして、シロを証明する。こんなもの現代の日本でやることじゃない。中世の王宮だ。地位や名声のために他人を落として、自分の立場を確固たるものにする。こんなことすんな。宇宙人狼じゃなくて脱税死刑をしよう。
他人に過剰な期待をされたくないし、自分の実力を実際のものよりも高く見られることを避けていたい。そう見られることは言い換えてしまえば長期間にわたって嘘をつくことになり、僕の美学的には一番苦手で面白くないものだからだ。
だから、自分の実情や得意・不得意なこと隠さないし、良いも悪いも全部インターネットに書く。変に虚栄を張ったりしたり卑下したりもしない。顔を一部分だけ隠すと実際のそれよりもカッコよく見られてしまうから、インターネットに顔を出す時はフルフェイスの目出し帽をかぶる。マスクで顔出しをすることは絶対に避け、もしそうなるなら顔を全部出す。
隠し事は何も得を生まない。仮に得をするとしても隠し事はしない。それが自分の中の信念だから。医療機関なんかに「今日のうんちはバナナ形でした」と報告するだけで1000円くらい貰えるとしても、僕は整然とした口振りで「コロコロうんちでした」と言うだろう。
しかし、そんな僕にも実は隠し事がたった一つある。まだ誰にも言っていない、自分だけが知っていること。ここまで1100文字も書いてきた自分の根幹を揺るがすような、たった一つの隠し事があるのだ。
アイドルならば大炎上、政治家であれば怒号が飛び交い、ちいかわであればワッ…!となるそんな隠し事。これを読んでいる皆様だけに大発表しようと思う。
それは、『僕は右耳よりも左耳の方が弱い』ということだ。
お気持ちは分かります。週刊誌に書かないでください、野党はヤジを入れないでください、ちいかわはトゲトゲのさすまたを持ってこないでください。
僕は皆さんご存知の通り毎日寝る前に耳舐めASMRを聴いていることでお馴染みだが、実は左耳を舐められている時の方が、右に比べて圧倒的に気持ち良いのだ。耳かきをされている時、左耳側で耳奥のマイクを突く「ゴリッ」という音が鳴った時の方がお得感を覚えるのだ。
音声作品の女の子は基本的に僕のことを知らない。当たり前だ。僕は大阪に住む21歳の男だが、相手は異世界に住む600歳エルフの女性だからだ。エルフは俺のことも、僕の耳の弱い方だって知らない。知ってるのはポーションの作り方と大きくなったちんちんの収め方くらいだろう。
そう、音声作品の女の子は僕のことを知らない。しかし、中には僕のことを知っている場合がある。
それは、右耳に比べて左耳を攻める割合が高い時だ。明らかに左耳にかける時間が長く、明らかに右耳よりもサービスが良い場合がある。
そんな時僕はこう思う。あぁ、これは間違いなく僕のことを知っている。僕が右耳に比べて左耳が弱いのを知っている。隠し事をせず、下手な嘘もつかない。そんな僕の唯一の隠し事である左耳の弱さを彼女は的確にリサーチしてきている。この子はエルフで耳が人間に比べて大きいから、耳小さき種族の耳事情程度なら簡単に耳に入ってくるのだろう、と。
僕が日頃Twitterで発信している妄想ツイートも知っているんだろう。
こんなツイートももちろん知っていて、ドキドキしながらその瞬間を待って居るんだろう。
僕自身、妄想ツイートを続ける姿勢はあるものの、冷静に考えて内容がキモすぎるので、このまま続けていると「女の子とこういったことがしたい」というツイートが原因で余計に女の子との関りが減っていくという皮肉な事実に気が付いて悩んでいるということも知っているんだろう。
異性との関りが無いことに飢えを感じすぎて、ついに裏垢を始めてしまったものの、裏垢をやっている女子は普通の女子に比べ“より”面食いで、顔を晒さず見せられる筋肉もない自分は、どれだけ気になった異性を見つけても雰囲気イケメンに大敗し、DMやリプライは当然のごとく無視されるという、考えてみれば当たり前の事実に気付いて3週間程度で泣きながらアカウントを辞めたことも知っているんだろう。
そもそも人間的な魅力がないうえに、ニートを自称する男はどこであっても異性と関わるなんて無理だという事実にも、エルフさんはもちろん気付いてるんだろう。それを知ったうえで左耳を優しく舐めてくれるんだろう。
エルフさん。時には僕のことを叱ってください。僕が見て見ぬふりを続けてきた怠慢な生活を。気付いてること、良い男になるために必要な全てを僕に教えてください。
そして、素晴らしい男に様変わりした際には改めて左耳を舐めてください。
さぁ、叱って! 叱ってエルフさん!
あぁ……、確かに……。
はい……はい……。そうですね、本当に……。
はい……。
こればかりは両耳が痛い……。
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