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VTuberは生き物とキャラクターの悪いところ取り

 生き物はいつか死ぬ。
 これは抗えない自然の摂理であり、頭では受け入れられなくとも身体はそれを否応無く受け入れてしまう。たとえ、仲の良い友人であろうと、恋焦がれる想い人であろうと、家族に等しいペットであろうと、時間やその他のエトセトラが命を奪うべく駆けてくる。

 そういった意味でいうと、キャラクターは不死である。
 生まれた時点で、生まれたにも関わらず命を持たない。そのうえ、世界中の記録・記憶から消えない限り概念としてこの世に留まり続ける。
 例えばそれがアニメのキャラクターで、物語の3話で命を奪われようと概念の彼女は消えず、創造主が新しいコンテンツを生み出してくれさえすれば命は続く。本編で頭がちぎれようが、公式がアニメージュで水着を着せればケロっとした顔ではしゃぐのである。
 唯一死に近い機会があるとするなら、それはそのキャラクターの創造主が彼女のコンテンツを作らなくなった時だろう。不人気だったりが理由で新しいビジュや情報が途絶える、それは生き物が息を引き取り動かなく、そして喋らなく(鳴かなく)なった時と同義なのではないかと思う。
 もしも、『特定のイラストレーターが特定のキャラクターを描いた場合のみ“そのキャラクター”として位置づけられる』という決まりがあったとしたら、イラストレーターが亡くなった場合、キャラクターも同時に死んだと言って差し支えないのかもしれない。しかし、実際のキャラクターはもっと柔軟性のある概念である。たとえ作者が死のうとも、キャラクター自身は生き続け、作者が遺した設定を駆使して創作をされるだろう。つまり、誰かがキャラクターのことを覚えてさえいれば、キャラクターは不死身なのである。

 そんな『死』を持つ生き物と、『死』を持たないキャラクターの丁度真ん中にいる存在。それがVTuberである。無粋なことを言えばVTuberの中身はごく普通の人間で、当たり前に生きて当たり前に死ぬ存在でありながら、設定やキービジュアルなどが存在するキャラクター的な面も持っている。
 VTuber。僕はこれを「生き物とキャラクターの悪いところ取りだ」と感じている。

 例えば芸能人。そこそこ人気がある中、やむを得ない事情により芸能界を引退。我々の見えるところから姿を消したとする。しかし、それは我々が観測しづらくなっただけであり、確実にこの世に存在し営みを続けているのある。そのうえ日本人は平均寿命が約80年もあるため、運が良ければ死ぬまでに街でバッタリ会える可能性もあるし、そうでなくともテレビから数十年越しに出演オファーがあったりするかもしれない。見えづらくなったとしても見えないわけではない。

 対してVTuberが引退した場合はどうだろうか。
 先述のキャラクター理論からすれば、キャラクターは世界中の記録・記憶から消えない限り概念としてこの世に留まり続ける実質的な不死であるため、キャラクター的な側面を持ち且つ二次創作も盛んなVTuberもまた不死であるという強みを持っていると考えられるのかもしれない。ただ、そうは言っても中身は人間である。いくらビジュアルがキャッチーな美少女であっても、中身は人間なのだ。死んだ人間が物言わぬように、活動を終えたVTuberで新たに言葉を伴った二次創作を行うのは、かなり違和感があるとしか言えない。人間が今まで行ってきた発言を基に新たな発言を創造する行為に関しては少なからず賛否があるだろう。
 反対に人間としての強みは『死』が在る代わりに“物質的に世に存在し続けること”だ。キャラクターと違って不人気でコンテンツが更新されなくなるといったこともない。たとえその姿を観測できずとも、その人が間違いなく営みをしていることで心を救われる人間も多くいるだろう。
 しかし、昨今のVTuberを見ていると1~3年ほどで引退を決める場合が多い。VTuberの中身は普通の人間であるため、再三言っている通り、引退をしても恐らく世界のどこかで普通に暮らしているだろう。しかし、それは中身の話であり、人間が着ぐるみを脱いだその瞬間から外見はたったの一つさえコンテンツが更新されなくなってしまう。いくら中身の人間が新たに発言をしようとも、外見の美少女は口をつぐんだままなのだ。すると、どうだろうか。人間の強みである“観測できずとも営んでいる”という部分が損なわれてしまう。

 VTuberが引退すると、人間の営みがキャラクター側に反映されないオフラインモードとなり、キャラクターの“創作で生き続ける”という面は自我のある人間が中にいたという部分が邪魔をする。
 こう考えると、お互いの要素がお互いの要素を打ち消し合ってしまい、結果としてVTuberは「2年で死ぬ人間」と「作品が終わると二次創作できなくなるキャラクター」の両方を持った恐ろしいモンスターになり得てしまうのだ。



 噂によると、死後も二次創作され続ける武将がいるらしい……。

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