見出し画像

舐められたい人

僕は人に舐められるのが好きだ。
といっても物理的に舐められるのが好きなのは耳だけで、ここで言う「舐められるのが好き」は“人間として舐められる”ということである。

僕は生まれた時から大変に生きるのがヘタクソで、手先は不器用だし、もちろん要領は悪いし、しかしそれでも人に喜んでもらおうとして突飛なユーモアを披露しては周りに避けられたりした。
自分では毎回最高の出来であると思っているバイトの面接も、実に10連敗に近い数字を叩き出したこともある。

そんな僕であっても、唯一虚勢を張って自分を大きく見せることができる場所がある。

それがインターネットだ。

インターネットでは自分が今まで行ってきた愚行や悪行を全て隠すことができるし、リアルでの対人関係や社会的地位など全てをフラットな状態にすることができる。
僕は最近いわゆる配信活動を行っていて、自分のエトセトラを話す機会が多くある。リアルが最悪で不格好な僕にとって、これは醜い自分を隠しクールで高身長な自分を演出する絶好の機会である。

しかし僕(169.6cm)は自分のダサさを全てインターネットで隠さず、むしろインターネットだからこそ公開することにしている。
その理由は当然、舐められるのが好きだからである。

人に舐められるのにはメリットがある。それは、親近感を覚えてもらいやすいということだ。
僕はゲームを主としている配信者にも関わらず、ゲームがかなりヘタクソだ。僕の肌感としては、どんな路線であろうとゲーム配信者には一定のゲームセンスと腕前が必要であると感じている。あまりにも下手の一辺倒だと配信に盛り上がりどころが生まれづらいからである。

そんなゲームの腕前がほぼ必須となっている現在のゲーム配信者界隈において、ポケモンレンジャーをプレイ序盤で「ムズい」という理由で本当に泣きながら売り払った男は生きていられない。
しかし、そんなカスのポケモンマスター配信者であっても、視聴者に舐められ親近感を覚えてもらうことで、僕という人間を好きになってもらえるのではないかと考えたのだ。

僕は自分の一切を取り繕わないことにしている。
前述した愚行も隠さないし、予定を一切立てられないことも公にし、包丁を持てないことも奨学金で奨学金を返していることも元カノにフラれた時の言葉さえも全てをインターネットに公開している。
そうすることで、視聴者は僕をおちょくることができるし、公になんとなくバカにしてもよい人間として見世物小屋に入ることができる。

その甲斐あって、現在僕の視聴者は概ね年下が多いにもかかわらず、配信のコメント欄は大体がタメ口になっている。
配信を積極的にするようになった一年前はもう少し僕を敬うようなコメントが多かったように思うが、ありがたいことに大体のコメント欄が僕のことを舐めている。うれしい話ですね。

僕は昔から、数値以上にステータスを高く見られるのが嫌いで、自分の能力の全てを公開していた。自分の良い部分も悪い部分も積極的に発信していた。
すると、僕は周りから舐められるようになっていた。自分から舐められにいこうとしたわけではなく、ただ見誤られるのが嫌で全てを公開していたら、自分のスペックが低かったせいで普通に周りから舐められるようになったのだ。

現在では段々とみんなが僕に期待しなくなっていってくれているおかげで、僕自身も変に何かを気負うことが少なくなり、何をやるにしてもすごく動きやすくなっている。

今年の頭に配信で立てた目標は何一つ達成できておらず、4か月前に募集した視聴者参加型の企画は一切動けていない。昨日は家で小麦粉をぶちまけてしまったし、今日はバイト先でストローをぶちまけてしまった。
コミュニケーションがヘタクソで人の気持ちが上手く理解できず、何かをやろうとして全部がから回る最悪の人間。

そんな僕に期待せず、しっかりと小バカにしてくれているおかげで、たまに少しだけスゴいことをやった時にみんながより褒めてくれるようになった。

しっかりと丁寧に周りから舐められやすいようにしておいたので、次はちょっとずつ周りから褒められの回数を増やしていきたいところ。
なので僕は、大多数の愛を持って僕を舐めてくれている人と、ほんのちょっとの僕に純粋に期待してくれている人のために少しだけ頑張ることとします。

もしも今後褒められが増えて、実際のところよりも周りから評価されるようになってしまったら、その時はエルフの女性に耳を舐められている様子を公開してバランスを取ることにします。乞うご期待。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?