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僕が愛したすべての君へ/君を愛したひとりの僕へ感想 分けて上映するなら単独で見ても鑑賞に堪える作品にしなければ

 僕が愛したすべての君へ(以下「僕愛」)→君を愛したひとりの僕へ(以下「君愛」)の順に見てきました。僕愛は1つの中でしっかりとテーマを重ねていて、単体でも十分楽しめるものでした。だが君愛、てめーはダメだ。
 以下、ネタバレや鑑賞していることを前提の内容を含みます。

僕愛のここがよかったよ

 こちらは離婚したお母さんについていく選択をした世界。所謂並行世界が観測されて実証されている世界観のなかで、その研究者として「今自分が愛している相手は本当に自分の世界の相手なのか」という疑問を都度持ちつつも、やがて「自分が愛するすべての相手を愛している」と気付いて充実した一生を終えていくのが僕愛でした。
 そういう意味では世界観を描き方や山場の持たせ方が丹念なんですね。
 まずは子供時代のパラレルシフトの経験、滝川さんとの出会いと滝川さんの悪戯でまたパラレルシフトとはどういうものかをさり気なく示して更に滝川さんを魅力的に描く。そして結婚、「殺されていない」並行世界からのオプショナルシフト、冒頭の老人時代へと繋がって、並行世界の滝川さんからの手紙でしっかりと何が起きているかを見せている。並行世界を観測するデバイスのおかげで「85も離れている世界」のように、数値化することで非常に身近かつ分かりやすく、そして面白く並行世界を描いているのもよかったですね。
 そしてこの映画が単体でも十分楽しめる最大の理由は、滝川さんからの手紙によって、最後の「名乗るほどでもありません」と言った人が誰かまで含めて、ぼんやりでも想像できるようになっているわけです。すべてを解説しないけど、すべてがなんとなくわかる手掛かりがある」そういう作品になっていると思います。
 あと、未来世界の技術とか世界の見せ方が楽しかったですね。

君愛のここがダメだよ

 翻って君愛です。こちらは離婚した父親について行った世界。
 父親が務める研究所の所長の娘・栞と出会いやがて恋仲となるも、事故によって栞の意識だけが分離して戻れなくなり、主人公はこれを解決するために一生を捧げるわけです。ですが、
 山がない。せいぜい栞との駆け落ち的パラレルシフトと栞の肉体の死くらいで、本当に山がない。僕愛から見たからかもしれませんが、所々「ああ、こういうことね」っていう気づきはあるのですよ。ただそれは僕愛を見ているからそう思わせるだけで、君愛単体で見た時にそれで面白いというわけでもない。
 こちらががっちり科学者サイドを描いているのに(だからこそかもしれないが)、並行世界について僕愛のようにキャッチ―に見せようというのもあまりなく、せいぜい最初の子供時代のパラレルシフトくらいです。あとは主人公と滝川さんとの会話でのみ並行世界が語られていて、なんとなーく台詞からわかりそうなんですが、「楽しんでわかる」みたいなのはちょっと薄いです。
 そして主人公が人生を捧げる物語だからしょうがないといえばしょうがないのですが、どの並行世界に行っても栞が交差点の幽霊になっているというのであれば、さらっとそれを語らせるのではなく、もっと「栞が交差点の幽霊になっていない世界を必死に探す」描写をしてもよかったですし、こちらの世界の滝川さんがアクアマリンの指輪を作るに至った描写をしたってよかった。むしろアクアマリンの指輪を作るのなんか、こちらの作品でしか描写できなかったはずですからね。
 また、僕愛側の主人公の半生を挿入歌に乗せてダイジェストにしたのもまったく意味がわかりませんでした。「君愛」の物語において、ほぼほぼ意味がないのに、僕愛側のネタ晴らしをされているようにしか思えませんでした。それだったら、「並行世界では主人公と結婚している滝川さん」を出しつつ、こちらの世界で結ばれなくとも奮闘する滝川さんを描けばいいのですが、その割に滝川さんの一つの思い入れである指輪の件とかはさらっとやってるんですよね。ただ君愛のヒロインがあくまで栞さんであることからすれば、あまり滝川さんサイドを色濃く描きにくいという難点もあったのかもしれません
 そう考えると、奮闘する主人公サイドを描くのもよかったけど、もっと栞さんを描いてもよかったんじゃなかったのかと。意識が分離する前は本当にかわいく描けていたのですが、その後ももう少し主人公との接点を増やして描けなかったのかな。そして最後も僕愛の主人公から描くんじゃなくて、「戻った」栞さんの側から描けば、もっと君愛側が膨らんだと思います。そして最大の不満は、ラストシーンで栞に向かって主人公が「結婚しよう」っていうところですかね。お前自分が栞に出会わない世界まで戻して栞を救いたかったんじゃねえのかよ。何いきなりプロポーズしてんだ。

演技および作画

 俳優を多めに使っている作品ですが、滝川さん演じる橋本愛さんは非常によかったと思います。学生時代から大人になるまでの声質の変化や、初対面時のつっけんどんな感じから次第に愛情を見せるまでの演技が非常によかったです。主人公は、うーん。僕愛の「感情がない」演技のときは気にならなかったのですが、君愛の感情的な演技のときはやや気になりますかね。水野美紀も嫌いな役者じゃないんですが、「研究所の所長」の割りには、専門用語をしゃべるときにたどたどしい感じが非常に気になりました。
 風景作画はかなりよかったと思います。先日大分行ったばかりの身には、昭和通り交差点とか府内城近くとか、面白かったです。人物作画は癖がかなりありますが、キメ部分は外さずにできていたんじゃないかとは思います(この辺は相当に好みが分かれそうな気はする)。

結び

 ということで、色々文句を垂れましたが、僕愛側だけ見れば十分楽しめると思います。そして僕愛→君愛で見ると、妙な消化不良が起こるように思いました。ひとつだけ見るなら「君愛だけ」はやめとけ、爽やかに見終えたいなら「僕愛→君愛」はやめとけ、というくらいですかね。でもやっぱり、「僕愛」は非常にいい出来だったと思います。

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