1時間だけのコールサイン、JOAF-FM

 2018年3月11日、愛媛県の南海放送ラジオで、AM放送(コールサインJOAF、1116kHz)とFM補完放送(91.7MHz・91.2MHz)で別々の番組が放送された。その際、FM補完放送では与えられる事の無い独自のコールサイン・JOAF-FMが付与された。その経緯と詳細について調査した。

 FM補完放送は、2014年度に法整備が行われ、災害発生時においても放送を継続出来るようAM放送を補完する目的で、AM放送と同内容をFM放送で行うものとして整備された。2023年5月現在、日本国内の民間AM放送事業者全てでFM補完放送は行われている。また2019年に北海道放送・STVラジオ・秋田放送を除く各民間AM放送事業者は、そのFM補完放送を2028年秋までに親局とする方針を出している。今回調査した南海放送の事例は、その「FMの親局化」の話が公に出る以前の出来事である。

 南海放送は、2014年12月1日にFM補完放送の本放送を開始、富山県の北日本放送と並び全国で一番早くFM補完放送の本放送を開始した。2018年2月9日、南海放送は「AM・FMで非サイマル(別番組)放送〜南海放送ラジオで全国初!~」と題したプレスリリースを出した。その一部を引用すると、

南海トラフ巨大地震など大災害時には、日常よりも多様で、大量の情報提供が必要となります。そうした住民ニーズに応えるひとつの可能性として、技術的対応も含めてAMとFMで異なる内容の番組を放送するケースを想定し、下記の放送を行います。

2018年2月9日付・南海放送プレスリリース
「AM・FMで非サイマル(別番組)放送 ~南海放送ラジオで全国初!~」

とある。放送日時は2018年3月11日(日)午後10時30分~11時30分、放送内容はAM放送が「Heisei earthquakes」(出演:永野彰子アナウンサー他)、FM放送が「妄想系防災特番『IF…もしも』」(出演:江刺伯洋アナウンサー他)。

 FM補完放送はその名の通り、AM放送を「補完」するものであり、その免許ではAM放送と異なる内容を放送する事が出来ない。つまり、AM放送とFM放送で別内容を放送したという事は、それに先立ち総務省に対し何らかの申請が行われていたはずである。その内容を「行政文書開示請求」の制度を使い、入手する事が出来た。

 コールサイン「JOAF-FM」の付与は、手続としては新たに無線局開設をするための無線局免許申請で行われるのでは無く、無線局変更申請で行われた。既にFM補完放送の免許は下りているので、それについて変更をする、という考え方である。南海放送が四国総合通信局に出した無線局変更申請の内容を見ると、無線局変更を必要とする理由としては、

RNB松山FMについて、一時的な対応として、RNB松山Rの放送と異なる内容の放送を行うため、RNB松山FMに対する識別信号の指定に係る指定事項の変更を希望します。

2018年2月2日付で、南海放送から四国総合通信局に提出された「無線局変更申請書」

としている。また、このAM・FM別内容放送を行う趣旨としては、

FM補完中継局は災害時に中波放送を補完する目的で開設されており、 中波放送とともに津波の到来予測及び避難に関する情報提供、並びに、被災後の避難所生活に必要な情報を途切れることなく提供することが求められています。 
近い将来、南海トラフを震源とする巨大地震の発生が確実視されていますが、ワイドFM (FM補完放送) の開始から約3年が経過した現在、愛媛県内のワイドFM対応受信機の普及が遅れている課題に直面しています。 
その問題点は次のとおりであると考えられることから、このたび中波放送とFM補完放送の別番組放送を行うことによってワイドFMの存在を広く周知することとします。 
・愛媛県民のワイドFMの認知度が低い。 
・従来のAM放送を聴取しているリスナーにとって、ワイドFMでなければならないという必然性に乏しい。 
・ラジオへの親しみが低い若年層を中心にした対策が必要である。

2018年2月2日付で、南海放送から四国総合通信局に提出された「無線局変更申請書」

としている。さらに、この一時的な対応の条件として、

(1)当社のFM補完中継局は、平成30年3月11日(日)22:30~23:30に限り、当社の中継放送局と異なる内容の放送を行います。
(2)(1)に関して、FM補完中継局が放送する内容は、災害に関するもののみとします。
(3)(1)に関して、FM補完中継局の放送には広告放送を含まないこととします。

2018年2月2日付で、南海放送から四国総合通信局に提出された「無線局変更申請書」

という厳格な制限を自ら付した上での申請となっている。これらの制限は、事前に南海放送と四国総合通信局との間で打ち合わせが行われた上での申請であるとは思われる。ただし、「ラジオへの親しみが低い若年層を中心にした対策」が、このAM・FM別内容放送で出来るものかどうかは、疑問の残るところではある。また、AM・FM別内容放送がこの1回のみしか行われていない(2023.5現在)というのも、この事を考える上で注目すべき点である。

 最終的に四国総合通信局から出された「無線局指定変更・変更許可通知書」には、

識別信号 JOAF-FM なんかいほうそうエフエム
備考 平成30年3月11日22時30分から23時30分までに限り、中波放送と異なる内容の放送を行うことができる
平成30年2月2日付の申請については、備考欄に記載の条件を付して、識別信号蘭に記載の通り指定を変更し、並びに変更を許可する。

2018年2月7日付で、四国総合通信局から南海放送に出された「無線局指定変更・変更許可通知書」

と表記されている。すなわち、JOAF-FMというコールサインが付与され有効であったのはわずか1時間という風に考えられる。放送局のコールサインにおいて、1時間だけ有効な物という事例は初めてであろう。
 今後、FM補完放送の親局化の際に、コールサイン付与がどのような法則性となるかは現時点では不明であるが、この南海放送の件が先例となり、現行AM放送のコールサインに「-FM」を付加したものとなる可能性は高いと思われる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?