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連立政権って何?



はじめに


 読者の皆さんは連立政権に関心を抱いたことはありますか?最近、連立政権に関する話題が多くなっています。例えば、自民党と公明党の間で衆議院議員選挙の区割りの変更に伴う選挙候補者の調整が難航し、2023年5月28日に公明党が連立を組む自民党との選挙協力に関して東京での解消を決定しました。(※2023年9月4日に自民・公明両党が合意し、東京における衆院選での選挙協力が復活しました。)
これによって自公の連立に亀裂が入るのではないかと大きな注目を集めました。また、2022年12月には国民民主党の連立政権入りが取り沙汰され、首相や国民民主党代表が否定する事態になりました。[5]・[6]・[8]
 多くの人にとって連立政権といえば自民党と公明党の連立政権を思い浮かべると思いますが、戦後政治を振り返れば様々な連立政権が誕生しています。しかし、連立を組まずともそれぞれの政策について協力し合うこともできるはずです。連立を組むと、閣議決定前には政党間で政策の調整が必ず必要になります。意思決定のスピードが遅くなるのになぜ連立を組む必要があるのでしょうか。本記事では、連立政権の歴史を振り返りながら、連立政権とは何かを考えていきます。



Ⅰ.連立政権とは


 連立政権には様々な定義の仕方がありますが、ここでは政治学者の議論を基に「連立政権」を"複数政党間の協力の形のひとつである"と考え、解説します。
 中央大学法学部教授の中北浩嗣氏は著書「自公政権とは何かー「連立」にみる強さの正体」(筑摩書房 2019年)で、「多党制の下では複数の政党間で合従連衡、すなわち連合が繰り返されるが、それには3つのレベルが存在する」とし、政党間の協力の形を3つに分けて説明しています。以下に「3つのレベル」を簡単にまとめました。[1]

  1. 選挙レベル…衆議院の小選挙区や参議院の一人区での候補者の調整や特定の候補者への支援が政党間で行われます。

  2. 国会レベル…日本の国会は法案や予算案の議決が過半数、衆議院の法案の再可決が3分の2で行われるなど数の力が大きいため国会で政党間で共闘が行われます。

  3. 政権レベル…複数の政党がそれぞれ閣僚を送り出し、国会だけでなく政権レベルで連合することを閣内協力といいます。この閣内協力を連立政権と言います。一方で、国会レベルでは連合するが政権レベルでは連合しない場合を閣外協力と言います。

Ⅱ.連立政権の歴史


 連立政権は戦後政治を振り返れば数多く見られます。終戦直後は少数政党が数多く存在したため政権を樹立するために連立が幾度となく行われました。ここでは少数政党が保守・革新(※1)の2つの軸で大きなかたまりとなり、戦後日本政治の骨格が出来たであろう1955年以降に着目し、連立政権の歴史を振り返ります。

(※1)保守…日本国憲法の改正に賛成し、再軍備を目指し、アメリカを中        心とする西側諸国との関係強化を目指す勢力
    革新…日本国憲法の改正に反対し、非武装中立を理念とし、ソ連を  中心とする東側諸国との関係強化を目指す勢力

 1955年に左派の社会党と右派の社会党(※2)が合流し、日本社会党(以下社会党)が結党され、同年に自由党と民主党が合流し、自由民主党(以下自民党)が結党されました。自民党はその後、1993年までのほとんどの期間で政権を単独で維持します。(※3) いわゆる55年体制です。しかし、1993年の総選挙で自民党が結党以降初めて単独での議席が半数を下回りました。ここで自民党1強の時代が終わり、非自民連立政権である細川政権が誕生しました。これ以降は連立政権の時代に入っていきます。現在の岸田政権に至るまで連立政権の変遷を以下に表でまとめました。[4]

(※2)社会党は、サンフランシスコ講和条約の調印に際し、西側諸国とだけの講和(片面講和)を主張した勢力(右派)と東側諸国も含めた講和(全面講和)を主張した勢力(左派)に分かれていました。[4]

(※3)なお、55年体制下(1955〜1993年)で自民党が連立を組んだ事例はあります。中曽根政権時の1983年に自民党が総選挙で議席を減らし、新自由クラブとの連立政権を樹立。自民党が総選挙で議席を大幅に増やすことになる1986年まで続いています。[4]

参考文献[2].[4] を基に筆者作成

Ⅲ.なぜ連立を組むのか~政治の安定を左右する参議院の存在~


 政党が連立を組むメリットは様々指摘されます。ここでは、日本において1990年代以降に連立政権が組まれるに至った最大の要因である「参議院で与党が単独で過半数の議席を占める難しさ」に着目し、なぜ連立を組むのかを考えます。
 
 日本は2院制であり衆議院と参議院が存在します。したがって衆議院で可決したとしても参議院で否決されると予算案や法案を円滑に成立させることができません。予算案や数多くの法案を国会の会期中に成立させることが必要になる与党にとって参議院で過半数を占めることは重要です。しかし、衆議院に比べて参議院は1つの政党が過半数を占めることが少ないのが特徴です。[3]
 参議院は3年ごとに半数ずつが改選されるため、過半数を占めるには選挙に2回連続で勝利することが最低条件です。また、与党にとって有利な時期に内閣が解散できるとされる衆議院とは違い3年に1度必ず選挙が実施されるため、政権の中間評価ともなる参議院選挙では与党が苦戦することが多く見られます。例えば、1989年には宇野政権、1998年には橋本政権が参院選での自民党大敗の責任をとり総辞職し、2007年の安倍政権も参院選の敗北が総辞職の要因になりました。また、2004年の小泉政権や2010年の菅政権時の参院選でも与党は議席を減らし、改選議席で第2党に転落しています。一方で近年は自民党が2013年の参院選以降4回連続で改選議席の第1党を維持しています。ただ、それでも自民党が参議院で改選議席と非改選議席をあわせて過半数に届いたのは2016年の第24回参院選時のみで、これが1989年以降1つの政党が参議院で過半数を占めた唯一の事例です。2023年現在は単独過半数を占める政党がないため、予算案や法案の円滑な成立・問責決議案の否決には参議院での複数政党間の連携が不可欠な状況です。[3]・[4]・[7]
 では、なぜ国会での連合のみに留まる閣外協力ではなく政権レベルで連合する閣内協力、すなわち連立政権である必要があるのでしょうか。先程も引用した中北氏の著書「自公政権とは何かー「連立」にみる強さの正体」によれば、連立に入る政党は閣僚ポストを獲得して与党になることで、政権の一員として政権に大きな責任を負うことになります。したがって連立に入れば、政権の失政は自党の責任に直結し、閣僚間で方針が異なれば閣内不一致となるため、連立入りした政党は連立与党と緊密に連携することが求められます。こうしたことから閣内協力は基本的に安定した政権運営につながるとされています。このように政権の安定的な運営が重要な与党にとっては、参議院で過半数を割り込む状況では連立を組むことに大きな意義があるのです。[1]

おわりに~自民党と公明党の対立の行方~


 これまで見てきたように、連立せずに政権を安定して運営することはもはや不可能になっています。そんな中、連立を組む自民党と公明党が選挙協力で対立し、それが政権レベルでの連合である連立に飛び火するのではないかと大きな話題になっています。実際に自民党内には公明党との連立を解消するべきなどの強硬論もでています。しかし、自民党は公明党の支持母体である創価学会からの支援を得ることで都市部を中心に接戦の選挙区で勝利し議席を得ることができます。また、参議院で公明党の協力を得ることで法案や予算案を円滑に成立させることができます。一方、公明党は、自民党の支援で比例票を上積みできる他に少数政党ながら閣僚ポストを得て、政策立案にも関与し、掲げる公約をより早く実現することができます。このように、国会の円滑な運営に欠かせない国会・政権レベルでの連合やその土台になる選挙協力は自公両党にとって大きなメリットになっているのです。こうしたことから、自民党と公明党の連立解消は回避されるであろうとの見方が大勢です。一方で、公明党や創価学会との調整役を担った政権幹部や自民党幹部らが政権や党の中枢から離れ、自公のベテラン議員が次々に引退するなど、政治家同士のパイプが細くなっていることから、今後も自民党と公明党のギクシャクした関係は続きそうです。[1]・[2]・[4]・[5]・[8]

参考文献

[1]中北浩嗣『自公政権とは何かー「連立」にみる強さの正体』筑摩書房 2019年
[2] 岩渕美克・岩崎正洋『日本の連立政権』八千代出版 2018年
[3]竹中治堅『参議院とは何か 1947~2010』中央公論新社 2010年
[4]石川真澄・山口二郎『戦後政治史』第4版 岩波書店 2021年
[5][https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230525/k10014077351000.html][accessd 2023-07-15]
[6][https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221202/k10013911591000.htm]
[accessd 2023-07-21]
[7][https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/sangiin/]
[accessd 2023-07-23]
[8][https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/99595.html]
[accessd 2023-07-23]






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