アクティブラーニング、ん?
多様な教育方法と、自己決定による選択
オランダにはさまざまな種類の学校があります。主言語で分けるのなら、オランダ語中心の現地校、英語をメインとするインターナショナルスクール、そして日本語で教える日本人学校です。もちろんそのほかの言語や文化の学校もありますが、上記三つがオランダで暮らす日本人の子どもたちが所属する主な学校になります。当然学校自体の数として最も多いのがオランダ語の学校で、通う日本の子は主にオランダに長く暮らす見通しのある子供が選択しているようです。オランダ現地校にはオランダ語メインの学校と、英語を半々(または部分的に)取り入れたバイリンガル校もあり、それらは公共・私立教育のものがあります。オランダ語の現地校は公私に関わらず国レベルでの質の保証が確保され、その中で学校により独自の教育システムを保持しています。オランダは周知の通り教育方式が多彩でいて、それらは長期的な専門家の研究を経て学習と発達への好評価を得ている各種オルタナティブ教育も含まれます。現地校については学費はかからず無償でどの子供にも自由な選択肢が開かれています。子供たちとその保護者は、学区に関わらず校風やシステムなど子供たちに合っていると考える学校を選択し通うことができます。
大抵はどの学校にいくことも大きな不安を抱えることなく選ぶことができます。その根底には、基本となる教育のシステムと、骨の髄まで、また細胞レベルまで染み込んだオランダ人の子供の教育へのこだわりがあるからです。
世界的に見てもオランダの子供たちが幸福度が高いと言われる所以に、学校の多様な形態を超えた確固たる教育と学習への信念があるように思えます。それは、切磋琢磨して探求する良い学校の仕組みであり、保護者との積極的協同参加であり、また選りすぐりの教育の方法です。そしてオランダのどの学校にも各々工夫して取り入れられている学習法の一つにアクティブラーニング法があります。
あえて言うまでもないほど浸透している、アクティブラーニング法
アクティブラーニングとはどんな学習法なのでしょうか。一言で言うなら積極的参加型探求学習でしょう。それに対して教師が教科書を元にして生徒に知識を伝達する学習を伝達型知識学習と言えるのかもしれません。前者は質的評価を重視し、後者は偏差値評価が可能です。アクティブラーニングは、クラスの中でそれぞれの科目ごとに活用され、さらに科目のユニットごと、またはトピックごとに実施することができます。主に3つの段階を経て生徒たちを自然に、また関心を引き寄せながら行います。これらは正式なものでなく、むしろ教育についての哲学と言えるような根の部分を共有する限りは教師の自由な裁量で実践されているように思えます。
1 先生の話を聞き基礎的知識の土台を作ります。その中に、生徒たちは自分たちで学びたいと思うトピックや、関心のある問題を見つけていきます。
2 自分の関心ごとを調べたり聞いたりしながら、深く深く掘り下げて自分なりの意見を導く準備をします。道筋を立てて、生徒同士、チーム、教師などと意見を議論していきます。
3 意見交換という共同作業を通じて導き出した自分なりの結論を他者に発表します。共同体としての活動の一つです。発表の仕方はさまざまですが、その一貫性とロジックは説得力のあるものが良い評価を与えられます。そのためには積極的に主体的に学習を進める必要があります。なぜなら他者の意見の写しや他人の言葉、また消極的参加ではすぐにその態度や曖昧さが周囲にわかり、自分の言葉を用いた説得力とは程遠い低評価の発表になってしまうからです。内容以外にも、時間的なオーガナイズ、他者の巻き込みなどのコミュニケーション能力も同時に育みます。
自ずと刺激される内的動機付け
実際に生徒たちには全てにおいて自己選択・自己決定権があるために、自然と内的動機づけが高まり楽しみながら学習します。そのために教師が1から10まで基礎的な知識を「教える」必要はなく、必要ならば自ら実践的に10を超えるほどに学んでいく仕組みになっています。
学びの過程では、早いうちから情報のソースをどこから取るかというメディリタラシーを学びます。そのため安易に手近な見栄えのいい情報をすぐに鵜呑みにすることなく、その情報源を精査しながらリサーチを重ねます。情報源は必ず手元に控えておくことも教えられます。これによりその情報を後から教師もクラスの生徒も追うことが可能になります。
メディアを安全に正しく扱うことはオランダの国家レベルでの教育のための戦略に含まれているようです。オランダ統計局(Central Bureau voor de Statistiek CBS)の報告によると、その目的のために子供たちは12歳にはすでに完成されたデジタルリタラシーを身につけ、価値のある正しい情報かどうかを精査する能力を身につけ熟達していると報告されています。実際に2019年の調査では、オランダの若者はヨーロッパにおいてデジタルリタラシーの能力が2位にランクされました。そうなるためには、それ以前の初等教育から積極的にITを活用した学習が行われています。初等教育のクラス内ではipadが普通に貸し出され活用されているのです。このため、コロナ感染拡大におけるリモート授業が学校に必要になった時も、「明日からの予定」と聞かされても多くの保護者は困惑することなくスムースに移行し、子供たちのHome Schooling(オンライン授業)をシンクロ(Live)・非シンクロ(Non Live)に移行することができました。
学びは社会にある問題から
また、学習のトピックは社会に直結した身近なものや、現在社会的な問題になっているものなどを扱います。
その中にはBlack Lives Matterなどの差別や、宗教問題、Covid-19、国際紛争、経済問題など現実的な社会的側面に向き合うものが多くあります。
実際のところ、オランダは移民の多い国であり、子供たちの教室には初等教育から高等教育まで当然に多様性に満ちています。さながら世界の縮図がクラス内にあるのです。世界がまさに紛争し合っている国々の子供たちが、ここでは一緒にシンプルに友達であり、なんの区別も差別もない立場として交わり意見を交わし合い学んでいるのです。上記のようなトピックを扱う上でデリケートな問題は常につきまとうのですが、それだけにしっかりと考えて自分たちの立場を明確にして意見を述べなければなりません。
実際、社会に出たらそれが現実です。そのために実践的に教室でもすでに多様性を恒常化し、尊重し、自分たちの視点や立ち位置を柔軟に移動する非認知能力を身につけ、他者の立場や気持ちを大切にしながら自らの意見を持つという訓練を受けていくのです。
実際、世界の歴史的出来事は、大概において多くの国でその学ぶ国によって立場が強調され言葉を巧みに操りながら事実を色づけて教えられています。たった一つの不変の出来事が教えられる立場によって内容が変わるのです。ですがアクティブラーニングのように知識の伝達ではなく、自ら問題の答えを探究し、自分の意見と立ち位置を見つけていく学習は異なる意見を寛容に受け入れる土台を作ります。物事の良し悪しを安易に決めたり、世界の見方を白黒に分断することをよしとしません。立場や見方が異なれば、理解も意見も異なる、そんな当たり前のことを学んでいくのです。歴史的事実は単に「文化と言語的に表現された記号」として文化心理学的にみるなら、自分の考えもまた他者の考えも一見異なる意見も根底には同じ価値観を共有していて、だからこそお互いを理解するためには違いを尊重することがどれほど重要であるかと気付かされるのです。
執筆 淵上美恵 (グローバルウエルビーイング代表、オランダ心理学会心理士、日本ビジネス心理師学会常任理事、学び&遊びを育てる会副代表)
参考記事
Education and Training Media Literacy and Safe use of new media , European Commission
辻井正 「幸せの小国オランダの子供が学ぶアクティブラーニングプロジェクト法」オクターブ(2018)
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