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柔肌の乙女

いばらの中をぜえぜえと歩いて、傷だらけになって動けなくなる。少し休んで傷が治ったら、また歩く。そうしていつしかいばらのない、平坦な道までやってきて、これでやっと安心だと思うと、些細なことでまた古い傷が開いて……。

人生の話。所謂トラウマや地雷が多くて苦労している。その存在に気がつくたびに苦しんで、なんとか受容しようとするけれどできない、ということを繰り返して、繰り返して、繰り返して、少し浅くなった傷もあれば、余計深くなったものもある。

もういい大人なのだから、生まれ育ちとか、過去の苦しさとか、そういうもののせいにするのをやめて、わたしの人生をわたしのものにしたい。そもそも過去のことに怒れるほどのエネルギーもないし……若いうちにしかないものだから。それは。少なくともわたしには。

でも、最近わたしにはショッキングな、無かったことにするためならば一切合切を捨ててやることもできるぐらいの出来事があって。わたしの人生の一切の苦しみがもしなかったら……わたしの人格形成に大きな負の影響を及ぼしたすべてのものがなかったら……こうはならなかったんじゃないか。そう思うと一気に何もかもが苦しくなって、ひどく恨めしくなる。

恨むエネルギーもないのに人生を恨もうとするとどうなるか。無気力になり、寝転がるほかに何もできなくなる。自分の人生を終わりにしたくなる。頭を殴られて地面に擦り付けられるような思いを何度しても、その度に前を向き直して生きてきたつもりだった。遥か先にある点のような光を信じてた……今は見失った。

実際には目が霞んでいるだけで、もう一度しっかりと目を凝らせばどこかにあるはずなのだから、諦めてはいけない。知ってる。でも見つからなかった時が怖くて地面から頭を上げられないままでいる。

地面から頭を上げられないままだけど、少しずつ体は動くようになってきた。実家に帰って家事をしたりして過ごしている。やることがあるというのは嬉しい。わたしの歩む先がずっと暗闇でも、歩いてきた道に血が滲んでいて、これから先ずっとずり這いでしか進めなくても、いつかすべてがよかったと言える未来を諦めたくない。

一切の光がない夜道は恐ろしいものだけれど、頭まですっぽり被った布団のくらやみはあたたかい。だから圧倒的な光なんかなくてもいい。たとえすべてが暗いままでも、わたしがそれでいいと言えたらそれでよくなるのだから、今からでも、なんの傷もないかのように振る舞うのだ。平気な顔をしていれば、すべすべと美しい柔肌の乙女に見える。

わたしはずっとそれを目指している。

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