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【小曽根真&ゲイリー・バートン】MAKOTO OZONE & GARY BURTON Duo Concert  2002年8月8日 光が丘IMAホール

MAKOTO OZONE & GARY BURTON Duo Concert
8/8/2002 19:10 – 21:00 IMA HALL (hikarigaoka,tokyo)

program
01 My Romance ( by Richard Rodgers ) from “face to face”1995
02 Soulful Bill ( by James Williams ) from “Whiz Kids”1986
03 Afro Blue ( by Ramon Santamaria ) from “For Hump, Red, Bags, and Cal”2001
04 Bug’s Groove ( by Milt Jackson ) from “For Hump, Red, Bags, and Cal”
05 Hole In The Wall ( by Red Norvo ) from “For Hump, Red, Bags, and Cal”
06 Opus Half ( by Benny Goodman) from “face to face”1995
07 Le Tombeau De Couperin - Prelude (by Maurice Ravel) from “Virtousi”2002
08 Sonata K.20 ( by Domenico Scarlatti) from“Virtousi”
09 Excursions Ⅰ, Opus 20 ( by Samuel Berber) from“Virtousi”
10 Prelude Ⅷ, Opus 32 ( by Sergei Rachmaninoff) from“Virtousi”
11 Milonga (by Jorge Cardoso) from “Virtousi”
12 Piano Concerto in F, Movement Ⅲ (by George Gershwin) from“Virtousi”
13 Bienvenidos al Monde ( by Makoto Ozone) from “So Many Colors”2001 &“Treasure”2002 as Encore
14 Times Like These ( by Makoto Ozone) from “face to face” as Encore

musicians
Makoto Ozone, piano
Gary Burton, Vibraphone

20020808_光が丘IMAホール_小曽根真&ゲイリーバートン_チラシ.pdf_ページ_1

2002年8月8日、東京光が丘のIMAホールは聴衆で満たされていた。われらが小曽根真とゲーリー・バートンのデュオコンサートである。アルバム“Virtousi”のリリースを記念しての今回のジャパンツアーは全国11カ所をまわる。これには、各地のジャズ・フェスティバルへの出演も含まれているが、今夜の光が丘は独立したライブコンサートであり、ふたりの演奏を心ゆくまで堪能できるに違いない。


住宅街のショッピングセンターの4階にあるIMAホールは、キャパシティが500人強の中規模ホールであり、ジャズのライブには程よい広さ。アンプを通さないアコースティックな音が楽しめる。ステージのセッティングは極めてシンプルで、中央にヴィヴラフォン、その左側にYAMAHA製のグランドピアノという具合。寒色系の壁とあいまって、始めはがらんと広い印象をうけた。この会場が音楽で満たされたとき、印象は一変するのではあるが…。


午後7時9分、聴衆の拍手の中ふたりが登場。長身のゲイリーは黒のシャツとパンツ、一方小曽根さんはTシャツに黒のパンツ、そしてジャケットといういでたちである。まずは恒例の小曽根さんのMCから。「今日は僕たちのコンサートにいらしていただいてありがとうございます。ゲイリーと僕とは、もう20年間も一緒に演奏しています。最初はバークリーで先生と生徒として出会ったんですが、今では僕にとって、おとうさん…と言ったら悪いから、お兄ちゃんのような存在です。バークリーの卒業間際に出会って、彼のツアーに参加させてもらって、随分鍛えられました。今では、真のミュージカル・パートナーであると言っていいと思います。世界一のヴィヴラフォンプレーヤーであると同時に、バークリーの副校長でもあり、グラミー賞を何回もとったすばらしいミュージシャンです」。小曽根さんのゲイリーに対するリスペクトと愛情のこもった言葉。本人を前にしての言葉だけに、切々と響いてくる。「では、まず指慣らしにスタンダードを一曲演奏します。」小曽根さんが、汗を拭くために持ってきたタオルをパタパタ、会場から笑い声が起こる。

01 My Romance
言わずと知れたロジャース&ハートの名曲。1995年のアルバム“face to face”に、ゲイリーと小曽根さんの競演が収録されている。演奏が始まったとたん、会場全体が柔らかなヴァイヴラフォンの音に満たされた。しかし、これが金属で出来た楽器(鉄琴)の音なのだろうか。全身が包み込まれるような気持ちさえする。しかも、音が豊かなのだ。ピアノとのデュオだということを完全に忘れ去るほどの、音の交響が出現したのである。ゲイリーのプレイはまさに芸術的。四本のマレットを指先で微妙にあやつり、主旋律を担いながらコードを演奏する。左足一本で全体重を支え、右足は常にペダルで音のゆらめきの強弱をコントロール。視線は常に盤面に落とし、理知的でかつ情熱的な演奏を見せてくれる。黒い上下を着ているせいか、僕にはしなやかな黒豹の肢体が連想された。飛びかからんばかりの情熱を、肉体のしなやかな動きが精巧にコントロールしているのだ。小曽根さんのピアノも、つられて楽しそうに歌い出す。いつもの小曽根節。一曲目から絶妙の掛け合いである。ヴァイヴからピアノへ、そして再びヴァイヴへとソロが回る。短いインプロヴィゼーションの応酬で小気味よくまとめられた聴衆へのインビテーションであった。


「暑いですね。」と小曽根さん。タオルで汗をぬぐう。酷暑なのである。この日の東京は、最高気温が35度を超えた。「二曲目は、ジェームズ・ウイリアムスというピアニストが、友人のトランペット奏者ビル・モブレイのために書いた『ソウルフル・ビル』という曲ををおおくりします」。

02 Soulful Bill
1986年にECMからリリースしたアルバム“Whiz Kids”からの一曲。このときのピアノは、二十代の小曽根さんだった。まずは、ふたりの歴史にぺこりと挨拶。メロディアスでソウルフルな美しい曲である。本来トランペットが吹く主旋律を、ヴィヴラフォンが優美に奏でる。マレットとペダルのコントロールで、高低強弱、実に多彩な表情を見せるこの楽器である。この曲でははやくもお茶目な小曽根節が顔を出す。このすばらしいケミストリーを体験するために、僕たちは今夜ここにいるのである。

「去年、ゲイリーは『グレート・ヴァイブス(For Hamp, Red, Bags ,and Cal)』という四人の偉大なヴァイヴ奏者に捧げるアルバムを出したんですけど、僕も何曲かアレンジさせてもらいました。その中から3曲聴いていただこうと思います。カル・ジェイダーという人は、ラテン音楽を取り入れて、いわゆるラテン・ジャズのスタイルをつくりあげた人なんですが、彼のレパートリーの中から『アフロ・ブルー』という曲(作曲はモンゴ・サンタマリア)を演奏します。」

03 Afro Blue
ゲイリーのヴィヴラフォンのソロから始まって、小曽根さんのクラッピングが加わってラテンのリズムに乗る。小曽根さんは、右足でペダルをコントロールしつつ、左足で床を踏みならしてリズムをとる。ヴァイヴとピアノだけでドラムスを加えたトリオのような音を出すのは見事としか言いようがない。小曽根さんのソロになると、不協和音を多用したピアノが歌い出す。ラテン巧者のふたりだけに、すばらしい演奏である。ゲイリーの顔は真っ赤。肌が白いから緊張と高揚感が見て取れるのだ。小曽根さんも汗をぬぐう。

「ゲイリーがよくライブの時に解説してくれるんですけど、ヴィヴラフォンという楽器は、1930年代に出来た新しい楽器で、考えてみるとまだ70年くらいの歴史しかないんですね。しかも、クラシックではほとんど使われないから、本当にジャズだけで使われる楽器なんです。その中ですばらしプレーヤーたちをうんできました。(ああ、息が切れる!)(笑)次の曲は、ミルト・ジャクソンのテーマ曲を演奏します。ブルースです。」渾身のプレイが続く。

04 Bug’s Groove
マイルス・デイビスの名曲中の名曲。小曽根さんのピアノに誘われてゲイリーのヴァイヴが主旋律を奏で始める。スインギーなブルースである。ヴァイヴという楽器の特性だろうが、都会的で洗練された音の構成である。ゲイリーのマレットはいよいよ冴えをみせ、緩急強弱を自在にサウンドをコントロールしてゆく。

「1930年代に活躍したレッド・ノーヴォという人がいます。この人が演奏した実際に演奏したのは、シロフォンと呼ばれる、つまり木琴だったようですが、現在のヴァイブの奏法を確立した人です。この人の『Hole In The Wall』を演奏します。『壁の穴』。なんかスパゲッティ屋さんのようなタイトルですね(笑)」

05 Hole In The Wall
ゲイリーと小曽根さんの笑顔がそのまま乗り移ったような楽しい曲。アルバムでは、ゲイリーがシロフォンを演奏しているが今夜はヴァイヴで。ヴァイヴが奏でるチャーミングなメロディに、ピアノのディキシー風の合いの手が入る。軽快でスインギーな風が吹いてくる。れっきとした暑気払いである。

「ライオネル・ハンプトンは、今94歳くらいで健在です。今も一年に一度くらいライブをやるというすごい人なんですが、彼は1930年代にサッチモと一緒にプレイし、さらに、『メモリーズ・オブ・ユー』で有名なベニー・グッドマンとも競演しました。ベニー・グッドマンは、ほとんど曲を書かなかった人なんですが、次の曲は珍しく彼のオリジナルです。あ、みなさん、ゲイリーがしゃべらないと思ってらっしゃると思いますけど、彼は今大阪弁を勉強中です。(笑)もうすぐゲイリー大阪弁のMCが聞けるかもしれません(笑)」ゲイリーは小曽根さんのMCをニコニコしながら聴いている。

06 Opus Half
この曲は、アルバム“face to face”から。のっけから早い、早い。ゲイリーも小曽根さんも超絶技巧でのかけあい。凄まじいまでのコラボレーションを見せる。ヴァイヴからピアノにソロが移ると、ゲイリーは自分の顔をタオルでぬぐい、そして小曽根さんのピアノに聞き惚れるという具合。成熟した関係である。小曽根さんは、リズムの桁はずしに挑戦しつつ、ペースを徐々にあげてゆく。そしてついに歌い出す小曽根真。ふたりのフルスロットに聴衆も応じてスイングしている。実に楽しい。

今夜は、インターバルを入れず、ライブは続く。

「さて、ここからは今年ゲイリーと一緒に出したアルバム“Virtousi”から何曲か聴いていただこうと思います。去年、ゲイリーとアメリカツアーをしていたとき、アリゾナ州のフェニックスという街でランチョンを食べてまして、その時ゲイリーが「まこと、この次はなにをやろうか?」と聞いてきたんですね。「で、最近はどんなことしてるの?」と問われて、僕がバーンスタインとか、クラシックに挑戦してるといったら、じゃ、クラシックをやってみようということになって、それで出来たのが“Virtousi”です。普通、クラシックの方は、一枚のCDにモーツアルトだけとか、ベートーベンだけとかいうことになるんですが、僕たちのCDはいろいろ入って2500円で食べ放題みたいな感じです(爆笑)。ではまず、ラヴェルのプレリュードから聴いてください」。

07 Le Tombeau De Couperin - Prelude
モーリス・ラヴェルの『クープランの墓』から「プレリュード」。ピアノでフランス音楽特有のエスプリに満ちた主題が演奏されはじめると、会場の雰囲気が変わる。小曽根さんの端正なクラシックの奏法で背筋がピンと伸びたかと思うと、サッとゲイリーのヴァイヴが入ってインプロバイズ。あとはからみつくような、ピアノとヴァイヴのかけあいである。ゲイリーのソロパートは、無駄をそぎ落としており、それゆえにひとつひとつの音が豊に立ち上がってくる。バイブの音色はクリスタルに輝いている。オーディエンスからブラボーの声があがる。

「スカラッティという人は、バッハと生まれ年が同じらしいんですが、一生のうちに約200曲のソナタを書いたんです。今日はその中から20番のソナタを演奏します。普通ソナタ形式というのは、Aの主題とBの主題をそれぞれ二回ずつ演奏するんですが、ジャズでは二回目をインプロヴァイズして演奏するんですね。ABABではなくて、僕たちはABCDEFという具合に…ほんとにどこまで行ってしまうかわかりませんが(笑)」。

08 Sonata K.20
バロック時代のシンプルでチャーミングな旋律が、ふたりのコラボレーションで思いっきりスイングをはじめるのがおもしろい。思いっきりスイングしても、バロック風にきちんと戻して言い収めるから、もっと痛快である。なんという巧みな構成の小品だろうか。

「バーバーという人は、アメリカの現代の作曲家で、皆さん知ってらっしゃるかもしれませんが、映画『プラトゥーン』の主題歌に代表曲「弦楽のためのアダージョ」が使われました。そのバーバーの「Excursions=遠足」という曲を演奏したいと思います」。この曲だけ、ゲイリーが譜面を用いる。難曲なのだろう。ゲイリーが譜面台をヴィヴラフォンの前にセットする。と、ゲイリーが小曽根さんに一言。なんと楽譜が一枚足りないらしい。ゲイリーが微笑みながら舞台の袖に下がる。「こういうことがあるんですねえ(笑)。こういう場面をテレビで放送するとおもしろいと思うんですが…(笑)。あ、もうお気付きかもしれませんが、今日はテレビカメラが入っていて、今日の演奏がNHKの『芸術劇場』で紹介されることになっています。まだ放送日ははっきりしていないようですが、是非ご覧になってください」。ゲイリーが、楽譜を持って再登場。拍手の中演奏が始まる。

09 Excursions Ⅰ, Opus 20
この曲には、もともとジャズの語法が十分にとりいれられているのであろう。不協和音が現代の憂愁を見事に歌い上げる。十分すぎるほどのアップテンポの曲を、ゲイリーは四本のマレットで緩急自在にコントロールしてゆく。モダン・クラシックな味付けはふたりの真骨頂である。「道に迷ったけれども、おやつは出てない」遠足なのである。

「次の曲はとても難しい曲です。七月とヨーロッパでツアーをした後、ゲイリーはボストン、僕はニューヨークに住んでいるんですが、スケジュールを調整して、日本に来る前に一緒に練習をしました。そのラフマニノフの『プレリュード』をおおくりします」。

10 Prelude Ⅷ, Opus 32
ふたりとも超絶技巧である。出だしから最後まで、とにかくフルスロットルで駆け抜ける二人。小曽根さんは、床をふみならしながら、リズムをとる。無数の音符の羅列が、会場全体を包み込む。聴衆は、あまりに華麗で情熱的なプレイに息をのむばかりである。一曲終了するごとに、ブラボーの声が高くなってゆくのがわかる。
「この曲はふたりでも大変な曲なんです。この曲が弾きたくてしかたがないようになると、きっとアシュケナージみたいになれると思うんですが…(笑)」。小曽根さんの楽しいMCが小気味よくプログラムを進行させてゆく。

「ゲイリーと一緒にツアーをまわっていると、彼から彼にまつわるストーリーをよく聴くんですが、僕の大好きな彼のストーリーをひとつ紹介します。ニューヨークでゲイリーがライブをしたとき、とてもホットなステージだったたんですが、演奏が終わった後ひとりのおじさんがゲイリーのところにやってこういったそうです。『あなたの今夜の演奏はすごかった!僕には片手に二本ずつマレットを持っているように見えたよ!』(会場爆笑)。でも実は僕には三本ずつに見えるんですけどね」。ゲイリーへの限りないリスペクト。そして愛に満ちたエピソードである。

「次はタンゴを演奏します。ゲイリーは、ビアソラへのトリビュートアルバムを出していて、僕も参加させてもらっていますが、今日の曲はもっとトラディショナルなタンゴです。ブラジルの歯医者さんが作曲しました。『ミロンガ』聴いてください」。

11 Milonga
小曽根さんのソロで何度も聴いたこの曲の凄まじい迫力は知っていたつもりだった。いつも、ピアノ一台でタンゴ・バンドに匹敵する音が立ち上がる名演だった。今夜は、ゲイリーのヴァイヴの音を得て、フル・オーケストラの趣である。小曽根さんの、ザクザクとしたバッキングがラテンのリズムを刻む。ピアノにまとわりつくヴァイヴの主旋律が、タンゴを踊る男と女を彷彿とさせてセクシー。ピアノとヴァイヴが主旋律を自然に交代して、タンゴの舞曲としての側面を思いっきり前面に出してくる。もちろん名演中の名演。オーディエンスの顔までも紅潮してきてしまう。ブラボー!

「いよいよ最後の曲になってしまいました。最後はガーシュインの『ピアノコンチェルト・イン・F』を演奏します。この曲は、ガーシュインが『ラブソディ・イン・ブルー』を書いた翌年に作曲された曲です」。

12 Piano Concerto in F, Movement Ⅲ
今夜はなめらかで信頼感に満ちたふたりのアイ・コンタクトも演目のひとつ。最後の曲は、小曽根さんもゲイリーも微笑んでいる。微笑みながらすごい演奏をする。ピアノの主題の提示から始まって、ヴァイヴ、そしてピアノへ。最後のピアノのソロパートは、思いっきり楽しくインプロビィゼーション。小曽根流デキシーランドがなんとも楽しい。最後は一気にフル・オーケストラとなり、エンディングまで駆け抜けた。割れんばかりの拍手が会場に響き渡る。午後8時36分。小曽根さんは「水を飲むのも忘れてた」とひとこと。休憩もなく12曲。凄まじいふたりのパワーである。

鳴りやまない拍手に、ふたりはすぐステージに戻ってきた。熱狂の渦である。


「今回のツアーは、7月にヨーロッパを回って、日本でも二三カ所でできればいいなと思っていたんですが、結局いろいろな所から来てくださいと言っていただいて、結局全国11カ所の公演になりました。今日が終わると、あと静岡・岡山・広島を残すのみです。ところで、今日はスペシャルゲストが来ています。ゲイリーの家族が今日本に来ているnですが、ゲイリーの息子さんを紹介します。サム!サム!」。会場中程に座っていた、ゲイリーの長身の息子さんがペコリ。「あとひとり、うちの大切な奥さん、神野三鈴をご紹介します。今、井上ひさしさんのお芝居に出ていて、昨日まで紀伊国屋サザンシアターでした。明日から水戸に行って、それからこのホールのすぐ近くですが、練馬文化ホールで追加公演があります」。ラブリーな三鈴さん。ステージ上も客席も一体となって、微笑みがあふれる。

13 Bienvenidos al Monde
アンコールは、いまや定番となったこの曲。今回のライブツアーならではの、ゲイリーとの掛け合いが聴ける。ヴァイヴの奏でる主旋律は、このまま消えてゆくのが惜しい。その愛惜の思いが、ますます会場を熱くさせるのだろう。おちゃめな小曽根節に彩られたこの曲が、ゲイリーによってよりエレガントに味付けされる。今夜のしめくくりにふさわしい名演であった。

アンコールが終わっても、鳴りやまない拍手。まだ帰らないぞというオーディエンスの迫力に負けて、ふたりがまたステージ上に。「やることあらへん」と小曽根さん。会場は爆笑。ゲイリーもニコニコ。こうして、アンコールの二曲目が始まった。

14 Times Like These
ふたりのデュオ・アルバム“face to face”から、小曽根さん作曲のこの曲。美しく透明で現代的な味付けの曲である。ピアノとヴァイヴの音が天上から降ってくる感じ。今夜のオリジナル・プログラムにはなかった、ふたりの別の魅力が全開になって、オーディエンスの心を豊かに満たしてゆく。あまりにも豪華な今夜のライブの締めくくりにふさわしい名演となった。

それにしても、約2時間で14曲を演奏しきったこのふたりの情熱は、いったいどこから来るのだろうか。昨年の“For Hump, Red, Bags, and Cal”で、ヴィヴィラフォン奏者としての来歴をたどったゲイリー・バートンと、最近リリースされたばかりの“Treasure”で、20年のジャズ・ピアニストとしての歴史をたどった小曽根真という、才能に溺れず真摯に音楽の歴史に立ち向かうふたりの天才の融合によってはじめて出来た希有な達成だという他はない。師弟関係にはじまり、最高の音楽的パートナーとなったふたりの20年間の歴史が、凄みと厚みとを加える。僕たちオーディエンスは、時として対話し、時として完全に融和してしまう二つの楽器の音色に酔い、ふたりの作り出す豊かで優美な音像に驚嘆するばかりであった。ライブの後半で演奏された“Virtousi”からの楽曲は、音楽のジャンルを超越しようとする優れたミュージシャンたちの未来であると同時に、ジャズの、音楽の、未来でもある。歴史認識のかけらもなく永遠の今を消費し尽くす現代の日本の音楽シーンの中にあって、僕たちが小曽根真の豊かな音楽を聴き続けていられることは奇跡に近いが、その小曽根が育まれた土壌にゲイリー・バートンが屹立している。ゲイリーなしには、現在の小曽根はいない、そういうことなのだろう。しかし、理屈はどうでもよい。僕たちは、彼らの音楽に身を浸していただけで、確かに幸福だった。僕はヴィヴラフォンという楽器を知っていたかもしれない。でも、出会ってはいなかったのだ。今夜ゲイリーの演奏を聴くまでは…。二人の偉大なミュージシャンに、心からの賛辞と感謝の気持ちを伝えたい。

1986年の“Whiz Kids”、1995年の“face to face”、2001年の“For Hump, Red, Bags, and Cal”、2002年の“Virtousi”、四枚のアルバムをフィーチャーした今回のライブであった。僕たちはもう次なるコラボレーションを待ちこがれているのではあるけれど…。

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附録
今回の小曽根さんとゲイリーさんのデュオツアーに関しては、各地からすてきなライブレポートとともに演奏された楽曲のリストが提供されました。すべてのライブに同行できない僕たちは、自分の聴いたコンサートの思い出とCDの音源、そしてソングリストを重ね合わせることで、あのすばらしい演奏を味わうことができるのではないかと思います。ツアーが終了した今、このままソングリストが消えてゆくのがさびしくもありますので、みなさんの書き込みをまとめてみました。福岡のRyoichiさん、光が丘のmid-west、岡山のたけちんさん、そして最終日広島のCherryさんの情報によるものです。みなさん、ありがとうございました。もし、僕が見逃したものがあったり、他のホールでのソングリストがおわかりなら是非知らせてください。

2002 MAKOTO OZONE & GARY BURTON Duo Concert SONG LISTS

8/6/2002 NAKAMA HERMONY HALL (Fukuoka) informant:Ryoichi
01 Monk’s Dream (by Thelonious Monk ) from “face to face”1995
02 Soulful Bill (by James Williams ) from “Whiz Kids”1986
03 Afro Blue (by Ramon Santamaria ) from “For Hump, Red, Bags, and Cal”2001
04 Bug’s Groove (by Milt Jackson ) from “For Hump, Red, Bags, and Cal”
05 Hole In The Wall (by Red Norvo ) from “For Hump, Red, Bags, and Cal”
06 Opus Half (by Benny Goodman) from “face to face”1995
07 Le Tombeau De Couperin - Prelude (by Maurice Ravel) from “Virtousi”2002
08 Sonata K.20 ( by Domenico Scarlatti) from“Virtousi”
09 Excursions Ⅰ, Opus 20 (by Samuel Berber) from“Virtousi”
10 Prelude Ⅷ, Opus 32 ( by Sergei Rachmaninoff) from“Virtousi”
11 Milonga (by Jorge Cardoso) from “Virtousi”
12 Piano Concerto in F, Movement Ⅲ (by George Gershwin) from“Virtousi”
13 Bienvenidos al Monde (by Makoto Ozone) from“So Many Colors”2001 &“Treasure”2002 as Encore

8/8/2002 HIKARIGAOKA IMA HALL (Tokyo) informant:mid-west
01 My Romance (by Richard Rodgers ) from “face to face”1995
02 Soulful Bill (by James Williams )
03 Afro Blue (by Ramon Santamaria )
04 Bug’s Groove (by Milt Jackson )
05 Hole In The Wall (by Red Norvo )
06 Opus Half (by Benny Goodman)
07 Le Tombeau De Couperin - Prelude (by Maurice Ravel)
08 Sonata K.20 ( by Domenico Scarlatti)
09 Excursions Ⅰ, Opus 20 (by Samuel Berber)
10 Prelude Ⅷ, Opus 32 ( by Sergei Rachmaninoff)
11 Milonga (by Jorge Cardoso)
12 Piano Concerto in F, Movement Ⅲ (by George Gershwin)
13 Bienvenidos al Monde (by Makoto Ozone) as Encore
14 Times Like These (by Makoto Ozone) from “face to face” as Encore

8/10/2002 OKAYAMA SYMPHONY HALL (Okayama) on OKAYAMA JAZZ FESTIVAL informant:takechin
01 Afro Blue (by Ramon Santamaria )
02 Bug’s Groove (by Milt Jackson )
03 Hole In The Wall (by Red Norvo )
04 Opus Half (by Benny Goodman)
05 Le Tombeau De Couperin – Prelude
06 Sonata K.20 ( by Domenico Scarlatti)
07 Milonga (by Jorge Cardoso)
08 Piano Concerto in F, Movement Ⅲ (by George Gershwin)
09 Bienvenidos al Monde (by Makoto Ozone) as Encore


8/11/2002 HATSUKAICHI BUNKA HALL “SAKURAPIA” (Hiroshima) informant:Cherry
01 Monk’s Dream (by Thelonious Monk )
02 Soulful Bill (by James Williams )
03 Afro Blue (by Ramon Santamaria )
04 Bug’s Groove (by Milt Jackson )
05 Hole In The Wall (by Red Norvo )
06 Opus Half (by Benny Goodman)
07 Le Tombeau De Couperin - Prelude (by Maurice Ravel)
08 Sonata K.20 ( by Domenico Scarlatti)
09 Excursions Ⅰ, Opus 20 (by Samuel Berber)
10 Prelude Ⅷ, Opus 32 ( by Sergei Rachmaninoff)
11 Milonga (by Jorge Cardoso)
12 Piano Concerto in F, Movement Ⅲ (by George Gershwin)
13 Bienvenidos al Monde (by Makoto Ozone) as Encore

musicians
Makoto Ozone, piano
Gary Burton, Vibraphone

チラシ提供 shiolly


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