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最強キックを考える。

electronic musicにおいてのキックは、カレーにおける米である。正確に言うと、ベースが米の中身で、キックは米の外側。形状や歯ごたえ、量感でカレーの美味しさを支える重要な要素だ。

米の炊き加減に好き嫌いがあるように、キックの好き嫌いも、個人によるところが大きい。自分がリスペクトしている米炊きの達人はMachineDrum。ぶん殴られるようなキック(個人的に角材キックと呼んでいる)から、紳士的かつ存在感のあるキックまで、実に心地よい(特にアルバム「A Veiw of U」)。というわけで、EDMの派手なキックではなく、この方面の最強キックを作る方法を考える。

1:モノラル

キックはモノラルにした方が良いという説がある。何度か試してみたが、中高域の質感が損なわれるように感じて、好きになれなかった。そもそも、クラブ鳴りを重視したTipsなのかもしれない。ただ、低域は広げない方が好ましいということにも気づいた(当然、例外はある)。しばらくは、WavesのCenterで低域を狭めていたのだが、脱Waves後は、代替プラグイン不在のまま放置していた。
2024年2月に、SoftubeからWidenerというプラグインが出た。低域のPanを狭める機能(Mono Bass)がついており、代替プラグインになった。Widenerを使って、低域をモノラルにする(その他のパラメータはオフ)というのは、想定外の使用法かもしれないが、重宝している。耳で聴きながら、周波数を調整するが、大体80~40Hz以下をモノラルにすることが多い。EQでサイドを切っても同じ効果が得られると思うが、専用機の便利さがある。

2:キック音源

キックの好き嫌いが明確であることを考えると、自前で数種類作ってしまえば良い。一度挑戦してみたが、アタック成分とボディー成分(シンプルなサイン波など)を混ぜて、一つの音に聴こえるようにすることが難しい。キックが米だなぁと思うのは、エフェクトをかけるほどに、歯ごたえが崩れていくこと。さらに、ベースとの兼ね合いで急に聴こえなくなったり、ピッチの具合で上モノに合わなかったりもする。曲作りをキックから始めると、うまくいかないことが多い理由はこのあたりにあるように思う。このことに気づいてから、素直にドラム音源か毎回サンプルを探して、使っている。

キック専用音源を色々とデモしてみたが、昔から使い続けているUVIのDrumDesigner(2が待たれる)を上回るものがない。キック専用ではなく、リズム音源なのだが、KickのEDITがBodyとToneそれぞれでできる上、両者同時にもできる。2つのアプローチで、肝となるDecayが自在にいじれる。electronic musicの一通りのジャンルの音が、多彩なリズムパターンとともに鳴らせるので、単音で聴くより音選びもしやすい。そして、最強の一番の理由は(UVI音源全般に言えることだが)存在感だ。立ち上がりの早さに由来していると思われるが、キックが埋もれにくい。

3:サンプル問題

サンプル素材のキックを使うこと場合、単音を並べるより、ループ素材を刻む(スネアを消したり、キックの位置を変えたり)ことが多い。ただ、その際に「もう少し迫力ほしい」とか「少し長さを短くしたい」という問題が出る。
トランジェントシェイパーのXLN audio「DS-10 Drum Shaper」でアタックや長さを調整して、OutputのThermal(最強サチュレーター)で迫力を出している。音が明るすぎる場合は、SoftubeのBritish Class Aで抑える。キャラクターのノブを「ー」方向にすると落ち着く。さらに、EQで太さも微調整する。ここまでエフェクトを重ねると大抵レベルオーバーするので、リミッターのUrsaDSPのBoostで止める。ここまで書くと分かってもらえると思うが、キックを少しいい塩梅にしたいだけで、かなり手間がかかる。それぞれのプラグインを行きつ戻りつすることもある。キック音源を使う場合でも、ベースを足したときに、再調整したいなぁと思うことがあるが、同じ行程を踏むことになる。

4:Plugins that Knock

KICK調整迷子となり、検索しているとオススメに上がってくるプラグインがある。それはPlugins that Knock「Knock」。上のような行程を1画面で行うことができる。そんな時にセール。早速、デモしてみようとしたが「現時点でデモ版はありません」というつれない状況。セールとはいえ、1万円は超えるので、外れたときのショックが計り知れない。
そもそも、このnoteを書き始めた理由が、「Knock」買うのか買わないのか、どっちなんだいということ。ここまで来ると、炊飯器に不満のあるカレー屋が、新製品の海外製炊飯器を買うか買わないかという問題なのだが、自分は趣味のカレーおじさんなので、即決はできず。迫りくるセール終了日の中、教典「サンレコ」掲載アーティストとエンジニアが勧めていたことを知り、光に導かれることになった。

5:Knock使用感

エフェクトプラグインは、最初に使ってみた印象がすべて。緊張の初手、音の変化が好印象で、賭けに勝った。ローカットとハイカットがついているので、Airで空気感を足しておいて、高域を少し切ったり、Subでローを盛って、超低域を少し削ったりなど、甘口ポークに2辛みたいなことができる。キックの量感は、低域のサイン波の足し具合が鍵なので、ここのピッチと長さを調整できるのが極めて便利だ。キックの調整のような微妙な作業が1画面でできるメリットを感じた。

6:結論

こうして、セール中の高級炊飯器を手に入れた訳だが、デモができないプラグインを買うことの難しさを痛感した。キックへのこだわりは、米が重要なelectronic musicを作るからで、メインディッシュ命の歌モノで、この炊飯器が有効かは分からない。DTM歴が長くなり、新しいプラグインを入れる機会も減っている。今回、キックの炊き具合という長年の課題が解決できた気がする。そう言って、また、キック迷子になるのだろうけれど。

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