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Jaye Kohyama 45th Anniversary Live in Tokyo


・それは嵐の中のパーティタイム

嵐が丘というエミリー・ブロンテの小説がある。ガラスの仮面で名作舞台として出てくる作品なのだが、そんな激しい愛の嵐を思わせるドラマチックな夜だった『Jaye Kohyama 45th Anniversary Live in Tokyo』。荒れ狂う天候、飛ぶ傘、銀座線から地上に出てきたときの「わぁ…これ歩くんか…」という独り言。嵐の中から現れる猛烈な愛という雰囲気に包まれたライブだったなと思い返している。

東京公演が行われた2023年6月2日は、季節外れの台風と、はやりの線状降水帯で日本中が大騒ぎだった。来月開催されるゴスペラーズ橋ツアーの開催地でもある阿南市では、道路が冠水。雨続きで怖い思いをされた人も多く、ライブにも来られない人がいらっしゃったそうだ。悲しい。

そんな嵐の中のイベントは、ゴスペルシンガーの周年ということもあり、大きな愛と素晴らしい歌声に包まれるライブだった。改めて、Jayeさんの45周年という偉業ともいえる芸歴をお祝いできてとても嬉しい。友達からのバースデープレゼントと、オフィス串さんのツイートで先着順販売していただいたチケットで参加してきた。

バンドメンバーに星川さんがいらっしゃることも嬉しく、女性二人のコーラスも素敵だったなぁ。私はゆずさんの破裂音がパリッとしているところが好きだなぁと思いだしている。ホーン担当の一さんも次々と楽器を持ち替え、フルートとサックスで泣かせに来る感じが渋くて、あぁベテランはいいと折に触れ感動していた。

今回のツアーはまだセットリストが出ていない(出されないかも)なので、1曲ずつ紹介するのが難しいが、雰囲気だけでも書き残しておく。

・Jayeさん愛してる


Jayeさんの歌声は、それはもう素晴らしかった…。きっと身体の中に大聖堂があって、そこで響いた音が発せられて歌声になっているんだろうなというような雰囲気だ。その歌声の迫力も響きも、45年磨き続けた人だから持てるものなんだろう。

コロナ禍でJayeさんは3年ほどライブができなくて、久しぶりのライブだった。毎日発声練習だけは欠かさなかったとおっしゃっていたが、そのおかげで声が上に伸びたそうだ。17歳でプロミュージシャンデビューし、NY・アポロシアターのコンテストに出場。東洋人初のグランプリ獲得は伊達じゃないなとしみじみ思ったライブだった。

登場からの軽妙なトーク、そして、オリジナル曲やカバー曲を次々と披露してくれた。この軽妙なトークに本当、ずっと爆笑しっぱなしで、トークも45年磨いてきたんやなと笑いながら納得したりした。長いこと売れているミュージシャンでMCがおもんない人いてないような気がする。切ないラブソングもニコニコと聞いてしまう楽しい雰囲気だった。

Jayeさんのソロは「それでは僕が『Jayeさん愛してる』といったら、お客さん、女性は大きな声で『Jayeさん愛してる』と返してください!」という驚異のコール&レスポンス。言わせんのか、それを!ラブソングの名手に言われて緊張。ゴスペラーズのライブではラブソングを聴きに来て、うっとりと夢のような時間を過ごすことを楽しんでいる。どちらかというと、愛されることの喜びや痛みなどを味わうのだが、自分たちから愛してるとレスポンスを返すことへの戸惑い笑。初体験だったけれど、Jayeさんが楽しそうにしていたので、こちらも幸せな気持ちになった。また今度も機会があれば、次も思いっきり叫びたい。Jayeさん愛してる♡

・ZOOCO渋い高音の歌姫


Jayeさんの呼び込みでZOOCOさんが入ってくる。いきなり「飛沫とびまくりのねぇ、ライブで笑」とぶちかますアネキ。JayeさんのZOOCOさんの物まね、似ていたなぁ。Jayeさんとのダブルボケの漫才のようなトークに会場も沸く。今回のライブは、村上てつやプロデュースの『Street sensation』からの曲が多くて、ゴス以外の人の声を聴いて、てつや味を感じる不思議な感覚を味わった。前述のアルバムは2008年の発売CDなので、ゴスで言うと『Be as One』と『Hurray!』の間くらい。ローレライ、Sky High/セプテノーヴァあたりと同級生だ。今聞いても古さを感じないのがいい。

ちょうど日常的にジャパニーズR&Bが有線やラジオから流れてきたころの歌で、青山テルマの「そばにいるね」やエグザイルのティアモもこのころ。作詞はみんな大好き山田ひろ神も参加している。ZOOCOさんとのデュエットで思い出に残っているのは、タイトルチューンの『Street sensation』。シャウトの迫力で胸が苦しいくらいだった。『I promise you』も素晴らしかった。切なさの巨匠てっちゃんがプロデュースしたアルバムならではと言ってもいい。ロングトーンのぶれなさよ…。ZOOCOさんの高音はとても不思議で、音としては高いはずなのに太くて優しい。ラブソングを歌うための声だなぁとうっとりと聴いていた。

ちなみに、『こころのままに』はゴスペラーズのコーラスがとても良いのでぜひ。


・なーんにも、覚えてない


ZOOCO さんの後にTHE J-M-Sが登場する。このあたりから空気も記憶も薄い。興奮で何にも覚えてなかったので、ツイッタで他の人の感想を読み漁ろうと思っていたら、お感想の1位が「覚えてない」で2位が「何もおぼえてない」だった。その気持ちとても分かると、一人ひとりの肩をたたいて回りたい気分だ。それでもなお、自分の思い出としてなんとか書き留めておく。

THE J-M-Sの登場は上手から。大きな体の二人がすぐそばの舞台に。黒いカーテンから現れる存在に胸が高鳴る。THE J-M-S専用のスーツに身を包んで登場し、紫のチーフがセクシーだった。なんとなくルーズなスタイリングの仕上がりもいい。大雨の湿気がてっちゃんの髪をくるくると巻き、酒井さんの御髪をふわふわと膨らませる。ニコニコと笑いながら登場するてっちゃんと、あ、どうも。と、寿司屋の暖簾をくぐるがごとく、ヌッと舞台に現れる酒井さん。THE J-M-Sの酒井さんは、静かに全方位を見渡して一番良いパスを出す中盤の選手といった佇まいだ。静かに。そして、にこやかに。THE J-M-Sの成り立ちや45周年お祝いのてっちゃんの言葉を聴きながら、ニコニコと立っている。

今回、特に感じたのだが、酒井さんの素敵ポイントは一つのライブで月の満ち欠けのように魅力や味わいが変わるところだということだ。最初は見切れのおじさんのように、ブルージーかつ存在を空気に溶かして。歌いだすとその存在は増す。音もなく現れ、マイクを握って歌うと別人のようにきらめく。歌うことで一つ、踊ることで二つ。その魅力が被布を脱ぐように内側から現れる。

それはまるで。脱皮や羽化を見るエロスがそこにはあるように感じる。ゴスのツアーは歌とダンスが一緒になって、時には芝居もある。MCだって決まりものもあれば、その場の空気や土地の事柄なども含めた今日の取って出しも聞ける。

ずっと全開フルスロットル大声芸人というわけでなく、静かにしているときは木立のように。迫力を出さねばならぬときは嵐のように。その時々によって出力や火力を変えるところが好きだなと思った。

『Love@first sight』
THE J-M-Sのファーストツアーに向けて作られたてっちゃん曲だ。♪you gotta be alrightと繰り返されるリズムがかっこいいファンク。この時のてっちゃん酒井さんのリズムの取り方がまぁそれはもう、それはもう、恰好いいのだ。♪you gotta be alrighは酒井さんが歌う時と、てっちゃんが歌う時があるのだが、リズムをばっちり真ん中でとってくれるてっちゃん、重めに後ろに乗せてくる酒井さんと、ニュアンス1粒を変えているところに吐くほどときめく。Jayeさんの声は渋くていつも聞いてる声では無いので、自然と耳が追いかけるけど、THE J-M-Sの良さはてっちゃん/酒井さんだけの聴き比べが無意識にできるところだ。ほか3人が居ない分、際立つ差がたまらない。しかも渋くて重めの主メロは大聖堂を体の中に持つJayeさんが担当する、贅沢。

『I don't wanna make you cry』
「俺が村上のファルセットがいいなぁ、うらやましいなぁと思って作った曲です」とJayeさんが言ってらした曲だ。てっちゃんのファルセットターンのときは、Jayeさんが楽しそうにてっちゃんを見ていて、なんだかほほえましい。どの曲だったか失念してしまったが、たしか2曲目に少し振りがあったのだが、これがまた本当に良かった。酒井さんの客席を見ずステップを踏むいつもの感じ。客席の後ろのPAさんあたりを見つめ、ステップを踏む。小さくターンし、流し目で客席を指さす姿にうっとりとした。譜面を見る伏し目もまた美しい。曲の途中「銀座は(物価が)高い」という小ネタを挟むのだが、てっちゃんを挟んでJayeさんと酒井さんが「焼肉」「コーヒー」「天ぷら」などと歌う。音的に3~4ではまるところに酒井さんが「パン…」と好物をねじこんできたところにもギュンときた。実際、銀座のパンは小さくて高い。

・それはまるで嵐のように

『Don't give it up!!』~3人アカペラ~
唯一、ネイバーズのtwitterアカウントに少しだけ音源が残っているのがこれだ。骨太なリズムと、だれが欠けても音が成り立たない緊張感。人数が少ない分てっちゃんも「間違ったらバレる!」と苦笑していた。

Jayeさんがいるぶん、唸るような低音に存在感があって、かっこよかったなぁ…。きたーまさんとはまた違うベースへのアプローチ、てっちゃん酒井さんの体全体でリズムを刻む姿も本当に野生的で良かった…。音源化はしないとおっしゃっていたけれど、これだけでも音源化していただきたい。

『Real tight』
ライブの後半、二回目だけに披露されたゴスペラーズの曲だ。曲名が発表されたとき、会場のそこかしこから小さな悲鳴があがった。たまたま一緒に見ていた友達があまりの出来事に顔を覆う。ゴスペラーズの本ツアーでもなかなか披露されることのない、激しい求愛の歌。聞いてみたいけど、なかなか披露されない歌でもある。近年ファンになったゴスマニ中でも、イストは同曲と『The Ruler』についてはライブで見たいとあちこちで聞く。この2曲、セクシーゴスペラーズの曲に必ず絶対にもれなく余すことなくクレジットされている、山田ひろ神が噛んでいる。本当にどうしようもない。助けられる余地はない。無慈悲曲だ。

号泣。若いころのゴスペラーズが歌う映像では、愛することを欲望のままに表現する様子が雄々しくまた若々しい。ヤングライオンの飛び散る汗も村上てつやの満足そうな笑顔もなにもかもドラマチックだ。しかし、今回の同曲の良さは全く違うものだった。

激しさを表現するために、大人が俯瞰から激情を歌うということもキャリア的にはできる。そこの歌い方を変えてきた、村上てつやの歌唱に心を打ちぬかれる。粗野、野卑、野性的。ごつごつした雄味を出したほうが3人でやるならよかろうと選んだ、叫ぶような歌声。観客の静かな熱気で会場の空気が陽炎のように揺らめく。

会場からは手拍子などはあまり聞こえず、本当に会場全体から押し殺した断末魔のような悲鳴が上がる。

村上てつやの後を追いかけ、追い抜き、だれも振り返らず、荒野で叫ぶように歌う酒井雄二。うつ向き、何も見ず。見上げるときは肺に空気を満たし、また叫ぶ。激情を歌う二人の横顔にめまいがした。普段なら歌わない低音をいかにもなんでもないように歌う姿もたまらない。おりしも外は嵐。Jayeさんのどっしりとした歌声が加わると、音に太い柱が通り、どんなシャウトもファルセットも破綻なく歌に収まるところが素晴らしい。

途中の「ハッ!」と笑うてっちゃんの首筋と青く筋張った手の甲、指先を少しだけ曲げて指さす客席。うつ向き、マイクを握り込み、床へ叫ぶ酒井。会場の溶け行く女の顔を満足気に眺める村上の姿に歓声を上げることも、素敵と叫ぶこともできなかった。

『よりそうように』
酒井さんが初めてプロとして作詞した歌だ。Jayeさんの安定感のある歌声に、まだ若々しい酒井さんの恋心を歌う歌詞。かの人の歌に出てくる恋人同士は甘い時間を過ごした後かその前。互いの背中を見ているような気がしている。行き過ぎる人の心のきざはしをそっと掬うような世界観はどこか寂しく温かい。ご本人が「わー!俺が歌詞!?」とJayeさんからの依頼に両手を挙げて驚いていたとジェスチャーされていたが、Jayeさんは「言葉の選び方が独特で酒井は面白いから」とおっしゃっていた。甘酸っぱくほろ苦い。オレンジピールのような歌詞を書く人がそこから25年後に、消えゆく愛を無常の灰と叫び、熾火の愛を歌うとは想像もつかない。

ゴスペラーズの5人での活動は、美しいハーモニーと
曲に合わせた振付や軽妙なMC、
時にはお芝居仕立ての舞台も楽しい。

ソロやデュオで出かける活動は、
いつものゴスペラーズのメンバーとしての違う一面が見られて、
嵐の夜は本当に特別なパーティだった。

普段では歌わないようなパートを歌う緊張感や
名曲のカバー、大先輩とのセッション。
その中でしか見られない表情が見られた。

酒井さんが遠くを見て、スパッと指さしステップを踏む。
誰とも目線を絡めないように注意深く、一番良いパフォーマンスをしようと選んだ遠くを見るという選択に胸を焦がした。

そのすぐ横で、一見気楽そうにハハと笑う村上の目じりと
会場を指す指先のゆらゆらしたところが美しかった。

Jayeさんの隣で歌うてっちゃんを見て聞いて、
感動したことがある。それは並んで歌うとやっぱりてっちゃんの歌声は
Jayeさんの影響を受けてるんだなってこと。

ゴスがデビューしたときは日本にゴスペルシンガー沢山いたわけじゃないだろうし、アカペラを選ぶことに勇気がいらなかったわけじゃないと思う。

今年は本当に無くて寂しいソウルパワーは、いろんな先輩とゴスペラーズが一緒に舞台に立ち歌う。特にソウルトレインが大好きだ。
名曲を時には主メロ、時にはコーラスに入るゴスペラーズの器用さや上手さ以上に、「この人たちに少しずつ影響を受けて背中をみて、今の彼らがいるんだ」と楽しそうなメンバーを見ているときにしみじみと嬉しく、歴史を聴くようで好きだった。

そして、Jayeさんもたくさんある背中の一つなんだと思う。

歌手としてたゆまぬ研鑽を積むことや、楽しいMC、何よりもその上から下までどこのパートを歌っても音圧を感じる、豊かな声量が素晴らしかった。

響歌で遠くトンネルの先や洞窟で響く歌声は、さまざまな環境で歌いながら人々を魅了し続けた先輩の姿にも影響を受けているように感じる。

甘くそして迫力のあるJayeさんの歌声は、きっとてっちゃんのキャリアにも影響しているんだと思う。星川さんの激エモの泣きギターにも同じことを感じた。

ステージに立つ人は、誰かに影響を受け、誰かに影響を与える。
そのすべてはより良いステージと観客のために。

橋ツアーまではお出かけゴスペラーズの活動が続く。
北山さんや酒井さんが頭を抱えているということは、新曲が出るんだろう。

夏至がすぎれば、盛夏が訪れ、優さんと黒沢さんのソロがある。

5人でも1人でも。

その時々で表情を変える魅力が
私を魅了してくれる。

夏が来る。
そして、秋には坂ツアーが始まる。

心からライブを楽しみにしている。

サブスクの音源やデータ映像があったとしても、
ゴスペラーズの魅力が感じられるのはほんの一部だけ。
空気を震わせ会場の温度がグッと上がり
歓声が高揚感を煽ってくれる。

感動の始まりは、いつもライブから。

ライブにはそこにしかない感動があるから。
それまで、漏らさず皆が健康でいることを願う。

おしまい

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