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ビルボードクラシックス ゴスペラーズプレミアムシンフォニックコンサート2024

終わってしまったというなんとも言えない寂しさと、ホッとした気持ちのあるコンサートだなぁと千秋楽に思う。

2024年5月19日、まずは完走を心から喜びたい。

第二回目が開催された「ビルボードクラシックス ゴスペラーズ プレミアムシンフォニックコンサート」は、次また必ず!と西宮の振替公演で力強くてっちゃんが言ってくれたことが、そう間を置かず叶えられてとても嬉しい。前回の西宮公演はメンバーがコロナに罹患したことにより、延期され振替公演が成されたコンサートだった。あの振替に行けなくてと残念がってた方が賛歌できたことも本当に良かったと思う。

あれから、世の中はどうなっただろうか?と振り返ると、未曽有の病についての嵐はそれとどう付き合うのか?というフェーズに突入した。円安は1ドル150円を突破し、戦争は終わらず、自然災害で苦労されている方もいる。

「コロナ禍が落ち着いてよかったね」というお祭りの雰囲気に最初は一緒に踊っていたものの、実は少し心がついて行っていない時がある。そういう日常に気づきをくれた。そんなコンサートだったなと思う。

普段、クラシックを聴かないタイプの人間なので余計そう思うのかもしれない。オーケストラが搔き立ててくるのは、今の気持ちを増幅したものだ。自分の心の痛みから目をそらし、なぁなぁにしていたとしても紙やすりで表面を細かく撫でられるような傷が伴う日々に音が染みこんでいくようで、美しい調べに涙することもあった。

まずは『いろは2010』を歌う酒井雄二の雄姿に胸を打たれる。原曲とも高崎アレンジとも違う、クラシックスバージョンも素晴らしかった。たっぷりと音の空白や空間を取ることで、緊張感が増したいろは。音の風が唸るように駆けあがり、耳のそばを弦楽器が飛んでいく。なにもかもかなぐり捨てて走り抜ける歌声の迫力以外に、生理的に体に刻み込まれた原曲のブレス位置をずらして音を乗りこなす技術力にため息をつくことも忘れて聞き入った。終わった後、フッっと息を小さく吐いて額をぬぐう姿も美しい。

合わせて『Mi Amorcito』の編曲が素晴らしかった。「ゴスペラーズ坂ツアー2023 “HERE & NOW”」のバージョンはたぎる思いをそのままに、歌やダンスでぶつけてくるが、クラシックスの同曲は、自分の身の内だけを蒼い炎で焦がして、許しを請い、惑い、来ることが叶わない諦観までの長い時間を愛で焼き切るような歌だった。

高崎音楽祭の同曲は燃え上がる情熱をメロディーに変えて、空気を真っ赤に炊き上げる。愛してる、愛してると鞴で吹くような歌とはまるで別の歌のようだった。改めて、編曲でこんなに一つの曲が違うものになるのかと感激した。

今回の展覧会のゴスペラーズは「CENTURY」「ゆくてに」「星降る夜のシンフォニー」の3曲だった。CENTURYのド頭のティンパニーは、オーケストラで聴いてみたかった音なので、思わず自分的初日はガッツポーズが出た。苗場公演のときもそうだったけど、この曲の北山さんの心から幸せそうでじーんとした表情に、一緒にじーんとした顔をしてしまう。「ゆくてに」は、まさか来るとは思っていなかった曲なので始め聞いたときに、小さく声を上げるくらい驚いた。そして、この曲には泣かされた。

この展覧会の3曲はシークレットで演奏されているので、どういう思いがあって選ばれたか分からない。だけど、だからこそ胸に染み入るように音が入って来た。

ゴスペラーズは折々に合わせ、ラブソング以外も作り歌う。その中でも震災後の何曲かは、自分がそれと気づかないときに傷ついていることを知って、少し立ち止まりその気持ちを肯定してくれるような歌がある。ゆくてに、私たちは何を見るのか?そこに答えが無いときでも、目の前に小さな明かりをともして顔をあげるきっかけをくれる。優しく響く歌声を肯定するように、オーケストラの演奏がじんわりと心を温めてくれた。「星降る夜のシンフォニー」は、題名にシンフォニーとある以上、それはもう、オーケストラにはぴったり合う。傷つき、疲れ、伏し目の自分が星空を見上げ、ボロボロと泣くことで癒される。歌の奥行を楽器が広げ、瞬く星々のように静かに暗い夜空に音が煌めく。

ゴスペラーズの歌唱の無い、歌劇曲が耳にも心にも残る。ドロドロした劇の一幕の曲だが、あまりにも美しい。私は仙台と京都で聞いたのだが、ベテランぞろいのオーケストラが華やかに音を紡いでいく景色に涙が止まらなかった。

日常とはどうしようもないものだけど、残酷でありがたいことに不可逆でぜったいに昨日には戻らないところがいい。傷をやり過ごすことで、きっと元気になれる。でもそれは自分が傷ついていることに気が付かなければ回復することは無い。病気であると気づいて始めて休んだり病院に行ったりするものだ。

日常的に聞いている曲に、美しい調べが添えられて癒されることで傷に気がつく。そんなコンサートだったと思う。

ゴスペラーズのコンサートに行くと知人に話すと、決まって「癒しだねぇ」なんて、言われることに「まぁ、それはそうだけれど、それだけで無いんだよな…」と複雑な気持ちになることもあった。

だけど、歌詞の奥行や世界観がオーケストラで広がり、その行間に音の星々が瞬き、涙してスッキリと顔をあげられるのであれば、それは癒しなのだろうと思う。

ゆうこりんの力強く繊細な指揮と、山下康介先生の遊び心とこだわりのある編曲に心から感謝したい。

また機会があれば、煌めく音とゴスペラーズのハーモニーに酔いしれたい。

一筋の奇跡を信じて。

おしまい。


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