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電子雲がみえた

 量子論により予測される「電子雲」は、実際に観察されたことがあっただろうか。
 今年7月24日、名古屋大学大学院のグループが、アミノ酸のひとつである、グリシンの電子雲を観察したと報告しました。
 http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2024/240724/?_sm_au_=iVVMNQTLD60Sff0PpWCGvKsCWRjJC

 原子核の周りをめぐる電子の様子(原子モデル)は、物理学の進展と共に変遷してきていますが、現在ではシュレディンガー方程式にもとづき、原子核の周囲に存在する「電子」を、その存在確率を表す「雲」として描く原子像が受け入れられています。
 しかしその電子雲の様子は、計算にもとづいたイラストやコンピュータシ・ミュレーションによるものであり、実際の電子分布の様子は、誰も見たことがありませんでした。原子においても、ましてや原子が複数つながった分子においては、誰も、、、。

 この研究者らは、兵庫県にある放射光(加速した電子の運動を曲げた時に発生する電磁波)施設であるSpring-8( http://www.spring8.or.jp/ja/ )において、グリシンの結晶のX線解析実験を行い、原子の価電子の密度だけを選択的に取り出すことに成功。グリシン分子の表面に存在する「電子雲」の姿をとらえました。

 今まで教科書などのイラストで、電子雲のイメージは描かれていましたが、実際に観察できたとは、驚きのニュースです!量子力学によって予測(計算)された分子雲の様子が、実際に確認されたのですから!
 もっと大騒ぎになってもよいのではないかと思うのですが、もしかして似たような報告が既にあるのでしょうか?あるいは、分子ではなく原子においては可視化が既に報告されていて、分子における同様の発見はインパクトが薄いのでしょうか?この報告に関する先行研究について、調査し切れていないのですが、個人的には、この記事に、思わず目が釘付けになったのでした。

 本研究の成果の応用として、報告した研究者らも「化学結合の本質を直接可視化できたことで、機能性材料の設計や、反応メカニズムの解明に貢献できる可能性が拓ける」と述べています。
 私も、分子と分子の「反応」に関わる「電子」の、「量子論的な構造」が直接可視化できたことに驚いていると共に、分子間の相互作用に関する、新たな発見への応用を期待しています。そしてなによりも、目に見えない世界が可視化されると、次の扉に進みたくなりますよね。                              (2024. 8.22)

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