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【錦とあんず】もうすぐ最終回!作者インタビュー

現在連載中の漫画【錦とあんず】。キャラクターやストーリーはどのようにして生み出されたのか。今回は、ライターの福永知世が、作者midorimaru033(ミドリマルゼロサンサン)氏にインタビューを行った。

福永(以下:福)「お久しぶりです」
midorimaru033(以下:033)「こんにちわー」
福「ミドさんには今回【錦とあんず】について、いろいろ質問していきたいと思いますので、包み隠さずお答えください」
033「よろしくお願いします」

■【錦とあんず】は実話だった?

福「まず、錦とあんずは、実話だって言ってましたけど、本当ですか?」
033「実話を元にしています」
福「ご自身の実体験?」
033「それもあります。要所要所で入れてますね」
福「杏野ちゃんは死んでしまっていますが…」
033「もちろん私は生きてるんですが、かろうじて。でも、そうですね、けして杏野が珍しいケースというわけではなくて、同じ形で命を落としている小さい子はほかにもたくさんいるので、そういう意味ではファンタジーっぽいんですけど、かなり現実よりだと思います」
福「具体的にどのへんが実話ですか?」
033「例えば、鬼丸とユメがあの世の出張所にいるとき、杏野の母親らしき人が来るシーンがあるんですが(10話)、その女性が言った“後ろを振り返っても仕方がないじゃないですか”ってセリフがあるんですけど、あれは私が実際、堕胎した知人から聞いた言葉でしたね。ああいう人にしてみれば、虫を殺すような感覚なんですよ。産んでもいないし、顔も見ていないし。堕胎そのものは否定しませんが、堕胎したことに一切の後悔もなく、さっぱり忘れて幸せになります!みたいな前向きな人には賛同できないと思いました。ポジティブさって、ときに残酷ですよね」

■なぜ死後の世界をテーマに?

福「メインになるのは、死んだあとの世界じゃないですか。あれはどうして?」
033「自由に描けるかな、と。死んだあとの話って、未知の世界ですよね。誰も知らないから想像し放題というか。よく、死んだあとは無になる、という人もいるんですが、私は違うと思います。私の死のイメージって、肉体が腐って土に還っていく過程で、意識が失われたまま無になるなんて甘いもんじゃないと思うんですよ」
福「甘いもんじゃない」
033「意識を失う=無だとするなら、気絶したり、眠っている間も無ってことになっちゃうのかな。私のあくまで個人の解釈で言えば、脳細胞が死ぬ=電源は切れるけど記録は残っている状態で、結果的には記憶も有機物として分解されていくんじゃないかな、と」
福「なんか、難しい」
033「パソコンなんかの、ハードとソフトで考えてるんですよね。そういう意味で言えば、魂ってネットに繋ぐイメージがあるかな、と思います。あの世っていうでっかいデータバンクがあるんだとしたら、死後の世界もあるかもね、みたいな」

■キャラクターの由来

福「ああいうキャラクターはどうやって生まれたんですか?」
033「とくに、無計画で書き進めていたので、あれこれ設定していたわけではなく、行き当たりばったり、という感じでした。ただ、ユメという杏野の友達になる女の子は、当初から出す予定でしたね。天の使いのカペラも、まさかこんなことになるとは思わなかった」
福「とくに計算されて作ったわけではないと?」
033「そうですね、全然無計画です。なんとなくプロットを書いている間に、ここはこうしよう、という感じで。原稿は、まあ、見てもらうとわかるように突貫工事でやってるんで下書き無しの直ペン入れで描いてるんですが、さあかくぞ、という段階でキャラのデザインとかもやってます」
福「性格や容姿に関しても、即興で?」
033「そうです。セリフはさすがに練ってるつもりですが、キャラはとくに何も考えずにスルスル出てきた感じです。それくらい脱力して作ってます」

■一番好きなキャラは?

福「ミドさんが一番気に入ってるキャラは?」
033「リブラです」
福「なぜ?」
033「表情がないはずなんですよ、眉毛もないし、黒目もない。それなのにすごく表情が豊かで、ダークヒーロー的な感じが好きです。口元が笑ってる感じで、余裕がある感じも好きですね。戦ったら強いんじゃないかな、と思います」
福「ほかにはありますか?」
033「西澤、杏野、吉村の3人は、私の性格を一部切り取って出したようなキャラなので、愛着があります」

■作品作りで苦労した点は?

福「描いていて、一番苦労した点はどんな点でしたか?」
033「はじめてだったんですよ、一次創作というか、オリジナルで漫画を描く、ということが。今までずっと文章畑でやってきて、小説は書き続けていたんですが、それとはまったく勝手が違うということですね。まず、脳みその、使う部分が違います。ストーリーを考えるんですが、私の場合全部文章で出てきちゃうんで、これはダメだ、と。なので、右手と左手を使い分けるように、文章と漫画のスイッチの切り替えが大変でした」
福「今はもうスイッチ切り替わってますか?」
033「今は小説をおやすみしているので、錦とあんずが終わったら、今度は小説の方にスイッチを切れるかどうかが不安です」
福「ほかには?」
033「絵が描けないので、とにかく」
福「描いてるじゃない?」
033「下手くそなんですよ。デッサンがおかしいと言われる。トーンの使い方もよくわからない。だから、読んでくれる皆さんの脳内補正が鍵です」

■【錦とあんず】の目指すところ

福「錦とあんずは、全体的なテーマとして、親子の繋がりとか、愛されないまま生きること、というのがあるような気がするんですが」
033「そうですね。やっぱり、どんな育ち方しても生きていかなきゃいけないわけですよ。だけど、虐待された人や、いじめを受けた人、差別を受けた人って、本人が悪いわけではないのに傷ついたまま生きていかなきゃいけないんですよね。生きることができずに亡くなる子供もいっぱいいる。なんとなく、そういう人を“失敗作”だとか言って、ゴミにしようとしている人がいっぱいいるんですよ」
福「いじめられた上に、ゴミ認定されちゃう」
033「そうです。“ここはゴミ捨て場だからゴミ捨てても文句言うなよ”って感じで、どんどんゴミを不法投棄されちゃうんですよ。人が住んでるのに」
福「それは嫌ですね」
033「そういう辛い人って、もう絶望してるんですよ。何度も。でも、おかしいのはいじめる方だし、ゴミ呼ばわりする方が悪いんですよね。その絶望してる人に対して“がんばれ”って違うじゃないですか」
福「言えませんよね」
033「だから、これは私なりのエールというか、絶望してる人に向けた回りくどいメッセージなんです」

■西澤、杏野、吉村の共通点

福「一見アンバランスなんだけど、どうしてあの3人がメインなのかな、と思ったんですが」
033「3人には共通点があるんです」
福「どんな?」
033「3人とも、死ぬ前に諦めてるんですよ。生きることを」
福「あー」
033「吉村さんは自殺ですからそうですし、西澤は食料を探しに行くことなく餓死してますよね。杏野も、親に部屋に置き去りにされて、出ようと思えば出られたけど親に禁止されていたから出なかった。そこでやっぱり諦めたんです」
福「まだ小さいのに」
033「子供にとって、親の命令って絶対じゃないですか。とくに閉じ込められて虐待されて育った子ですから、このまま家から出ないと死んじゃうかもしれない、でも親は出るなと言って出かけたまま帰ってこない、弟が死んでしまった。ということは、もう親から“死ね”と言われてるも同然なんです。杏野は賢い子ですから、そのことに気が付いて生きるのを諦めたんです」
福「親からの“死んでしまえ”という命令に従ったんですね」
033「みんな“自殺”って言ってますけど、それ本当に自殺かなあ、と思うんです。“死ね”って言われて、それに従って死んだら、立派な他殺ですよね」

■西澤と杏子の関係

福「西澤と杏子はかつて夫婦だったわけじゃないですか」
033「表面上はね」
福「表面上?」
033「西澤は、帰ってきたら幸せにするって言ってるので、式はしたけどちゃんと夫婦ではなかったし、もっと言えば恋愛感情もなかった。杏子もそれは同じ。ふたりは、あくまで友人」
福「なかったんだ」
033「なかったんです。幼馴染だし、大事な友達という感覚。お兄さんに拐かされた杏子を目撃した時に、西澤は“ああ、この人を守らなきゃ、友達だもの”って思った。純粋に、優しくて真面目な青年だったんだと思います」
福「じゃあ、初夜もなし?」
033「なかったと思います。だって、お兄さんにあんなことされてるのを知ってしまって、軽い気持ちでできませんよね。大事な人なら尚更ですよ」
福「ふたりが結婚したのも、周囲の圧力?」
033「でしょうね。やはり自殺って当時すごく悪いことだったし、世間体が。杏子を早く嫁に出してしまいたい、というのと、西澤側は戦争に行く前に嫁をとっておきたい、という親の考えもあったでしょうね」
福「年齢ってどのくらいなの」
033「どうだろう。でも、西澤が19とかなら、杏子は20かそのくらいなのかな、と思います」

■応援コメントが嬉しかった

福「ジャンプルーキーや、ニコニコ静画で、たくさんコメントをもらってましたよね」
033「そうなんです。ありがたいことに。心の支えです」
福「閲覧数とか、お気に入り登録数も気になる?」
033「気になるんですけど、増えたり減ったりで安定しませんからね。コメントは消えないので、ありがたく読ませていただいています。ほんとに、心の支えです、何度も読み返しています」
福「なんとなく、独特な世界感だとか、よくわからないけどいい、みたいなコメントが多いね」
033「そうなんですよね。私もよくわからないんですけど(笑)、ストーリー全体の雰囲気を意識してるので、ちゃんと伝わってるってことなのかもしれないですね」
福「細かい波が来る、というより、ゆったりした大きな波が来る、みたいな感じがある」
033「趣味で描いてる漫画…漫画とも言えない代物ですけど、こういった素人作品を読んでくださって、コメントまでいただけるのは、本当に嬉しいです。もっと欲しいくらい(笑)」

■書籍化について

福「これから電子書籍とか、計画がある?」
033「一応、私の頭の中だけなんですけど、電子書籍として全話+最終回後の話などを詰め込んで、出したいですね。あと、ちょっとお値段が上がっちゃうんですが、紙の書籍で出すのは製本直送さんを利用してみようと思ってます」
福「イベントとかは?」
033「出たいんですけど、たぶん無理なんですよ。こどもがいるので自由にならなくて。なので、今のところは電子書籍の販売という形を目指しています」
福「漫画家は目指さないの?」
033「そもそも漫画の描き方がわからないですし、漫画を描いてお金をもらうという仕組みがよくわからないので。でも、今後も新しいものにチャレンジしていきたいです。いつかコミティアにも出てみたいし」

■読者へのメッセージ

福「最後に、読者の皆様に何か、伝えたいことはありますか?」
033「たぶん、この話を読んでおもしろいと思ってくれた人は、過去に何かあった人に違いないんですよ。つまり、きっと皆さんも良い音を奏でる溝のついたレコードなんだろうと思います。まずは、ゴミと思って捨てている部分を今一度見直して欲しいです。自分に対しても、他人に対しても。それと、絶対に自分を諦めないでください。自分に絶望しちゃうと、もう誰も助けてくれません。体は死ななくても、心は死んでしまうかもしれない。私も何度も自分の手を離して崖に突き落とそうと思ったし、たぶんこれからも思うんだと思います。でも「誰か愛してくれる人がこの先で待ってるかも」という淡い期待を抱いて生きていくのも悪くないかな、と思います。杏子が杏野を抱きしめたみたいに、自分で自分を抱きしめてあげてください」
福「今日はどうも、ありがとうございました」
033「ありがとうございました」

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