連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第32回

ふと気がつくと、愛さんはいつの間にか白い麻のワンピースに着替えていらした。アンニカ親子も同じようなワンピース姿だった。きっとマリアと同じく、風呂上がりに着替えたのだろう。気がつくと、ミッチーも幸子も同じような白っぽい麻の生地で出来たパンツスーツを身に付けていた。
僕の中で白っぽい麻のゆったりした装束は、ライアーハープとタオライアーを演奏する人たちの中では【制服】のように感じられる。
愛さんはタオライアーをライアーハープに持ち替えると、再び目を瞑り、一呼吸してから小さいながら優しくよく響く声で歌い始めた。歌詞は聞き取れない。ライトランゲージ、光の言語とか宇宙語と言われる言葉のようだ。しばらくすると、愛さんの歌声をライアーハープが追いかけるようにして鳴り始めた。その時、僕は鳥肌が立って、閉じていた目が突然開いた。その場にいる人たちの輪郭に色とりどりの光がボンヤリ見えた。光の体のことはマリアからよく聞かされていた。自分の目で見たのは、初めての体験だった。愛さんの宇宙語とライアーハープの音楽が一体になって、家全体を震わせると、みんなの光の体が溶け合った。
やがて、ライアーハープの音が小さくなり愛さんの歌声も止んだ。それに従って、みんなの光の体の輝きも小さく弱くなった。僕は静寂の音を聞いた。
愛さんは【深呼吸をしてください。手首足首を回して、首をゆっくり大きく回しながら、意識をこちら側に戻してください。】と言った。
【意識がこちら側に戻って来たら、ゆっくり目を開けてください。】愛さんの合図で、みんなもそれぞれのタイミングで目を開けた。ミッチーが僕の方を見て、優しい微笑みを浮かべた。
幸子がいつの間にか、食後のお茶を用意してくれていた。香ばしい焙じ茶をすすりながら、僕は愛さんに質問をした。
「昨年の夏からタオライアーを製作し始めて、今回で3台目になります。最初は安曇野の会場でした。参加者のみなさんが、お揃いのように白い麻のワンピースや、ゆったりした麻のパンツスーツを着ておられますね。」
「ああ、このワンピース姿のことかしら。」愛さんも焙じ茶の入った湯のみ茶碗を手にしたまま、参加者のことをゆっくり見回すと、頷きながら微笑んだ。
「お父さん、前にも言ったでしょ。レムリアのお仲間なのよ。」僕のすぐ横に座っているマリアが、僕の横腹をチョンと突きながら小声で言った。
「本当に!よく巡り会えて。。。感動して涙が出そうよ。私たちは、ずっと前からこの時期に再会するよう約束していたの。」幸子は呟いた。
愛さんはもちろん、アンニカ親子もミッチーも頷いている。
「レムリアのお仲間だったんですか。遠い昔に別れる時、再会するようこの時代を選んで約束していたんですね。」僕の口が自然に動いていた。
聞けば、アンニカの双子の姉妹、エンマとマヤはマリアとともに王家のプリンセスであり、アンニカと幸子、ミッチーは巫女であり侍女として王家に仕えていた。愛さんは当時も教育者として後進を教育指導していたそうだ。
「レムリアは平和な文化を築いていました。女性的な文化でしたから、社会的な役割や身分の区別はあっても権力が伴わず、上下の区別も指揮命令系統もありませんでした。私たちが生きていた首都は波動が上がったために半霊半物質になった、空に浮かぶ空中都市のような場所でした。レムリアはあまりに平和すぎて刺激が無く、退屈した一部の人たちが男性的な社会組織を望みました。それで波動が一気に下がって重くなり、首都は地面に落下してしまいました。その衝撃でレムリア大陸全体も、今の太平洋の真ん中に沈んでしまったのです。」幸子が説明した。
一同は当時のことを思い出したのか、うなだれて、目に滲む涙を拭っていた。
「今は地球が物資中心主義の文明を終えて霊的な文明を築いて行く、転換点です。社会制度全体が限界を迎えて崩壊して行く時です。エンマちゃん、マヤちゃん、マリアちゃんは、これからの地球を担っていく子どもなんです。私たちは、そんな子どもをサポートするために生まれて来ました。」

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