連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第31回

僕とミッチー、マリアは、愛さんを長年サポートしている幸子の指示の下、台所で野菜スープの材料を切った。有機栽培された色とりどりの野菜は、どれもこれもピカピカした光を放っていて、生命力にあふれていた。愛さんが午前中に汲んできてくれた湧き水と共に大きな寸胴鍋に入れると、薪ストーブの上に置いた。このまま長時間、薪ストーブの火に任せてコトコト煮込めば、立派な夕飯になるはずだ。
アンニカ親子が到着したのを見計らって、幸子が僕たち親子を、【近くの温泉で一風呂浴びて来ましょう】と誘ってくれた。
愛さんの住まいにも温泉を引いているが、愛さんを含めて合計8名が次々と入浴するとなると、流石に湯量的にも時間的にもキツイものがある。
【阿蘇の温泉ならエネルギーが強く、大きな風呂で肩まで浸かったらさぞ気持ち良いだろう】と、僕は気を良くして車を走らせた。
愛さんの住まいから車で5分も行くと、日帰り温泉施設があった。ここは宿泊施設も併設されている。【湯治場として滞在するのに、とってもお手軽な値段なのよ】と幸子が言った。
男湯はどこも掃除が行き届いていて清潔に保たれ、照明も程よい明るさで気持ちが良かった。大浴場から引き戸を開けると、小さな露天風呂に続いていた。高原特有の冷たい外気を吸いながらの入浴は、格別だった。
女湯から三人が出て来ると、マリアは白っぽいワンピース姿に着替えていた。【いつものアレだ】と僕は心の中で呟いた。
愛さんの住まいまで車を走らせてる間に、マリアは不思議なことを言った。
「お父さん、マリアね、何だかこの辺りに将来、お家を持つような気がするの。」
「え、それはこの温泉の辺りかな。」僕は少し驚いて聞き返した。
「そう、この温泉の辺りなの。」マリアは嬉しそうに笑っていた。
マリアは時々、将来が見えるような予言めいたことを言う。【もしかしたら、マリアはこの辺りに将来、家を持つのかもしれない】と僕は感じていた。
助手席に座っている、ミッチーの横顔をそっと見たが、彼女は優しい微笑みをたたえていた。

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