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連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第24回

夏休みに親子で参加したタオライアー製作ワークショップでは、あらかじめ木板は外形が削られ、表面も機械によってほとんどの部分が削られていた。そのため参加者はワークショップのプログラムで仕上げ彫りを施し、ヤスリを掛けるだけとなっていた。
今回のワークショップでは、最初に参加者に手渡されたのは長方形の木板だった。まずはジグソーという工具を使って、イベント主催者の幸子さんが外形を削り取ってくれることになっていた。
外形はタオライアーに張る弦の本数によってあらかじめ、大体の外形が決められている。まずは図面が配られた。10歳のマリアとスエーデン人の双子の姉妹が作成するタオライアーに張る弦は二十数本である。大人の参加者のふた周りほど小さい。
マリアのデザインは【イルカ】が良いと言った。
「マリアはイルカが良いんだ」と僕が呟くと、マリアは答えた。
「マリアはね、レムリアの時代にイルカだったことがあるの。」
それを聞くとはなく聞いたアンニカが驚いたというように呟いた。
「マリアちゃん、レムリアの時代にイルカだったのね。驚いた。私もそうだったので。」
マリアは表情一つ変えずに【やっぱり】と、声を出さずに僕の方を向いて口を動かして見せた。夏休みに参加したワークショップでは、マリアはレムリアの時代に一緒にいた仲間と再会できたと言って喜び感謝していたのを、僕は思い出した。
そう言えば、前回同様、今日のワークショップの参加者たちもほとんどが、木綿か麻の天然素材で出来た、ゆったりとしたワンピースを身に付けている。
その時、ちょうど幸子が近づいて来て、マリアのデザインについて確認した。マリアが外形をイルカのデザインにしたいと申し出ると、幸子はちょっと考えた後で、こう言った。
「うーん、外形をイルカの横向きにすると、口の部分がどうしても飛び出してしまうわね。そうなると、タオライアーとしてはちょっと違うものになってしまうわね。そうだ、イルカの小さなモチーフをところどころに彫り入れるのは、どうかしら。」
マリアは少しがっかりしたような表情をしたが、すぐに思い直したようだった。
「はい。わかりました。イルカを彫り入れることにします。」とマリアは言った。
ランチ休憩を挟んで、午後に外形を切り出す作業を行った。幸子が自然農で家庭菜園で採れた野菜を使った、手作りカレーを振舞ってくれた。五穀米も自然農で栽培された物だと、幸子が言った。優しい味わいだった。
午後のワークショップでは外形の図面を長方形の木板に当てて、芯の柔らかい鉛筆で大まかにトレースして行った。その後、幸子が助手の女性と交替でジグソーを扱って、外形を削り落とした。
参加者は僕たち親子を入れて5組だったが、あっと言う間に夕方になっていた。
幸子から最後に、丸ノミの大きさや購入先、取り扱い上の注意点などが説明され、お開きとなった。まずはマリアと一緒に道具を揃えようと僕は思った。次回のワークショップは様子を見ながらの開催となるそうだ。

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