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別の話

つまりは、それだけ忙しい店だと言う事だ。

疲れきって、終盤になれば「いらっしゃいませ」の声すら出したくないわけだ。

閉店の30分前がラストオーダーで、同時に看板も出す。そして卓上のシュガーを集めたりして、「そろそろですよ」感を醸し出す。

ところがだ、稀に看板を出すのが遅れる。1分2分の話だが、これは許せない。
その日、問題の閉店30分前に人が入って来た気配を感じた。カウンター内にいたわたしは気配を感じたのだ。小声で「ふざけるな」と呟き、頭も上げずに、若いスタッフに向かって

「か・ん・ば・ん!出して!」と言い放った。

すると、スタッフが「…おねえさん…」とびくついた声を出した。聞こえたのだろうな、きっとお客さんに聞こえたのだろうな…とは思ったが、後の祭りだ。

ぱっと顔をあげると…… おわかりだろう。
宇崎竜童氏だった。

どなたかのお見舞いだったのだろう。
入ってきたお客さんは4名。宇崎竜童氏、パリコレはもとより世界的に有名な某デザイナー、同じく世界のトップモデルの某女史。あとは、知らないおじさんだった。

……。

何を作って出したのか覚えている筈は無いのだが、冷汗をかきながら作ったひとつは、クリームソーダだった気がする。

そして閉店時間を少し過ぎるくらいで、お会計をしてくれた。
その時、宇崎竜童氏がわたしに向かって

「ご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした。ありがとうございました」と一礼されたのだ。

「いえ、こちらこそ大変失礼いたしました。ありがとうございます」と、やっとのことで口にした。


はい、すべてわたしが悪かったのだ。
彼らには、何ひとつ落度は無い。


#続きが気になると言われたから白状する #別の話  

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