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これは多分拉致と言ってもいいはずだ

真夜中。コンコンと部屋の窓を叩く音がした。
何?と声を出した瞬間、わたしはしまった!と寝ぼけた頭でもそう思ったことを覚えている。
この当時、わたしの部屋は一階にあった。窓の外に小さな木があり、丈夫な枝葉のお陰で外から部屋の中が見えることはなかった。
それが幸いして、いやむしろそのせいで、わたしの友達は玄関に回らず直接窓をよじ登って来る。
「あけて」
ほらきた。今更ばっくれることもできずに窓を開けた。失敗だった。
「ちょっと出て来てよ」
「なんでよ」
「いいからちょっと」
言い出したらきかないんだから…… 仕方ない。わたしはパジャマのまま窓の外へ出た。窓の外にはサンダルが置いてある。何故か…… 結局わたしも、うまいことこの窓を利用しているということだ。まだ高校生だし。
そのままちょっと来てと促されて、道路の方まで進む。パジャマのままで。
一台の車が止まっていた。中学の先輩二人が中にいる。男子、もろ男子。
「乗って」
「え、乗るの」
もうこのあたりで、わたしは後悔と諦めの境地に達していた。
「花火しにいこ」先輩が言う。この先輩、顔は知っているけれど話したことあったっけ…… もうひとりは多少付き合いのある先輩だった。

わたしはもう勘弁してくれと思いながら、そのままウトウトしていた。だって真夜中に起こされてパジャマのまま車に乗せられていたんだもの。ただ友達にはふざけるな!と悪態をついた、と思う。
不忍通りを走り、高速に乗り、着いたよ、と起こされた場所は横浜の山下公園だった。

ここで持ってきた花火をした。ただ単に花火をした。

そして終わると、そのまま車に乗り地元へ。
何がしたかったのか…… 花火だ。
家に帰りつくころ、うっすらと夜が明けてくるのがわかった。
「今日、普通に学校行くんだけど」
「まあそうでしょ、学校だもん」と友達。
確かに花火をしている時はみんなでワーワーキャーキャーとはしゃいだ。

わたしは部屋に戻ると呆然とした。やっぱり「何」と声を出したのが失敗だったのだ。次はない。
そう言い聞かせながら、パジャマのままもう一度ベッドにもぐりこんだ。
これはある種の拉致だ、と思いながら。

でも花火はキレイだったな~ やがて呑気な独り言に変わった。

この友人をHさんと書いておきたい。

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