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母
「血管のひとつが、少々怠けていました」
昨年心臓のペースメーカーを入れた時、医者にそう言われた母は、今年米寿を迎える。
先日、心労で体調のすぐれないわたしの体に手を当て摩りながら、母は言った。
「血管が怠けていたと言われて、お母さんひと晩泣いたよ。なんて申し訳ない事をしてきたのか。八十七年も、一日も休む事なく働いてくれてた体のひとつひとつに、今までひと言のお礼も言わずにきたから。親からいただいた大切な命を粗末にしてきたとは、この事だと教えられたの」
その母の言葉を聞きながら、わたしは涙が溢れてきた。
大切な事と言うのは、いつも手のひらに収まるようなささやかな事なのだろう。
「お母さん、わたしの体をさすって悪いものを吸ってしまうと困るな」
わたしがそう言うと
「大切な子供だよ、何言ってんの。それにお母さんはそんなに弱くないから」
母は、そう言った。
わたしは胸がいっぱいになりながら、母の手当てに身を委ねた。
大変な苦労人だった母は、今年に入ってから、苦しい人の側で話を聞いてあげる、そんなボランティアを再開した。
毎日自分の体のひとつひとつに「ありがとう」と語りかけながら。
わたしは、この人の娘だ。
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