二人で遊ぶ(R県遊園地・コーヒー)

   ***

「約束。ほら、小指」
 朱里はすっと右手を差し出した。俺も同じようにして、小指を絡める。
「嘘ついたら?」
「某カフェ、ランチメニュー限定の特大パフェをおごる!」
「金千円飛ーばす、か……」
 しかしそんなもんで本当にいいのか朱里さんよ。まあいいんだろうけど。

   ***

 回る。目が。あと体も。
「こんなこと言うのなんだけどさぁ?」
「おう」
「コーヒーカップって、究極意味わかんない遊具だよね……」
「そうなぁ……」
 どかっ。勢いつけて突っ込んできた別のお客さんのカップにぶつかりました。見た感じリア充カップルな様子。太陽にも負けないレベルにさんさん笑顔。いやぁ実に楽しんでらっしゃいますね。喜ばしいことです。
 それに引き替え、わたしたち二人ときたら。
「酔いたい欲求を需要にしてる可能性が?」
「ゼロじゃないすかね」藍くん、目の付け所おかしいよ……。

 遊園地に来てまでも素直に楽しめないというのはいろいろと問題があるような気がしますけど、そこらへんの子供たちみたく、わーーー!! とか、きゃーーー!! とか言いながら楽しむような歳でもないし、まあそんな感じの理由がありまして、わたしと藍くんの二人は優雅な気分でファンタジー世界を楽しんでおりました。
 つーか本当に懐かしいよこれ。遊園地て。小学生のころに友達といっしょに行って以来だよ。やばい涙出てきた。わたしも歳ですなぁ。
 あれから他のアトラクションも見て回り、蛇のように長い行列に並ぶべきか並ばざるべきか……ともあれ時間が時間だったのでまずは二人でお昼を食べることにしました。
 そんでわたしは何をしてるのかって? そりゃもうベンチでゆっくり休んでますよ。じゃんけんで勝った褒美に藍くんをパシらせてね。わたしも悪よのう。
「おーい、朱里ー。待たせてすまーん」
 遠くから藍くんの声が聞こえてきます。その両手には何やら大量の食べ飲み物が。
「適当に買ってきたけど。しかし高ぇよな、値段。なんでこう遊園地ってのはどこもかしこも高いんだ」
「金儲けのためだろーね。所詮この世はお金なのだぜ、藍くん」
 わたしは藍くんの手からカップの飲み物を受け取り、中身を確認しました。ん、コーラっぽい見た目。おいしくいただきましょう。
「お昼食べたらさぁ、次どこいぐぇぶっふぁ!!」吹き出しました。
「どっ、どうした朱里!? あれか!? 食道じゃない方か!?」
「いやっ、ぐっ、えっほ、ちが、ちがくて……! これ、何!? 何買ってきたの!?」
「えーと……あ、これか。これな、炭酸コーヒー」
「はい?」
「いや、特に説明するまでもなく、炭酸コーヒー」
 わたしはもう一度中身を確認してみました。……あーたしかに。コーヒーの香り結構するわ。なんで気付かなかったんだろうわたし。いやでも普通、コーラに見えるよねこれ。遊園地っつったらコーラなとこあるし。
「で、なんで買ってきたのこれ」
「うおぉいやめろクレープの内部に流し込もうとするな! 俺が食べるんだから!」
「いや、だからこそだけど」
「必然かよ!?」確信犯です。
「別にいいじゃん。そもそもチョコ味だから目立たんさ」
「目立つわ! クレープにさらさらの液体の時点で目立つわ!」
 なんやかんや言ってるうちに、藍くんにクレープを取り返されました。ちぃ。代わりに飲み物は交換してもらいました。さてこっちは何だろう……んん。えっと、あのね、藍くん。
 なんでもかんでも炭酸にすりゃいいってもんじゃないでしょ?
 メロンソーダ、たしかにおいしいけどさぁ。

   ***

 どうしてわざわざ遊園地までやってきたのか? と聞かれると、困る。
 特に理由はない。今までと同じように、二人で旅先を決めた結果がここだったってだけだ。
 ただ、それでもいつもとなんとなく違うのは――今日の旅が俺たち二人の最後の旅だから、なんだろう。
 昼飯代わりにクレープを平らげた俺たちは、次のアトラクションに移るべく園内の地図を眺めた。少し見ない間に、このR県遊園地にも随分たくさんの施設が建ったようだ。それほど慣れ親しんではいないが、それでも地元なりの愛着というものはある。
 俺ら二人はメリーゴーラウンドへと向かった。
 その姿形を見たことは何度だってあるけれど、実際に乗ったことは一度として無い。今回も乗るつもりはなかったのだが、朱里がせっかくだからと言うので、しょうがなく一緒に乗ることにしてやった。
 アトラクションの中でもこれはあまり人気が無いらしく、列に並ぶまでもなく俺らは馬の背中に座ることができた。そのまましばらく待っていると、機械が少しずつ動き出し、楽しげなBGMと共にその速さを増していった。
 馬に乗りながら外を眺めてみると、思っていたよりもゆっくりと、ギャラリーや着ぐるみを来た人たちを見ることができた。外から見たらあれだけ速いのに、実際はそうでもなかったようだ。
 なんというか、夢から覚めたような心地がした。
 すぐ前の馬に座った朱里の背中を見る。いえー! という歓声がさっきから聞こえてくるのだが、言うまでもなく朱里の声だろう。コーヒーカップの時はあれだけダウナーだったのに……まあ結局、アトラクションの派手さによるのか。
 メリーゴーラウンドも大概だと思うけどな。同じとこをぐるぐる回るだけだし。
 ま、それでもなんだかんだ楽しんでるのは、俺も同じだ。


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