第一回文フリ福岡・読書感想文その3「閃光のバレット」

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 久しぶりにポップでライトでハードボイルドな作品を読んだ気がします。「閃光のバレット」、いや~楽しい。普通に市販のライトノベルを読んでいるのと同じ感覚で読んでしまいました……なんて言っちゃうとわざとらしく思われるかな。でもそれくらい面白かったです。僕は好き。

 世界文化財保護局の特務課に勤めることになった主人公の鴉葉ミツキと、強大な力を持つ<魔晶石>を狙う怪盗バレット。一見、探偵と怪盗との戦いを描いたスラップスティック作品なのかと思いきや、その中身は魔術や機械、電脳世界、獣人、などなど、ファンタジー色の強い舞台背景から成り立っています。とにかくいろんな要素を混ぜに混ぜて作られた小説、それが「閃光のバレット」……という感じでしょうか。雑なまとめですいません。でも読んでいただければわかりますこのミックス感。作者さんのいろんな「好き」を片っ端からぶつけられる感じ。

 以下、本作品のネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。

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 まず言わせてください。バレットさん、あんたかっこよすぎだよ……。

 なんと言ったってまずはこれです。いや~なんて言うんですか、江戸っ子なんですよねこの方。とことん粋。やることなすこと全部。喋り方もまた江戸っ子らしさがふんだんに出てますからね。かっこいいんですよ実に。好き。

 あとがきで作者さんは「○パン大好きなので自分でも怪盗モノを~」といった旨を書かれていましたが、○パンが女性に対して目が無いのとは異なり、バレットはほとんど興味ねぇよというスタンスを終始保っていたのがいい感じにクールでした。いま感想書いてて気がついたんですが、そもそもこの話にはあまり女性キャラが出てきてないっていうのも理由としてはあるのかもしれないですね。あれ、出てきてない……うん? もしかしてミツキだけ? スワロウテイルはたぶん男だった気がするし……うんたぶんミツキだけっぽい。あとかつての魔法遣いも女性だったような気が……すいませんうろ覚えです。もっかい読み直します。

 でもってそのミツキのポジションが「正義を夢見るタフな新人警官!」って感じの立ち位置なので、いわゆる峰不○子(もう隠さなくていいかもしれない)枠に収まれるかというとそうもいかないんですよね。そんな具合なので、バレットもルパン(隠すのやめました)みたいにルパンダイブとかするわけには行かないという。海にはダイブしましたけどね。すいません今のネタは見逃してください。

 そんなこんなで、今作の見どころのひとつはやはりバレットという人物の魅力だろうな~と思う次第です。アクションも強い、人間力も高い、でも実はとんでもない力を隠し持っていて、本人さえもそれに抗うことができないこともある。おおよそ完璧ながらも、いつ爆発するともしれない危うさを抱えている感じが、作品のキャラクターとしても、また1人の人物としても魅力的に見える秘密なのかもしれません。

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 僕自身はあまりファンタジーというものを書かない人間で、また読む側としてもそれほど好みではないのですが、この作品についてはとてもすらすら読めました。というのもおそらく、この作品は「設定としてのファンタジー」を存分にテリングしてはいるものの、「シナリオとしてのファンタジー」をやっているわけではない、と言いますか、そういう部分があるからだろうなと思いまして。

 登場人物たちのやっていることや、物語の目的となる要素についてはファンタジー色が強いんですが、その細部にはどこか泥臭さがあるというか、地に足のついた雰囲気を感じるんですね。それは単純に、時代や文化の設定がほぼ現代と同じという点にも起因していると思います。魔法で飛ぶ車ではなく普通の車。広大な荒野ではなくダイバシティのトーキョーブリッジ。アクション自体はバリバリの魔法戦争や怪獣戦争をやりつつも、場の設定が現実味を帯びているためにファンタジー性がそれほど強く出張ってこない。

 それから、何らかの宝石や書類などを狙って各人が争いを繰り広げるというストーリーも、ファンタジーというより怪盗モノの定番という形で、これもまた作品に現実味を帯びさせている一要素なのかなと。こういう雰囲気の怪盗モノ×ファンタジー、個人的にはとても新鮮で楽しめました。

 またその件に通じて、これ作者さん上手く作ってあるな~と思ったのは、作品の世界観・アイテムにまつわる歴史などの説明台詞が、ちょっとずつちょっとずつ小出しにされているところでした。作品にファンタジー設定が絡んでくる場合って、たとえ舞台が現代ベースであってもそれなりの説明量が必要になってくると思うんですね。例えばこの作品では文保局の設定、<魔晶石>の設定、それに関連する『世界大戦』や『魔法遣い』の話などを、とりあえず一通りは説明しておく必要がある。かといってそれらすべてを第一章に放り込もうものなら、そりゃもう読みにくくて仕方ありません。

 しかし今作では、その場その場で必要となる設定が最小限にとどめて書かれている。地の文からの情報が展開を邪魔せず、話の流れに乗っかったまま設定を頭の中に入れることができる、という、丁寧でさりげない構成にされていたのが印象的でした。作者さんが狙ってそうしているのかは定かではないですが、意図的にしろそうでないにしろ読みやすい書き方だなぁと参考になりました。

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 そろそろストーリーに言及しないと尺が……(いや尺とか無いけど)。とりあえずストーリーについては、ごくシンプルに怪盗モノの王道を貫いているんじゃないかなと思いました。三つの<魔晶石>がそろい、魔術式を解いたらそこには何が遺されているのか――と思ったら、あれっ? 実は大したことなかった? という。

 僕という人はたいへん裏読みの苦手な性格をしているので、クライマックスシーンでは「えっ魔術式展開しちゃうの!? ヤバいよ~それ絶対ヤバいやつだって~なんか爆発とかするって~ちょっと~」とかドキドキしながら読んでいたために見事だまされました。いやだまされたって言うとなんか人聞き悪いのでアレですね、ウォルフと同じ気持ちでした。「あっそれだけなんだ!?」という感じです(良い意味で)。驚くと同時に安心しましたね。そうかこれならいろいろと上手く収まるよな~と。そういう意味でもたいへん参考になった次第です。

 いやしかし、アレですよ。『暁』『天道』『落陽』というかっちょいいネーミングから出てくる物がまさかハズレ券とは思わないじゃないですか。これはもう立派な叙述トリックですよ(?)。完敗でした。

 さて、そんな感じでべた褒めしてしまっていますが、個人的に残念だったことがひとつ……。それは『ページ数が足りない!』という点です。

 今作は文庫本サイズで160ページというボリュームで、文庫本の同人誌としては十分にページ数のある部類だろうとは思うんですが、それでももう少し詳しいところを知りたかった……という想いが個人的にはあります。

 具体的にはやはり、各キャラクターの掘り下げの部分でしょうか。今作中で特に強く描かれていたのは、もちろんミツキとバレットとのやりとりがひとつだと思いますが、それ以上にバレットとそのパートナーであるロキとの関係性が印象深かったです。また脇役であるフェイやスワロウテイル、文保局の等々力さんや高台寺さん、敵キャラのウォルフにアレン、誰も彼もがしっかりした個性のあるキャラクターとして描かれていました。だからこそ、彼らの詳細なプロフィールというものがじわじわと気になってきます。

 彼らはなぜ現在の立ち位置に居座ることになったのか? それぞれのキャラクターの間にはどういう過去が眠っているのか? 今作のストーリーに直接かかわってはこない故に描かれなかったのかもしれませんが、そういう端々の設定をもっと知りたいなぁという未練がそこはかとなく残りました。特に文保局のメンバーについては後半だいぶ空気になりかけていたなぁと……。ストーリー上、絡ませる必要がないと言えばないですし、しょうがないとは思うんですけどね。でもやっぱり寂しい気持ちが残ります。

 ……とかなんとか言う割にあんたさっき「設定が長々と書かれてないのが良い!」とか言ってたやんけ、とツッコミを入れられそうですね。すいません無茶言って。もし続編や世界観のリンクした作品などがありましたらぜひ読ませていただきたい所存です。よろしくお願いします。

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 作品の中身の感想はここまでとして、後は装丁の方を。まず本の表紙。かっこいい……。この絵はおそらく作者さんご自身が描かれたんでしょうかね。モノクロな出で立ちの中で異彩を放つ赤目がすごく良いです……でもって裏表紙はかわいい。なんだこのイケメン。いろいろと強いぞ。

 それから目次裏の犯行声明。バレットの綴りはてっきり「Bullet」かと思ってたんですが「Barrett」なんですね(何か意図があるんでしょうか……)。こういうマークというかシンボルみたいなもの、怪盗モノらしい雰囲気が感じられて良いな~と思いました。犯行声明の手紙の端っことかに印刷してありそう。

 さて、残りは余談です。作者の陽野あたるさんとはお隣のブースということで、当日はメンバー一同たいへんお世話になりました。ブースがお洒落に組み立てられているのを見て「あ~~~こっちもこんな感じの設営にすればよかった~~~!!」と後悔したのはいい思い出です。そういえば名刺いただくのを忘れてたような気がします不覚。次にお会いするときまでには名刺を準備してこようと思います。

 ……え~、たいへん長々しい感想になってしまい失礼しました。ぜひまたどこかで作者さんの作品に出会えればと思います。ありがとうございました。


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