現代の困難と魂の解放、バトルクライ。ーBTS”Dis-ease”を聴いて

気づいたら2021年になっていました。

先日グラミーが発表され、自分の中でようやっと2020年が終わった感じがしたので久しぶりに投稿しようと思います。

今回取り上げるのは韓国発ボーイズグループ・BTSが昨年11/20にリリースした『BE』です。めちゃ流行に乗って投稿しておりすみませんって感じですが、ひさしぶりにテンション上がったので私感を書くことにしました。

((私は専門家ではないため、ご容赦ください。))

今回惜しくもグラミー受賞を逃した彼らですが、活躍についてはここで書かずとも皆さま既知のことと思います。

私と同世代の方ならきっとわかってもらえると思うんですが、今まで世界を席巻してきたボーイズグループって欧米中心だったじゃないですか?バックストリートボーイズとか、ワンダイレクションとか、ジョナス・ブラザーズとか。そんな歴史の中でアジア発アイドルでここまで世界的に売れたのグループって、自分の記憶では彼らが初めてです。

2020年、世界中が目に見えないウィルスの脅威と闘い、マスクを外さず暑さに耐えていた8月、世界に向けてデジタルリリースされた"Dynamite"。

本国・韓国では彼らのルックやMVから(その予兆は確実にあったように思う)本格的なニュートロブームを巻き起こし、その勢いはコロナで疲弊した世界中にスッと一筋の風が通ったかのように、もやもやと霧がかった視界を晴らしてくれました。

在宅ワークで重だるい気が溜まった我が家にも響き渡り、なんだか元気が出てちょっぴり嬉しくなる曲として、間違いなく2020年一番リピートした曲となりました。

そんなスマッシュヒットを飛ばした彼らが満を持してドロップした『BE』。

その中でも強烈にコンプレックスを内包した曲が"dis-ease"。

この曲を聴いた方、「え、なんでこんなネガなタイトルなん?はちゃめちゃに陽じゃん」って思いませんでしたか?

出だしから陰と陽、高い音と低い音で歌詞とサウンドの皮肉さを物語っているようです。

主戦場であるライブやイベントができないアイドルに価値はあるのだろうか?

怪我と向き合う毎日は辛くて、投げ出したくて、仲間すらも憎らしい瞬間があったあの日々は遠く、そしてキラキラと眩しい。

世界を股にかけ邁進中の最中、コロナに直面し、途端今まで通りの不自由になった7人にはそんな気持ちすらあったのではないでしょうか。

何をしても今までどおりじゃないし、どう頑張ってもいつもどおりの自分達じゃない。曲に込められた彼らの想いは楽曲のように明るいものだけではないと、歌詞を読んでハッとさせられました。

鬱屈とした世の中に流されるまま24時間が過ぎていく。そしてまた繰り返す。オールドスクールなサウンドに乗っかって、タイアードな自分が世界に流されていく感覚を誰にもぶつけられない焦燥。

だってみんなが병(Dis-ease)だから。

それは気怠げなひとり語りのようで、まるで"Dynamite"の閃光によって象られた影が自分達であるかのように、強烈な自虐が込められているように感じました。

そこから"Maybe"と告白のように問いかけてくる爽やかなボーカルラインは、卑屈な自分を慰めるようで、言い訳をしているようにも聞こえるからなんとも不思議。

"just like I'm so fine"でサビへバトンパス。

そうやって言い聞かせることで、周りも自分も安心させる。

騙し騙しやってきたゲームのような毎日をサバイブするにつれ、自分がおかしいのか世界がおかしいのかわからなくなって麻痺状態になってしまって。

あくなき欲望は、自分のものなのか?

誰かを満足させるために自分を騙してきたのって、何も今に始まったことじゃないよな。

どうしてもそんな風に感じてしまうのです。

驚かされるのは、SUGAが歌う歌詞。

J-HOPEが自分に気合を入れ直すために飲んだ一杯のコーヒー(커피 한 모금으로 불안함을 해소)とは対照的に、ピリッと舌を刺激するスパイスが隠されたビターチョコを一口齧ったほろ苦さ。

人生そんな甘くない。けど、なんもないわけじゃない。

「わかっちゃいるけどこれが現実で、正直みんなだって普通じゃないじゃん。だったらこれからは、これが俺のための普通だよな」と、それまでの葛藤を受け入れるんですよね。"dis-ease"は誰かを守ってあげる曲じゃなくて、自分を抱きしめてあげる曲なんです。

サビの意味合いが微妙に変わるスイッチを彼が押して、ここからはモノクロだった情景にじんわりと色彩が灯っていきます。

自分に言い聞かせていた言葉が、誰かのためにも言えた。強がって放った言葉を信じ続けたら本当に強くなっていって、気づいたら心を晴らすだけの光を与えてくれた。

ブリッジに差しかかると、「こなしていた毎日の退屈さ」すら楽しんでやろうじゃないの、という挑戦的な声色と歌詞が痛快。

"I will never fade away"

世界に向けてなのか、もしくは自分に向けてなのか。きっとどちらもでしょう。彼らが歌うと、本当にこの言葉は強いんですよね。

消えない光、消せない光。

ぼんやりしていた世界が、瞬きするたびに輪郭がはっきりとしていくようで心地よい。ビートが速くなるほどに足取りも軽くなっていって、進まずにはいられない。


そうやってこの曲が盛り上がり、フィナーレを迎えて私は絶望してしまいました。

その先に何があるかじゃなくて、その先で自分がどうありたいか。

彼らに突きつけられるのはいつもそう。残酷な一撃必殺カード。

BTSが持ち得るものは彼らの犠牲や努力の上にある奇跡の一握りであり、

そんなものは自分の手のひらにひとつもないというただの怠惰であること。

同じ傷のようで、まったく違う。そんな痛みに一人では耐えられなくて、私はこの曲を何度も聞いてしまうのです。

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