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内閣官房さまのご要望にこたえたら世界初政府系機関発行SBTになった話

2022年9月2日、bitFlyer Holdingsから「ブロックチェーン領域への取り組みを加速させる bitFlyer Holdings 夏の Digi 田甲子園副賞のトロフィーと、内閣官房初となる NFT を作成」というプレスリリースを発表いたしました。

これはこのブログのタイトルの通り結構すごいことなのですが、当時のTweet↓ではそこまでアピールできず、この度bitFlyerのAdvent Calendarのネタを書いてという依頼をいただいたので内閣官房様、本件に関わっていただいた皆様のすごさをアピールしたいと思います!

夏のDigi田甲子園とは

「夏のDigi田甲子園」とは、内閣官房の内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局が運営する企画です。「デジタル田園都市国家構想」は、

地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていくことで、世界とつながる「デジタル田園都市国家構想」の実現に向け、構想の具体化を図るとともに、デジタル実装を通じた地方活性化を推進する

出所:内閣官房ホームページ

というものですが、この構想の実現に向けた地域の取組を募集し、特に優れたものを表彰するのが夏に行われた「Digi田(デジデン)甲子園」です。
こちらのページで受賞自治体の取り組みが見れます。各自治体さんの取り組みはとても面白く、個人的には実装部門 指定都市・中核市・施行時特例市準優勝の群馬県前橋市のマイナンバーカードを活用したタクシーによる高齢者等の移動支援とか、実装部門 町・村ベスト4の高知県日高村の日本で初めてスマホ普及率100%を目指す「村まるごとデジタル化事業」とか、超すごいじゃんと思いました。いろんな取り組みがあるので、ぜひ受賞自治体様の取り組み紹介ページは見ていただきたいです。

こちらの表彰においては物理トロフィー、物理賞状とともにNFTも内閣官房から受賞自治体に渡したいという相談を頂いたのが本件のはじまりになります。
内閣官房さまがイーサリアム上でNFTを発行するなんて日本超かっこいい・・・ぜひ担当させていただきたい!と思い提案を作成し、本件発注いただきました。

夏のDigi田甲子園のトロフィー

なぜSoulbound Token(SBT)としたか

内閣官房様との初回ミーティングで以下のニーズが明らかになります。

  • 受賞自治体のバランスシートにNFTが乗ってしまうと対応が困難

  • 受賞自治体のブロックチェーンの知識はまちまちなので秘密鍵管理を任せることをデフォルトにするのは難しい

ということで本件一緒に担当した株式会社IndieSquareの星野さんと相談し、「Soulbound Tokenにしたら前者の課題は解決するのでは!」ということに気付き、各所と確認の上この形式を採用しています。

Soulbound Token(以下「SBT」)とは転送ができないNFTで、2022年1月にVitalikが考案し、VitalikとかGren Wyleが共著で5月にホワイトペーパーが出ている概念です。

SBTホワイトペーパーのまとめ

今回の取り組みでは、技術的にはERC-721なので、NFTの名前、説明、サムネイル、作品データがあるウェブサーバー(IPFS等)へのリンクをプログラムに書き込むのは普通のNFTと一緒ですが、SBTとしてmintして相手へ渡った後は送付ができなくなるようプログラムしました。
こうすると、価値0円で発行したSBTは転売できないので価値がつくことはありません。

ERC-721のデータ構造

秘密鍵の管理をどうしたかについては、、、ここも考えて工夫したところなのですが、契約の話になってしまうので書きません。ご興味があれば金光のメールアドレス(midori.kanemitsu@bitflyer.com)までご連絡ください!

SBT発行から受け渡しまで

Vitalikが「転送できないNFT」を考案する前からNFTをPOAP「Proof of Attendance Protocol」、出席証明として使う事例は見られました。
IndieSquareさんは今年の5月にも自民党の勉強会の出席証明でPOAPを使われています
これらを発行するシステムがIndieSquareさんが開発されたHAZAMA BASEです。今回のSBTの発行にもこのシステムが使われました。
発行されたSBTはEtherscanでもこんな感じ↓でイーサリアムのエクスプローラーであるEtherscanで確認することができます。

Etherscanにおける飛騨市さまのNFTのページ

受け取りアドレスをQRコードアクリル板に印刷し、ここからイーサリアムアドレスを読み取ってエクスプローラーでNFTが見れる、という仕組みも作っており、飛騨市さまもリリースで写真を掲載していただきました。

飛騨市さまに飾っていただいているトロフィーと
NFT受け取りイーサアドレスのQRコードが印刷されたアクリル板

今後パブリックセクターでNFTを活用する際に問題になりそうなこと

何らかの証明、記録としてパブリックセクターがNFTを活用することは今後もありそうだなと思う一方、今回の取り組みを通じて今後の課題に気付きました。
パブリックブロックチェーンであるがゆえに、NFTやFTの受け取りを拒否できないことに起因する問題です。
当初わたしは、内閣官房様用のENS、naikakukanbo.ethと、受賞自治体様のENS(maebashi-city.ethとか)を取得して、、、ということを考えていたのですが、そうするとアドレスの特定が容易になり、悪意を持った第三者が不要なFT、NFTを当該アドレスに送りつけることが可能です。
仮に政治家の方のアドレスに価値のあるFTやNFTが送られてきた場合、贈収賄?と疑われる可能性もあります。また、犯罪利用された資金が流入してくるのを個人でブロックするのもたいへんです(取引所はこういうアドレスは監視してDB上アカウントへの反映をブロックできます。)

政治家の方とweb3政策について話される機会が多い、株式会社ブロックチェーン戦略政策研究所の樋田さんからは本件について、法律の改正は時間がかかるので変なトークンを受け取ったら転送できる「Voidアドレス」を作るのも有効じゃないかな、というアイデアもいただきました。
とはいえこれもそのアドレスを誰が管理するのか問題もあり、論点は多いです。

会計監査、税制も悩ましい問題です。bitFlyer Holdingsは設立時から、bitFlyerはEY新日本監査法人さんに会計監査をお願いしていて、EYさんのブロックチェーン、暗号資産にとても詳しいチームが担当してくれているのですが、日本でこういった対応ができるチームはほとんどないものと思われます。

bitFlyerグループのCrypto Strategyチームはメンバー皆NFTが大好きで、いろんな活用の可能性を感じています。
いろんな課題を乗り越えて、今回のような「記念品」としてのユースケースも増えるとよいなと思います。
改めて、内閣官房のみなさま、受賞自治体のみなさま、IndieSquareのみなさま、NFTのデザインを作ってくれたTree Design Studioのみなさま、トロフィーを作ってくれた友成工芸様、ありがとうございました!

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