ミッシェルガン・エレファント

 前川佐美雄の第一歌集『植物祭』から、ミッシェルガン・エレファント(以下TMGEと記載)を連想するのは私だけだろうか。塔短歌会の方であれば前川佐美雄はともかく、TMGEは知らない方が多いだろう。音楽番組ミュージックステーションで、ロシアの女性デュオt.A.T.u.が生放中に出演拒否した際、急遽二曲目を歌ったバンドと言えば思い出す方もいるかも知れない。TMGEは二〇〇三年に解散したが、不条理な歌詞とアベフトシの個性的なカッティングギターは今でも魅力的だ。
 一九三〇年発行の歌集とTMGEは本来まったく関係ないものだが、明治生まれの前川佐美雄の短歌がTMGEを想起させる理由は、『植物祭』の気持ち悪さによるものだろう。部屋の四角さを酷くおそれ「丸き室をつくれ」と言い出す「四角い室」、押入に対する執着と畏怖からなる「押入風景」、猫を虐待する「退屈」などの一連以外にも異常さを感じさせる作品は多い。

   胸のうちいちど空にしてあの青き水仙の葉をつめこみてみたし
   牛馬が若し笑ふものであつたなら生かしおくべきでないかも知れぬ
   カンガルの大好きな少女が今日も来てカンガルは如何如何かと聞く
   どうせ二人は別れねばならずと薔薇ばなの根もとに蝶を生き埋めにす
   いますぐに君はこの街に放火せよその焔の何とうつくしからむ

 前川佐美雄は塚本邦雄が師事した偉大な歌人であり、その後の前衛短歌に与えた影響等を考えながら真面目に読むのもいいだろうが、小難しい理屈はすっ飛ばし、大音量のTMGEをBGMにして読むと気持ち良い。   

塔2023年1月号「わたしのコレクション ロック、ポップスの歌④」を修正しました。



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