BUCK-TICK

 BUCK-TICKのボーカル櫻井敦司がライブ中に体調不良を訴えて救急搬送され、五時間後に逝去した。五十七歳だった。三十数年前のラジカセのCMで「重低音がBUCK-TICKする」と言っていた派手なヘアメイクのバンドを覚えている方もいるだろう。
 BUCK-TICKは一九八七年デビュー。この時期、私は「パチパチロックンロール」「アリーナ37℃」等の音楽雑誌を熱心に読んでいたので、BUCK-TICKの記事もよく目にしていた。同時期に活躍していたバンドの大半が、解散やメンバー脱退に至る中、BUCK-TICKはデビュー当時のメンバーのまま、三十年近く活動を続けていた。私はBUCK-TICKファンではないが、バンドブーム終焉後も変わらず
に頑張っているバンドがいることは嬉しかった。
 BUCK-TICKから連想する歌人と言えば、筆頭は黒瀬珂瀾だろう。春日井建が序文を寄せた歌集『黒耀宮』は、耽美な暗黒文学としての前衛短歌を踏襲する。『黒耀宮』にはビジュアル系バンドをモチーフにした作品が多い。BUCK
-TICKにちなんだ歌もある。
   darker than darknessだと僕の目を評して君は髪を切りにゆく
「darker than darkness」は一九九三年発表のBUCK-TICKのアルバムタイトル。本稿を書くにあたって初めてこのアルバムを聴いたが、「JUST ONE MORE KISS」や「悪の華」の疾走感とは一線を画する重厚な暗黒感があり、大人向けの良いアルバムだと思った。
 「僕」の目を闇より闇、暗黒より暗いと言った「君」は、「僕」の闇に惹かれながらも「君」自身は髪を切るという行為によって光の側に行こうとしている。
この暗い目の「僕」あるいはその目を見つめる「君」に、櫻井敦司の美貌が重なる。
 
 
 塔2024年1月号「私のコレクション⑩ロック、ポップスの歌」より転載しました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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