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泣き笑いのエンジェル

古市コータローの四作目のアルバムが「東京」って言うんだ。2019年の春に出た超名盤だ。この人の東京てのは上京組じゃ表現できないなんかがある。粋というかクールというか。
聴いたことがねーヤツは今すぐに聴けよ。おすすめの聴き方は東京のどっかの酒場でひとり酎ハイ飲みながらだろうな。キマるよ。


ただ、これはコータローさん本人にも前に言ったが一曲だけ聞かずに飛ばす曲がある。
それが「泣き笑いのエンジェル」って曲。
作詞はせきけんじ。永ちゃんでおなじみだな。
曲自体は昔別れた女と海にドライブした思い出の曲みたいな感じ。いい曲なんだ。

けどそこでひとり思い出す女がいてどうも無理なんだよね。


90年代、当時ハタチだったおれは九歳上のキャバ嬢と付き合っていた。

おれはソイツに悪い遊びを全部教えこまれた。
いい思い出なんかロクにない。
付き合ってたって言っても基本おれがすることはソイツのアウディで送り迎えさせられたり、まあヒモかパシリみてーなもんで色んなとこ連れ回されたよ。
今日は六本木の賭場に行くからそんな汚い古着のシャツ脱げと言われてプラダを着せられて、行ったらTRFのやつらがいた事もあった。奥の卓に小室さんいるのよって言われたよ。あんなの1ミリも興味なかったけど。

愛嬌があってペテンもきれたから、キャバを上がってすぐに自分で事業を始めて速攻で軌道にのせてた。色んなとこに出歩いてたのは人脈作りの為だったんだなぁとあとから感心したよ。

おれは学生のくせにソイツに教わった手配博打にのめってたから散々ソイツから金を貰ってぷらぷらしてたんだけど、ソイツの仕事がバズって忙しくなったりしたのと、夜になるとなんかを炙って眉毛抜くのに集中してる姿が嫌になって少しずつ疎遠になって、他の女のとこに転がり込む形でソイツとは終わった。

10年くらい前かな、当時から飼ってた猫が死んだんだって突然電話がきて久々に会ったんだよな。
ソイツの会社の社長室に行ったらルブタンがズラッと並んでたの覚えてる。相変わらず利発で勝気なそのまんまのルックスだったけど、やっぱ猫が死んで落ち込んで弱ってるようにも見えた。関内でメシ奢ってもらって、それが会った最後だった。



なあ、コロナがピークのとき健ちゃんから電話あったんだよ。
そんときおまえの会社潰れたんだって聞いたよ。
誰も連絡とれないんだってな。生きてんのかよ。
おまえ強気にみせてたけど本当は気を張って仕事してたんだよな。スポンサーなんかいなかったし全部自力だったもんな。
社員やクライアントに気弱なとこを隠すために鼻から吸ってキメて。
弱いとこ知ってたくせに知らんぷりして悪かったな。
でもさ、おれもガキだったし、おまえもおれに色んな悪さを仕込んだんだからおあいこだろ?

せきけんじが描写したみてーな美しい思い出なんてまるで無い付き合いだったけど、付き合い始めたばっかの頃一回だけ夜の江ノ島にカレー食いに行ったな。
あれだけは良く覚えてんだよ、おまえシャツにカレーこぼして半べそかいてたから。


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