下積み時代の話②

さてどうしたものか。手渡しでもらえたはずの給料は一切貰えなかった。午前中には家につき、嫁の帰りを待った。あら、今日はやいねなんて普段通りすぎる嫁に最初はなにも言えず。発泡酒を2杯くらい飲んだくらいにやっと伝えることができた。

嫁はただただ泣いていた。涙も枯れた頃怒りの矛先は俺に向かってきた。今でも後悔しているが、そのとき人生で初めて女性に手をあげてしまった。軽い平手打ち。言い返す言葉が無かったのと今までの全てを否定する言い方に腹がたち、どこまでも蔑む言い方に我慢の限界だった。

その瞬間にフラッシュバックした。

ガキの頃親父が母親に手をあげているのをみた時に、殺してやりたくなるほど憎んだ親父と同じ事をした。一番みたくない親父の姿。酔って大声を出しテーブルをひっくり返す、ただただ妹と部屋の隅で小さくなりわんわん泣いたあの幼少期。


嫁は子供達を連れて家をでた。3歳だった長女は家を出る時、パパまたねと笑顔で手を振った。うん、またねと笑ってかえし、誰もいなくなった部屋でわんわん泣いた。



明日から何をどうすればいいのか。同僚や先輩に片っ端から連絡し、とりあえず明日の朝みんなで集まって今後どうするか決めようという話になった。会社に集まるのは取り立て屋がいるからと近くの公園に集まった。給料未払いの時点で社員のうち二人は見切りをつけ社員全員は集まらなかった。噂は広まるのが早い、俺にもうちにこないかと連絡があった。きっと来なかった二人はそうゆうことだろうなと思った。他の社員には、その事は言わなかった。

3時間近く話あっただろうか、社長のつぎに偉い弟が涙しながら解散しようと。給料がもしかしたら貰えるのかと淡い期待はあったが、最悪の結果となった。弟に殴りかかろうとするやつや、裁判で訴えてやると騒ぎだすやつもいた。公園はその日異常な雰囲気だった。

結局、会社は解散。給料は未払いのまんま。会社に残った工具や部材は持っていってくれとの話に収まった。誰よりも先に会社に向かい、取り立て屋が居ないことを確認してから会社のまだ使えそうな工事や金になりそうな部材を取りにいった。会社の中はぐちゃぐちゃに荒らされていた。あったはずのコピー機やパソコンは無く、部材や工具もほとんど残っていなかった。それでもまだ使える錆た工事がいくつか残っていた。そこでも争いがあった。みんな考えることは同じで良いものから取り合いになる。会社の中で特に仲の悪かった二人が喧嘩をしだし、あろうことか工具でやり合い救急車まで呼ぶ羽目になった。

争いの中で、工具や部材をみんなが探してる間俺一人が受注書を探していた。受注先がわかれば、営業に行ける。話を聞いてもらえさえすれば一件二件くらいなら大変だったねと温情で現場が貰えると思ったからだ。ぐちゃぐちゃになった会社の中で必死に探した。10社分集まったタイミングで救急車が来る前に会社を出た。俺がいるべき場所じゃない。とにかく気持ちの悪いあの空間から逃げ出したかった。


家に向かう途中、何度も嫁に電話をかけた。出なかった。まだ怒ってるのか、そりゃそうか。その時はまだそのくらいにしか思っていなかった。





次回は個人事業主奮闘編を。みんな沢山読んでくれてありがとう。

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