らげたけと摩訶不思議大銀河のおはなし
それはまだらげたけがおやすみの際はちゃんとおふとんに潜って眠っていた頃のことです。
うさぎ艦長の操縦する宇宙船らげたけ号は広大なる宙をあてもなく片道切符の旅を続けておりました。
うさぎ艦長は羅針盤の針をぐるぐると回し、鼻をピスピスさせて操舵士のいっしきさんに指示を出します。
それを聞いたいっしきさんは羅針盤の針のぐるぐる回ったように操舵桿を回し、らげたけ号もぐるんぐるん回りながら別の方角に向きを変えて進んでいきました。
予期せぬ回転に腹を立てて船底から出て来たのはらげたけです。
らげたけはうさぎ艦長に不満を言いました。作っていたモデルのボーンが吹っ飛んでどこかに消えてしまったのです。折角いい感じにウェイトも塗ったのに最初からやり直しです。
うさぎ艦長は鼻をピスピスさせいっしきさんに責任を押し付けました。船を動かしたのはアレなのです。うさぎ艦長は全然わるくなんてありません。
らげたけがいっしきさんに向かうと、いっしきさんはいっしきさんで、艦長の言う通りに盛大に船を回転させただけなので全ての責任は艦長にあると言うのです。
コレではらちがあきません。らげたけはこの件について言及しない方がいいと察しました。おそらく罪のなすりつけ合いです。
それにそもそも航海士はらげたけの役割でしたが、気の向くまま心ゆくままフリーダムに行きたかったらげたけは特に指示などせずスッカリ任せきりにしていたので、そこに気付かれると厄介です。おかげさまでもはや帰り道すら分かりません。宇宙船らげたけ号があてもない片道切符の旅を続けているのも半ばそれのせいです。
一応ふたりともの機嫌がおさまったところで、一行は次の先に向かいました。
行き着いた先はじゃばら宙域でした。ここでは星々が謎の結合力によってグニョングニョンと互いの距離を縮めたり伸ばしたりをしながら一帯を折り曲げています。
この宙域では花火が多く打ち上がり続けており、まるで納涼大会のそれそのものです。
そんな綺麗で涼しげなじゃばら宙域の星々のそれぞれを見れば、どこの住人も地面にホチキス芯のようなバーを無数に突き刺して、各々がそれにしがみついて暮らしてありました。
星の移動が不規則に激しすぎて、振り解かれないようにするので精一杯なのです。
中にはその遠心力に耐えきれずバーから離れてしまうものも多くありました。
そのもの達はものすごい速さで宇宙空間へと放り出され、宇宙の外圧の無さに耐えきれずに花火となって華を咲かせます。
この宙域の納涼感は多くの力なき命によって生み出されていたのです。
見れば、その中にシュールストレミングの缶に無機質な脚のいくつも生えたものがあります。
いくらなんでもそんなものが宙に放り出されて爆発すれば大変です。
らげたけは咄嗟に出来る限りの険悪な表情を作り、シュールストレミング缶に無言の圧をかけました。
おかげさまでシュールストレミング缶は内圧と外圧が釣り合い、爆発することもなく穏やかに宇宙をのんのんと漂うことが出来ました。
とはいえ、いずれ爆発されても困りますので、一行はその多脚な缶を保護し、じゃばら宙域を抜け出しました。
らげたけが自由すぎてろくに航海士としてを務めないので、多脚缶には航海士があてがわれました。
らげたけは特に何もしなくてもいいように相談役を請け負うことになりました。
多脚缶が次の行き先を指し示し、うさぎ艦長が指示を出し、操舵士のいっしきさんが舵を切ると、らげたけ号はものすごい速さで黒い星へと進んで行きました。
これは何かがおかしいです。よく見るとあの星には光がありません。アレはブラックホールです。
らげたけは多脚缶を責めようとしましたが、これはまた罪のなすりつけ合いが始まる予感がしましたし、何よりらげたけがろくに航海士をやってなかったのが発端なのがバレるとマズいです。
一行はどうすんのコレ状態でブラックホールから逃げようと手を尽くしましたが、どんどんと引き込まれていきます。
命運ここで尽きたりか、と諦めが漂い始めたその時、らげたけはブラックホールの中に何かを見つけました。
それは頭部を電子レンジにした筋肉隆々の男でした。
恐るべきことに、レンジ男はその筋肉の力とパワーで超重力を克服していたのです。これはすごいことです。
らげたけがそのレンジ男に身振り手振りで状況を説明すると、レンジ男は地を蹴ってらげたけ号まで一直線に跳びました。
そうしてらげたけ号をガッシリと掴むと、ブラックホールの重力の及ばないところまでグイと押し進めてくれました。
一行はレンジ男に感謝をし、用心棒の役割を与えました。
そうして、特に行き先を決めてもどうせろくなことにならないと判断した一行が、またあてもなく船を進ませていると、突如として砲撃に見舞われました。
敵性星人です。
らげたけは用心棒を責めるかどうか迷いましたが、先程のじゃばら宙域でこっそり手に入れてた不発の花火をナイショで飛ばして遊んでた方向から砲撃が来たことを考えると、どうも原因がこちらにあるような気もしましたので、何も知らぬ存ぜぬを決め込むことにしました。
うさぎ艦長が指示を出すと、一同は船底に潜り込みました。
後に残されたのはいっしきさんです。
いっしきさんは操舵桿を握ると、おもむろに何だか難解そうに聞こえるような口上を唱え、あからさまに見えすいたカッコつけを行ってから、盛大に舵を切り始めました。
らげたけ号は縦横無尽、変幻自在にクネクネと敵弾を避けます。
これもらげたけ号が一枚の絨毯で出来ていることからなるしなやかさのなせる業に他ありません。
ひらりはらりと蝶のように舞い、蜂のように刺す火力は持ってないらげたけ号は華麗に回避を続けます。
操舵士のいっしきさんはもう上機嫌で、途中からは自動操縦モードに切り替えてハイテンションに踊ったりなどして自身の操舵技術の素晴らしさを自慢しております。
これには敵性星人も怒り心頭、避けられるのなら避けられようもないものを撃ち込めばいいと、特注製の特大砲弾を放ってきました。
そこでいっしきさんは、これや勝機なりと、絨毯なる船体を大きく広げ、砲弾を受け止めます。
船体が大きくしなり、砲弾をすっぽりと包み込むと、さあ、勢いよく弾き返してしまいました。
流石の敵性星人もびっくりです。
慌てて逃げ出そうとするも、その弾の威力のいかほどかは自分達が一番知っております。
あわれ、為す術なく、宙の藻屑と消えて無くなってしまいました。
らげたけが船底から這い出して、一息ついて辺りを見渡せば、宝箱の浮かんでいるものが見えます。
気になって開けてみれば、中には緑髪のヒメがいます。きっと希少なので攫われていたのでしょう。頭の先から茶葉の生えるお茶の生き物です。
茶葉ヒメはどうやら探検の最中にウッカリ攫われてしまったようで、恐れからか何からか、緑髪の下の方は黄色からオレンジへと変色しておりました。
らげたけはコレも手厚く迎えることにしてみました。
最初はうさぎ艦長といっしきさん、そしてらげたけだけだった船内も、結構ごちゃごちゃしてきました。
賑やかなのは良いことなので、らげたけ以下一同は特に気にもしていませんでしたが、賑やかになると不思議と船頭が多くなって船が登山をするという言い伝えがありましたので、一行は逆に水辺を目指しました。
そうして辿り着いたのがナメクジ池でした。
ナメクジ池は世にも珍しいアンゼンナメクジの住む池で、池の水が全体ナメクジで出来ている、ナメクジファン垂涎の人気スポットです。
らげたけはナメクジ池を見ると真っ先に飛び込んでいきました。
ナメクジはひんやりとヌメヌメしていて非常に心地良いですし、ここのナメクジはアンゼンナメクジなので寄生虫などの心配もなく、まったく安全そのものです。
身体の至るところを踊りまわり、足の先から奥歯の裏側まで、全体ナメクジだらけで不思議な快感です。
らげたけはじんわりと温かい気持ちをどこからともなく、主に下腹部のあたりから感じたような気がしました。
気がつくと、らげたけはおふとんの中でした。
なんだか奇妙キテレツなことばかりがありましたが、アレは何だったのでしょうか。
夢のような、夢でないような、宇宙の旅。
睦まじそうな、剣呑そうな、ちぐはぐで愉快ないきもの達。
不思議な気持ちで起き上がったらげたけは、ふと、あることに気付いておふとんをめくりました。
アレは確かに夢ではなかったのです。
その証拠に、らげたけのおふとんには摩訶不思議な大銀河が描かれてあったのです。
らげたけはこっそりとおふとんを洗って干し、こんな羽目になるなら、もうおふとんなんかで寝てやるものかと強く決心をしました。
めでたし、めでたし。
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