らげたけときらきら石のおはなし

 それはらげたけのおうちがまだきらきらしていなかった頃のことです。

 らげたけがいつものように河川敷で鉄砲水を眺めながらほのぼのしていると、中洲でひなたぼっこをするいっしきさんを見つけました。
 いっしきさんはゴロンゴロンしてるうちに水に押し流されていきましたが、しばらくののちに川下から這い戻ってきてらげたけのところへとやってきました。
 いっしきさんはどうやら今の衝撃ですごい魔法を身につけたみたいでした。
 いっしきさんが言うには、そこらへんの石を持ってくるとすごいことになるらしいのです。
 らげたけはさっそく足元の石を拾い、いっしきさんに渡してみました。
 いっしきさんはその石を受け取ると、サッと布を被せ、サッサッと取り除きました。
 するとどういうことでしょう。なんの変哲もない石が、いつの間にやらきらきらと光るきらきら石になっていたのです。これはすごいことです。
 らげたけはびっくりし、その石を見せてもらうことにしました。
 それは本当に何の細工もない本物のきらきら石で、きらきらしていました。
 いっしきさんは非常に自慢げで、その石はらげたけが貰っていっていいとまで言いました。
 らげたけはそれを持って帰り、ずっと眺めていました。
 きらきら石は輝きの衰えることなく、いつまでもきらきらと光っていました。

 翌日もらげたけは河川敷に行きました。
 もしかするとまたいっしきさんに魔法を見せてもらえるかもと思ったのです。
 案の定、少しすると川下からずぶ濡れになったいっしきさんが這い戻ってきました。
 らげたけはさっそく足元の石を拾い、昨日のアレを見せて欲しそうにしました。
 いっしきさんは快くサッとサッサッとし、またもただの石をきらきら石へと変えてくれました。
 らげたけは改めていっしきさんをすごいと思い、更にもひとつ石を拾って渡しました。
 いっしきさんはサッとサッサッとし、きらきら石は2つに増えました。
 らげたけは喜び、2つのきらきら石といっしきさんを交互に見つめました。
 いっしきさんはほんの一瞬ほど困ったような顔をしていましたが、すぐ笑顔で石を差し出してくれました。
 らげたけは嬉しくって、それを持ち帰ってからも寝る間も惜しんで眺め続けていました。
 きらきら石も、寝る間も惜しんでいつまでもきらきらと輝きを絶やしませんでした。

 更に翌日、らげたけは河川敷の石を風呂敷いっぱいに拾い集めて下流へと向かいました。
 らげたけが下流に辿り着くと、ちょうどタイミングよくいっしきさんが流れ着いて来ました。
 らげたけはいっしきさんを引きずり起こすと、さっそく魔法を見せてもらうことにしました。今日は石も時間も沢山あります。
 いっしきさんはサッとサッサッと次々に石をきらきら石に変えていき、たちまちのうちに風呂敷いっぱい分の石は全てきらきら石になりました。
 らげたけはもう大喜びです。さっそく風呂敷を包み、いっぱいのきらきら石を持って帰ろうとしました。
 しかし、いっしきさんはらげたけを止めました。その表情はとても笑顔ではなく、渋いものでした。
 らげたけとしてもそのようないっしきさんからきらきら石を貰うのは忍びなかったので、渋い顔のいっしきさんの口角のあたりをクイッと押し上げ、快諾の笑顔にさせてから貰っていきました。
 きらきら石が多く貰えたので、らげたけはこれをもっと集めて壁材にし、おうちを作ろうと思いました。
 らげたけは明日を楽しみに床につき、きらきら石はらげたけの眠る間も、それを妨げぬようにきらきらを放ち続けていました。

 翌日がやってきました。
 らげたけは至る所からかき集めてきた石を手に、早朝からいっしきさんの家の前で張り込んでいました。
 そしていっしきさんが出て来てギョッとする間もなく、その手に布を渡して石をサッとサッサッとさせました。
 石はどんどんときらきら石になっていき、いっしきさんは次第にボロボロと泣き崩れ始めました。
 らげたけは、いっしきさんに涙は似合わないと思いましたので、布を渡してサッとサッサッと涙を拭き取らせました。
 すると涙は真珠に変わっていきました。
 いっしきさんは際限なくボロボロ泣き続けていた為、あたり一面、きらきら石と真珠で埋め尽くされました。
 いつまで経ってもネタが尽きる様子がないのでらげたけはある程度で一旦切り上げて帰っていきました。
 
 翌日になったばかり、ちょうど日が変わったタイミングでらげたけはいっしきさんを叩き起こして魔法を見せて貰うべくおうちを出ました。
 そうしていっしきさんの家が見えてきたあたりで、家の上に浮かんでくるいっしきさんを見ました。
 いっしきさんは不思議と透き通っており、屋根をすり抜けて空の高くへと浮かんでいっていました。
 その周りからはきらきら石や真珠や、その他さまざまの宝石が生み出され、緩やかに落ちてゆき、家の周りに小高く山を作ってありました。
 そんな中、いっしきさんは穏やかな顔でそのまま空の向こう側へとどんどん浮かび続け、その内小さくなって見えなくなってしまいました。
 その後は宝石ばかりが延々と、いっしきさんの消えていった空の向こう側から絶え間なく降り続けてありました。

 らげたけはその降り続く様を見ていましたが、しばらくするときらきら石をかき集めておうちに帰り、それらを壁材にきらきら石のおうちを作り上げました。
 そうしていっしきさんの家のあった場所、今では宝石で埋まってしまった山に戻ってくると、そのさまざまなる宝石を使ってどこまでも高い塔を作り始めました。
 しかし、どこまで塔を高く積み上げようとも、更に空高くから宝石は降り注ぎ、いっしきさんの姿は見えませんでした。

 そこでらげたけは、いっしきさんは手品をしていたのではなく、本当に魔法を使っていたのだと初めて知りました。
 空はただ静かに真珠を宝石を、きらきら石を降り積もらせるばかりでした。

めでたし、めでたし。

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