全国の建築学生がYouTubeを通じて集結。空き家改修から勝山のまちのにぎわいを考える~FMAC勝山ゼミ~
1.はじめに
空き家の概要
福井県勝山市本町。市内にある「恐竜博物館」が家族連れのお出かけスポットとして取り上げられることが多い勝山市ですが、明治時代には製糸業が盛んになります。中でも、本町と呼ばれる地域は、花街として栄えました。
そんな現在も地元の人々でにぎわうこのエリアに、一軒の空き家があります。
旧入船邸。かつて居酒屋として営業し、地元の人々から愛されるお店でしたが、空き家となっていました。
一方で、この物件の周りでは、地元の若者でにぎわう居酒屋や、磯崎新設計の住宅を改修したカフェなど、昔から続いてきたまちの活気や、デザインによる新しい流れも生まれています。
私たちは、この空き家・旧入船邸を対象に、勝山のまちのにぎわいを考える空き家改修プロジェクトをはじめました。
この記事では、プロジェクトのこれまでの活動内容とこれからどんなことに取り組むのかに関して、お伝えします。
2.私たちについて
FMAC勝山ゼミとは
本プロジェクトでは、YouTubeでの募集で集まった全国の建築学生と地元の学生が、空き家の改修を通して勝山のまちのにぎわいを考えています。
建築学生に寄り添うYouTubeチャンネル「FMアーキチャット(FMAC)」と、勝山市との共創プロジェクトとして、「FMAC勝山ゼミ」という名前で活動しています。
FMAC勝山ゼミが掲げる3つの目標
FMAC勝山ゼミでは、3つの目標を掲げています。
①社会課題となっている空き家問題の解消を目指す。
少子高齢化等の影響によって使われなくなった空き家は年々増加し続け、社会課題となっています。この課題を解決するため、近年、空き家を活用したまちづくりプロジェクトが全国各地で広がりを見せています。
FMAC勝山ゼミでは、「建築」と「メディア」をかけ合わせた取り組みに全国の建築学生の力を組み合わせることで、本プロジェクトだからこそできる空き家問題の解決方法を提案・実施いたします。
②消滅可能性自治体に該当する勝山市における関係人口の創出
勝山市は、人口戦略会議によるレポート(2024年4月公表)にて「消滅可能性自治体」に該当すると発表されました。FMAC勝山ゼミでは、2つのアプローチによって関係人口の創出を目指します。
1つ目のアプローチとしては、地元学生だけでなく、勝山市外や福井県外からも建築学生を募集し、ともにプロジェクトを実施することによって、普段は勝山市外で活動している学生にも、勝山市と継続的に関わってもらえるようにしています。
2つ目に、勝山のまちと勝山市外・福井県外との交流を生む拠点やコンテンツをつくることで、勝山市の関係人口の創出を図ります。
③大学で学んだことを活かしながら、実施プロジェクトとしてビジネス視点を持って空き家改修とまちづくりを行う。
建築学生が一般的に大学で学ぶのは、設計の手法や、その根本に流れる思想などであることが多いです。その中で、建築の基礎を学んだうえで、ビジネス(事業)として成立させる力も身に着けられたら、さらに社会で活躍することができると考えています。
FMAC勝山ゼミでは、実施のプロジェクトとして、様々な背景を持つ社会人の先輩方と一緒に取り組むことで、改修した物件を継続的に運営しつつ、まちのにぎわいを生み出す方法を探っていきます。
3.これまでの「旧入船邸活用プロジェクト」について
本プロジェクトは、2023年8月に始動し、2023年度の1期では、3回の現地訪問を通して検討したプランを地元住民の皆さんに提案しました。そして現在取り組んでいる2期の最終的な目標は、空き物件の改修を終え、拠点のプレ運営に着手すること。今年度予定している4回の訪問を通して、実現へとぐっと近づけていきます。
【1期】第1回(2023年8月30-31日):物件視察、フィールドワーク、住民ワークショップ
FMAC勝山ゼミの初回は、今回対象となる物件の視察と勝山市内のフィールドワーク、地元住民の皆さんを交えたワークショップを実施しました。
物件へ実際に足を踏み入れて観察することで、これからも価値として残していきたい部分や改修が必要な箇所などをプロジェクトメンバーで共有することができました。
また、勝山市のおすすめスポットを巡って、魅力を知るフィールドワークを行いました。
恐竜博物館や平泉寺をはじめ、物件の周りの街並みやお店、大清水(おおしょうず)など、様々な魅力のあるスポットを市外から来た建築学生の視点で見ていきました。
住民ワークショップでは、市史編纂室の方からまちの歴史を学んだり、地元住民の皆さんからまちの誇りや足りないと感じているものを伺ったりしました。
第1回訪問では、旧入船邸の活用を検討していくにあたっての材料を集めることができました。第2回訪問に向けて、3つの班に分かれて物件の活用プランと、その先にあるまちの活性化ビジョンを検討していきました。
【1期】第2回(2023年11月3-4日):活用プランの検討(設計・企画の両軸から検討)
2回目の訪問では、各班で検討してきた活用プランを発表した後、それぞれのアイデアを統合したひとつのプランとして、物件を改修する設計を考える班と、物件を使うプランを考える班とに分かれて検討をすすめていくことにしました。
【1期】第3回(2024年1月5-6日):事業構想のプレゼン・フィードバック、1期のまとめ
1期最後となる第3回の訪問では、第2回訪問以来、設計面と企画面からより詳細に検討を進めてきた事業構想を、住民と関係者に対してプレゼンしました。
これまで検討してきた設計プランと活用プランをブラッシュアップする機会になりました。1期の成果物として、本プロジェクトでのテーマやコンセプト、改修案など、プランの大きな方向性が定まりました。ここで提案したプランは、本記事内の次のパートでご紹介いたします。
【2期】第1回(2024年6月28‐29日):住民ワークショップ、事業構想の磨き上げ
2期として初回となる訪問では、地元住民とともに、地元住民だからこそ知っている、勝山の深い魅力を掘り下げるワークショップを実施しました。積極的な地元住民の皆さんが集まってくださり、たくさんの生の声から、ネットを探しても見つけられないような深い魅力を教えていただくことができました。
4.活用プランと今後の展望
活用プランの概要
テーマ:「発掘」
勝山には、市外の人にまだ知られていない魅力があるのだと、今回のプロジェクトで勝山を訪れたことによって私たちは気づきました。化石のように埋まっている多くの魅力を発掘し、かけ合わせていくことによって、さらなるまちのにぎわいを生み出していきます。
コンセプト:「過ごせる発掘現場」
本プロジェクトでは、旧入船邸を、勝山の魅力を発掘していく「発掘現場」として捉えます。物件の改修を通して、宿泊や飲食をしながら会話が生まれる「過ごせる発掘現場」をつくり、そこで発掘される勝山の新たな魅力や、勝山市内外の人々の交流によって生まれるコミュニティ、ここで過ごすなかでつくられる思い出を堆積させ、新たな地層をつくっていきます。
改修案:
上記のテーマやコンセプトをもとに組んだ設計・活用プランが、1階をチャレンジショップ&カフェ、2階をゲストハウスにするという案です。
旧入船邸の改修によって勝山のまちのにぎわいを考えるにあたり、飲食店や個展など、何かをはじめたい人がはじめやすい環境(=チャレンジショップ)をつくることで、まちの中での新しい動きを生み出していきます。カフェスペースは、コワーキングスペースとして利用することも可能です。
また、観光客が多い一方で宿泊施設が足りていないという地域の課題から、2階にはゲストハウス機能を持たせます。個室とドミトリーをそれぞれ設けることで、バックパッカーからグループまで広い客層に対応することを可能にします。
勝山を訪れた人が気軽に宿泊できるゲストハウスや、リモートワークでの仕事場としても使えるカフェスペースなど、市外からの観光客が滞留する仕組みをつくります。また、地元の活気ある住民が集まるコミュニティとして拠点を育てていくことによって、市外からの観光客が地域と接するきっかけを生み出し、関係人口の創出を図ります。
FMAC勝山ゼミの今後の展望
・「気軽に泊まれるゲストハウス」×「はじめたい人を応援するチャレンジショップ」として、地元住民の皆さんにも市外からの観光客の皆さんにも愛してもらえる拠点を目指します。
・旧入船邸の解体、改修、DIYに取り組み、2024年度末の竣工を目指します。
つきましては、8月と11月に空き家改修ワークショップを実施予定です。勝山の新しい拠点づくりを一緒に盛り上げていってくださる市内外の参加者の皆さんをどしどし募集中です!
・SNSにて活動の様子を発信していきます。
現在、最も建築学生に寄り添ったYouTubeチャンネル「FMアーキチャット」にて活動内容を更新中です!
5.おわりに
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
「FMAC勝山ゼミ」のことを少し理解していただけたなら幸いです。とはいえ、このプロジェクトはまだまだ始まったばかりです。ぜひ、この記事を読んでくださった皆さんにもご参加いただきながら、一緒に勝山のまちのにぎわいを考えていけたら嬉しいです。引き続きどうぞよろしくお願いいたします!
<主催>
福井県勝山市
<運営>
FMアーキチャット
勝山市地域おこし協力隊
UNiKA Architect
micro development inc.