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鈴林まり「次の課題、もうある幸せ(6日目)」

今日は蛇松緑道をひとりで歩いて
沼津港へ向かう途中、

ベンチにご婦人が掛けていらして
こんにちは、とご挨拶したら

緑道の気持ちのいいことや
蛇松線が通っていたころは
こんな風に座れなかったこと、
雲がなければここから
富士山がちょうどよく見えること
老若男女がこのベンチを使うのだし、
こんないいところなのに無料で
他にこんなのある場所はない
たまには幼稚園児たちも遊びに来るのだと、
園庭をぐるぐる回るのでなくて
こんな長いところを思いきり走れていいのだと
語って下さった

そしてそのまま30分くらい
ほぼ同じ話を繰り返し伺っていた
内容はまったく同じなのだけれど、
私のあいづちがゆるやかに取り入れられていって
ほんの少しずつ語り口が変化していく

いいですね、とか
最高、
幸せ
絶対そうですね、って

近い関係の相手に、
前と同じ話をして怒られた経験が何度かある
またその話?
もう聞いたよ
そればっかり!
と、うんざりされるやつである

今日30分くらいウンウンって聴きながら、
どうしてこの行為はダメとされているんだろう?
と自然と考えていた

そして、歌だったらこんな感じで
想いをくるくる、
ずっと同じフレーズを繰り返してても
それが普通なのになぁと思った

ご婦人はとっても優雅な語り口だったし
きれいな歌が途切れず続くようだったのだ

それじゃ、
もうちょっと先まで行ってみようと思います

2回目に告げて、ようやく本当に歩き出した

お引き止めしてごめんなさい、と
ご婦人はおっしゃっていて
楽しかったし、木陰で休めましたと
私も2回伝えることができた

沼津港深海水族館では、
高足ガニが待ち構えていた
私が存在に気付いたときには
もうロックオンされていた

ガラス越しに追いかけてきて
カメラの画角にわざわざぴったり収まるし
向かい合っていたら
にらめっこがめちゃくちゃ強いことが分かった
2回吹き出して完敗だった

それからお寿司を食べて、
沼津駅行きのバスに乗った

夕方、とある新聞社さんの取材に同席させてもらった
この滞在のこと、昨日の意見交換会のこと

最後にいただいた質問に、
ぜんぜん答えがまとまらなくて、
というか、なくて
自分でびっくりした

「これからこんな俳優になっていきたい
 というのは、
 これからの夢はありますか?」

たしかに、どう考えても
なにか一言で表せたほうがいい
せっかくこんな機会をいただいた立場で
でもふさわしい感じの答えがなんにも浮かばなかった

あとから落ち着いてみれば
自分にとっての価値観には思い至ったけれど
新聞に合った言葉ではない気がした

そのあと、変なことに気付いた
今、滞在で夢がたくさん叶っちゃったばかりなのと
あと、職業上の夢は
ふだんから叶っている中で生きてしまっていて
そのありがたみでけっこう精一杯なことに

ぽっと与えてもらって
飛び込んでみたら最高だった
たぶんこれが夢にあたるものだった、
ということが生きていて多すぎる

ひとつシンプルに思っていたのは、
今回せっかくこうして沼津のみなさんとつながることができたから、
今後ここへ来られる仕事があるといいな
そうなる方向に行動したいな

それから、
次の役作りに、この滞在で吸収したことを
すぐにでも溶かし込めそう、ということ

今回の助成は、結果を問わないものだけれど
未来について一言でプレゼンテーションする力については、考えていかないといけない

完璧でなくていいから、
なにか一言で示さなければ義を果たせない場面がある
そのことに今日は気付かせていただいたのだと思う

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