小栢可愛「沼津・三島・清水町-滞在まとめ」
これまで、私はほとんど沼津、三島、清水町を訪れたことがありませんでした。しかし、2021年に三島にゆかりのある人物に関する作品を制作したことがきっかけで、「三島」という地名が私にとって特別な意味を持つようになりました。そしてこのMAW2024を知り、「三島」という場所を単なる言葉ではなく、もっと具体的で実感を伴うものとして理解したいと思い、応募しました。
「場所を知る」とはどういうことなのか? ただ人と話をするだけで、その場所を知ったと言えるのだろうか? 一週間という限られた時間で、何ができるのか? 「旅人」として期待されていることに応えられるだろうか? こうした不安や疑問を抱きながらのスタートでした。
これまで経験してきたレジデンス(滞在型の制作活動)を振り返ると、ただ「そこにいる」だけでも難しいと感じることがよくあります。ですが、MAW2024では滞在期間が非常に短いため、その「居ること」の難しさは緩和されるだろうと、少し楽観的にも考えていました。
今回出会った(出会わせてもらった)方々は、地元を心から愛していたり、自ら行動を起こしてその土地をさらに好きになるための変化を生み出したりしている人たち。そうした行動に共感する人々が集まり、コミュニティが形成されていました。コミュニティの形や性質は沼津と三島、隣あう場所でも違いがある印象を持ちました。両者に共通するのは、大切にしている価値観や、その活動の背景にある哲学のようなものが個々に明確にあること。その一端に触れることができたのは、私にとって非常に貴重な体験でした。
私の制作活動は、普段、ポジティブなものからインスピレーションを得ることは少ないのですが、今回の滞在ではその意味でも特別な体験となりました。
反省点としては、予定を詰め込みすぎたことが挙げられます。「居ること」の難しさは最終日に一瞬訪れかけましたが、結局最後まで盛り沢山な滞在になりました。私はキャパシティがそれほど大きな人間ではないため、欲張り過ぎた感は否めず、一日くらいは「本当に何もしない日」を設けてもよかったかもしれません。
訪れた場所すべてを十分に理解するには、数ヶ月、もしくは数年かかってもおかしくないと思います。しかし、ホストの方々のおかげで、その時間をまるで魔法のように短縮して普段は入れない場所を見せていただいたり、貴重なお話を聞かせていただきました。できれば、今後また一つ一つの場所に改めて出会う機会があれば嬉しいです。今回行けなかった西浦や沼津のお店、そして、お勧めされなかった場所も含めて、訪れてみたいと思っています。
今回滞在した場所は、新幹線で東京から一時間もかからず、入国審査などの手間もなく簡単に行き来できる距離でした。こうした距離感でのレジデンスは初めての経験で、「行った」という感覚はあるのに、「帰ってきた」という実感があまりなく、少し不思議な気分です。
滞在期間中、想像以上に多くのものを受け取り、そして持ち帰ることになりました(物理的なものだけでなく、精神的なものも含めて)。その中には、すぐに公に発信するには難しいものや、時間をかけてじっくりと向き合いたいものもあります。そういった新しい出会いに導いてくれた全ての人に、心から感謝しています。