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風音「流れ着いた者どうし」(3日目)

昨日はあまり寝つけず、起きられるか心配だったがアラームの音でちゃんと起きた。電車の時間があるので慌てて化粧をして着替える。昨日は寒かったので今日はニット。長野にいるときはほとんど着ていなかったフィッシャーマンズベストをこっちでは毎日着ている。ポケットがたくさんあって安心する。旅向きな服。

駅が目の前で助かった。ホームにはロマンスカーも停まっていた。きれいな色の車体。ロマンスくれよ、と思いながら沼津行きの普通車に乗り込む。

車内で食べようと思って持ってきたみかんを、発車前に全て食べきってしまう。

今日は静岡市に住んでいる友人と、御殿場市との中間地点の沼津で合流し、朝ご飯を食べる約束をしている。

「電車乗れたよ」とLINEしようと携帯を開いたら、1時間半も前に彼女から急病で来られないと連絡が来ていた。お大事に!と返す。先に連絡を見ていたら二度寝していたかもしれない。飛び出してきてよかった。(よかった、と打とうとして、予測変換でよカツマタと出てきた。)

海が見える窓はどちらかしらと地図アプリを開いたら、この車線は山の間を通っていて、向かう方向に海があるみたい。静岡の地理をまだわかっていない。

今日も曇り空だけれど雨は止んでいる。先の方にわずかに青空が見えるのですこしうれしい。途中、裾野という駅に停まる。裾野というのは富士山の裾野のことだろうけど、今日も雲が重く厚く富士山は見えない。

次の駅は長泉なめり。電光掲示板に「長泉なめりです」と流れている。アニメのキャラクターみたいな名前。なめりちゃん。

9時に沼津着。沼津は晴れていた。行きたかったチャトラコーヒーまで歩いていくとシャッターが閉まっていた。10時からだった。むむ。アーケードを少し歩いてみる。

犬のベンチ
気になる入り口
前のお店の看板やシャッターがそのままになっている
シャッターの隙間から見える海の街っぽさ
そうだよね

歩いていて見つけた珈琲室フレイバァに行くことにする。お店は地下にあった。階段に響く爆音のオペラに少し不安になったが、店内は落ち着いた雰囲気。

モーニング的なメニューはなかったので、コーヒーとバタートースト単品を頼む。BGMはオペラからタイタニックのテーマに。

二辺の耳が切り落とされ、さらに6分割されたトースト。初めて見るタイプ

行きたい本屋さんは1時からなので、とりあえず海へ行ってみよう。歩くには遠そうで、一番近いレンタサイクルのステーションに行ったら自転車が一台もなかった。それを見て、自分が思っていたよりも自転車に乗りたかったことに気がつく。

アプリを開くと近くに別のステーションがあるようなのでそっちに向かって歩く。

橋。そして大きな川、空、山。とにかく真っ青。わーお。橋を渡ろうとして、サイクルステーションがあるのは向こう岸ではないと気づき引き返す。

川沿いを歩こうと階段を下っていくと、どこからかバイオリンの旋律が聴こえた。うそでしょ、と思い、音が鳴っている方へ。ちょうど日陰になっている橋の下に、小学生くらいの三人組が。バイオリン、リコーダー、横笛?を持って座っている。

セッションが始まるのかと思ってそっと後ろに座ってみたが、片付けをしているところだった。「退散します退散します」「あっちの橋の下に行こうよ」と、カリンバでファミリーマートのテーマを演奏しながら歩いていってしまう。

あぁ行かないで、ここにいていいのに、と言うわけにもいかず見送る。着いていったら不審者だよなぁ。

子どもたちが進む方向から風が吹いてくる。ウミネコが鳴いていて、目の前にあるのは川なのに変なの。白い鳥が川の水面ギリギリを飛んでいく。

とにかく川と空が青かったので、そのまま橋の下に座って水面を眺める。少し横になりたくて、ベストを脱いで地面に敷き、寝そべってみたがまったく寝心地はよくなかった。

そろそろ歩くか、と立ち上がり、ふと自分の後ろの壁に貼ってある地図を読む。

渡し舟乗り場と書いてある

ん? 渡し舟? ここから? 次の時刻は10:55分発。時計を見るとあと10分だ。海の方角を見ると、舟らしきものが見える。オレンジのライフジャケットを来た女性が一人乗っている。

舟が岸に着いて、女性が降りていく。近くに行って、「これ乗れるんですか?」と聞くと、おじいさんに「はい。100円ね。お代は乗ってから」と言われる。

「どこまで行くの?」と聞かれ、降り場の名前がわからないので「海の方に行きたくて」と言うと、「街の方?市場?港?」と聞かれ、「港」と答える。「じゃあ我入道だ、どうぞ」と手を引かれて舟に乗る。

舟のへりに座っていた、タンクトップ姿の日に焼けたおじいさんが、「あと5分で、出るからね。これでも一応時間が決まってるんだよ。」と話しかけてくれる。

「お客さんは遠くから来たの?」と聞かれる。まただ。長野から、と答えると、あぁいいところだね。と言われる。

この舟は漁協が運航しているそう。「じゃあ漁師さんなんですか?」と聞くと、「俺はね。あいつは助っ人。」ともう一人のおじいさんを指す。

「俺はね、代々川漁師なんだ。うなぎとか、蟹とかを捕るんだよ。長野だと、佐久の方で鯉を食べるでしょう」と言われる。なんとなくボイスレコーダーを回してみたが、橋の方から男の子が走ってきたので話は中断。

「間に合ったー!今日はお父さんも連れてきたんだよ、舟に乗ったことがないんだって」

「おぅ坊主、お前のことを待ってたんだよ」と漁師のおじいさんはちょっとうれしそう。

後ろから父、母、姉もついてくる。伊豆から来ているらしい。男の子は昨日は一人で舟に乗ったんだろうか。

舟が出る。最初は櫂で漕ぎ始めたので、これはすごく時間がかかるのか?と思ったが、川の真ん中まできたらモーターに切り替わった。

日差しが強いので昨日キングファミリーでもらったスカーフを頭に巻く。御殿場は曇り続きだったので、日焼け止めを塗っていない。

漁師のおじいさんに「沼津はまだ暑いんですね」というと、「御殿場は富士山の近くだから冷蔵庫みたいなもんだよ」と笑っていた。

青さに圧倒される

ぼんやり水面を見ていたら降り場についた。

防波堤ぞいに歩いていく。バレーボールを防波堤に打ち付けてはミットでキャッチしている男の子がいて、眺めていたら「こんちは」と言われる。こっちに来てから、子どもによく挨拶される。

本当に海に着いた。川が海につながっているとは頭でわかっていても、実際に川の流れに沿ってきたのは始めてかもしれない。ひたすら歩く。

「この先危険」と書いた看板ある岩場まで行き着いて、そこからしばらくシーグラスや貝殻を拾って歩く。拾ってどうするかはとりあえず考えない。きれいだと思ったかけらだけ拾う。

おもちゃの家が落ちていた

すれ違った小学生くらいの男の子が、「いっぱいカニ見つけた!」と話しかけてくる。「いっぱいカニ見つけたの」と返すと、バケツの中身を見せてくれた。私が拾っているものよりはるかに大きいシーグラスや陶器のかけらがじゃらじゃらしているバケツ中に、カニが一匹だけいた。

LINEをしていたルームメイトにその話をすると、「いっぱいの概念。でも、もしかしたら一杯かも?」と返事が来る。たしかに。カニの数え方としてはそちらがただしい。

海に満足したので、適当なところで竹林に入ってみる

通り抜けると住宅街。御殿場のみなさんが教えてくれた循環ワークスが近くにあるはずなので、目指して歩く。

お寺の新聞。いい
循環ワークス。古道具が所狭しと並んでいる

いろんな人の声。店員さんが「エリカが……」と言っていて、沼津にもエリカさんがいるんだなぁと思いながら二階に上がったら、御殿場で会ったエリカさんがいた。びっくりした。今日はイベントをするらしい。一緒にいたお茶屋さんを紹介してくれる。

さらに屋上に上がると、子どもたちが水浴びをしていた。

夏だ

そのうちの一人が「あ、昨日の。ライターさん?」と近寄ってくる。顔を見ると昨日藍染工房で会ったクルミちゃんだった。うん、クルミちゃんも来てたんだねと言うと、もう一人の女の子が「私もクルミ!」と教えてくれた。水に飛び込み続けている男の子はタイヨウくん。

御殿場の方のクルミちゃんが、「わたしの友だち」と私の腰にきゅっと抱きついてきた。友だちができた。

循環ワークス内ののカフェへ。お魚の定食があったが、暑さにやられてかき氷を注文。

待つ間に店内をウロウロしていたらエリカさんが場所の説明をしてくれた。ここはもともと魚の干物の工場だったらしい。今は、環境に寄り添って「モノ」「コト」「ヒト」を循環させる工場に。エリカさんが御殿場に移住した来たばかりの頃、環境問題に興味があるコミュニティを探していたらたどり着いたんだとか。「生活圏内にこんな場所があるんだ!」と思って、と言っていて、電車で30分の距離が生活圏なのか!と新鮮。昨日の交流会にも、沼津から来ている人が結構いたな。

すももと練乳のかき氷。もしかして、かき氷を食べるのは今年初めてかも?夏、滑り込み

カウンターに座ってかき氷をシャクシャク食べる。隣で魚の定食を食べているメガネの女の子が、「骨がいっぱいある分、バクバク食べられないから、長く食べられて楽しい!」と店員さんと話していて、いい感覚だなぁと思う。

おいしそうに食べるなぁと思って見ていたら、「よく来るんですか?」と話しかけてくれた。ハスキーな声。

「いえ、はじめてです」
「あっ、私もです」
「あ、そうなんですか」  
「私、神奈川の茅ヶ崎に住んでいて。昨日は藤沢でオールナイトのイベントがあったんですよ。始発に乗って三駅で降りるはずが寝過ごして、起きたら終点の沼津に。」

えぇ、そうなんですか。私も、友人と会う予定がなくなって、橋の下で寝ていたら舟が来たから乗ったことを話す。

「じゃあ、私たち流れ着いた同士ですね!」とにっこりされた。ぐっとくる。

彼女は、3時から東京のイベントに行くんだと、次の舟めがけて去っていった。「また!」と手を振る。また会える気がする。

私もお会計をして、「このあたりで昼寝ができる公園はありますか?」とお店の方に聞く。「昼寝か〜!」「蚊がいるし暑いよ」と言われる。

次の舟の時間まであと1時間ほど。とりあえず店内をウロウロしていたら黒い大きなソファに座ったクルミちゃんに呼び止められ、「これ貰ってくれませんか」とクリップの塊を渡される。領収証を月別に分けるのに使えそう。「12個欲しいかも」と答えたら、1個ずつ数えてくれた。

背骨みたい

「あれ、風音さん!」と言われて振り向くとまこぱさんファミリーが。違う街でたまたま会うなんて不思議な感じ。 

そのままソファーでうたた寝してしまう。みんな放っておいてくれてありがたかった。ハッと起きて時計を見たら最終の舟が出る数分前。

慌てて港へ行くと、もう舟は向こう岸に行っていた。 

ちょうどバスがあったのでバス停まで歩く。バスは舟より早かった。途中で降りて、昨日の交流会で話が出たリバーブックスへ。

みかんと不燃ごみ
道の向こうにいい感じの建物が!と思ったらリバーブックスだった

店内を見て回り、きゅーんとなる選書でうれしくなる。一度落ち着くためにレモンサワーを注文し、飲む。つめたくておいしい。

「エッセイ読みました」と店主の方に話しかけてすこしお話する。またぐるぐる店内を歩いて回り、一番最初に気になった詩集を買う。

ふさわしい場所で読もうと川辺でちょっと読み、途中でやめる。

滞在記を読んだという長野のルームメイトから、「御殿場行こうかな」と連絡。「おいしいパン屋があるよ」と返す。

帰りの電車では気持ちよくうたた寝をした。御殿場はやはり曇りだったけれど、雲の隙間からほそーい月が見えた。noctariumに戻る前に、JPさんが話していたベトナム食材店に立ち寄る。お腹にやさしそうなインスタントのお粥を買う。

洗濯をし、先にシャワーを済ませてご飯会。今日は裾野のカフェのnojinoさんがゲストシェフ。

キッシュのプレート!
りゅういちろうさんが熱燗をつけてくれた

渡し舟に乗った話をしたら、まこぱさんとりゅういちろうさんが「でかした!!」という勢いで褒めてくれてうれしかった。

御殿場の人にとって、裾野、三島、沼津のあたりは生活圏らしい。車社会とはいえ、生活圏が広い。三島は今日行けなかったのでまた行ってみたい。

食後、シアタールームに移動し、映画を観ようと思ったけれど、どれだけ画面をスクロールしても何が観たいかわからず。ちょっと再生してみた映画二本も違う気がしてやめる。

くどうれいんさんの「日記の練習」を読む。日記本が作りたくなってくる。

すぐろさんに「これから夜の街に出ようと思いますが」と声をかけてもらったけれど、休むことにして部屋へ。明日はなにをしよう。

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