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関野佳介「透明になる(6日目)」

2023年11月9日(木)
9時に勝亦さんが車で迎えに来てくれて、國吉さんも一緒に3人で沼津の我入道にある循環ワークスへ。ここではごみとして回収されたり、リサイクル処理される前のものを集め、安い価格で店頭に並べる。回収の基準は土に還れるものかどうか。もしくはガラスや鉄、木材などそのまま素材として使用することができるかどうか。お店を営業するために必要な水、電気、エネルギーもできるだけその場で生み出している。それらの設備を作るために有識者を呼んでワークショップを開き、お店のスタッフが学ぶことによって技術も循環させている。この場所をお店と呼ぶこともなんだか色々な要素が掬いきれていない気がする。その建物に集う人も含めた共同体、呼吸する大きな身体のような印象。

他にも循環ワークスの取り組みとして、徒歩で5分ほどの古民家を利用したコミュニティナースと呼ばれるものがあった。地域の子育て世帯やお年寄りの方など、誰でもふらっと気軽に利用できる。病院や市が提供するお金がかかるサービスではなく、その一歩手前で相談に乗れる場所にもなっている。問題や悩みへの解決を急ぐわけではなく、ただ自分の話に耳を傾けてくれる人がいて、なおかつ安心できる環境は意外と見つけるのが難しい。でも結構必要なものだと思う。つらいことが多い日々の中でも、「あなたのことを見つめているよ」という誰かの視点を感じられるとき、ほんの一日だけでも踏ん張るちからが芽生えるような気がしている。

コミュニティナースの古民家に入ったとき、場の空気や安心感に力が抜け、ゴスペルの練習前にストレッチをしていた人たちに混ざって、思わず畳の上に横になった。

この我入道という地域にいて、自分がからっぽの透明になっていくような感覚があった。普段の生活では自分と外の世界をきっちりと分け、個人という壁を作って自分を守っているのだと思う。そういうぎゅっと凝固する力を緩めても良いと思わせてくれる、そんな不思議な場所だった。

勝亦さんが沼津駅まで送ってくれたものの、電車出発まで残り1分。駅の改札を入ると御殿場線のホームは一番遠くの5・6番線。國吉さんと走ってホームにたどり着いたその時ちょうど、目の前でドアが閉まった。車掌さんは階段を駆け上がる私たちの姿を横目で見て、そのまま電車は走り出した。私が畳で寝っ転がっていたばかりに、午後から仕事があった國吉さんに申し訳なかった。

御殿場駅に着き、予定より少し遅れてまこぱさんと丹治さんと合流し、週一度だけ営業しているオリーブ食堂へ。ひとつひとつのおかずがとても丁寧に作られていると感じた。こういう料理を食べると、これもまた身体がサラサラになる感覚がある。料理を作ってくれたゆきさんという方がとてもにこやかで、恐竜が好きで、丹治さんの着ていた服のデザインを見て「頭骨かと思った…」と声をかけていた。さらっと少しおかしなことを言うのがまた素敵だった。

そのまま午後は高嶺の森コテージへ。神田さんがチャイを入れてくれて、ここでもゆっくり過ごすことができた。神田さんのやわらかな気遣いや、まこぱさんのおちゃめさに触れ、猫を撫でる丹治さんを見ていた。当たり前のことだけれど、ここでもちゃんと一分一秒が、そのまま一分一秒として、なんの倍速もなく流れていることを感じた。そのひとつずつ着実に流れる今を、ちゃんと味わっているのがみんなから伝わってきて、少し感動してしまう。

まこぱさんがドライブをしてくれて、駅から少し離れた御殿場の姿も見られてよかった。昼頃からずっと曇っていたけれど、すすきを見た時間帯はちょうど日没ごろで、遠くの灰色の山並みが薄くオレンジがかっていた。

宿に戻ってきて、やっと前日の日記を書き始めた。19時ごろ勝呂さんと旅人の3人でビッグ富士という大きなスーパーに夕食の材料を買いに出かけた。最後の晩餐の準備をこの4人でしている時間も、なんだか嬉しいような切ないような。帰り道、勝呂さんが急に立ち止まり、道端に生えているローズマリーを摘み始めた。彼が昔植えたものがとんでもなく大きく育ったと聞いて、そのたくましさや躊躇のなさに笑い、寂しさも吹っ切れた。

「Half Of It」という映画を夕飯のステーキを食べながら観た。前日お会いした小林さんと息子さん、JPさんも来てくれて、最終日にしてついにみんなで映画を観ることができた。内容も心温まるもので、ああこの瞬間に観られて良かったなと感じる作品だった。

映画の後は勝呂さんとJPさん、写真家で今回MAWホストの鈴木竜一朗さんと0時過ぎまで昨日のミントティーを飲みながら話していた。鍋一杯にあったお茶が最後にはからっぽに。鈴木さんの写真のモノクロプリントや色の諧調のことなど、今まで知っていたようでちゃんと理解していなかったことを解説してもらってとても面白かった。彼は本当は今回のMAWには来られない予定だったけれど、福島での仕事が変更になったようで偶然にもお会いできてよかった。

皆さんより一足先に失礼し、劇場で昨晩撮った映像を確認した。この御殿場滞在の記録が、小さな映画になるために必要な映像を探した。若干危ないよなと思いつつ、明日は雨と聞いていたので今日しか機会がないと思い、夜中の2時過ぎからひとりで撮影に出た。劇場前の通りを撮影しながら何人か酔っ払った人たちに声をかけられたが、当たり障りのない会話でその場を早く逃れようと、曖昧なコミュニケーションをしてしまっていたと思う。3時ごろ劇場に戻り、さらに2ショットほど撮って4時ごろ就寝。

映像日記はこちら⇩

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