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戸井田雄「静寂の源流で迷走する(4日目)」

稲取には「とうさんばらい」と呼ばれている(いた)場所がある。

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「港がなくてみんなが困っている頃に、石工の鈴木藤吉さんがDIYで作った。」と、昨日の図書館で手に取った1冊目の本に書いてあって感動したが、

次の本には、「藤五郎さん(すでに名前も違う)が作ったという説があるが、実際はそんなことはない町の工事であり、近くに住んでいた石工の鈴木さんが「俺が港を作った」と言う話を繰り返すうちに、藤五郎さんが作ったと言う話が通説になったという説もある。」との記載があった。

そして、夜に飲み屋でお借りした資料には「(藤吉の話を)聞いていた海女達が、老年になるに及んで藤吉の遺徳をしのび、漁協に働きかけてその顕彰碑を建立した」と書かれていた。

昨日の特攻隊と公害への反対運動の記録を見てから、稲取の静寂さが少し違って感じられ、それを「本質に近づけた気がする」と喜ぶのも良いかもしれないが、前述のような美談と異説の混在が頭をよぎると、ただの自分の思い込みと気持ちの問題にしか思えない感覚が拭えない。

熱海は奈良時代・平安時代からの文脈が現在のまちにも残っているが、それは熱海がイレギュラーなだけで、そんなに多い事例ではないのではないか? そもそも歴史とはまちにとって何なのだろうか? そんなことを思いながら稲取のまちを歩いているうちに、すれ違ったおじいちゃんたちがこんな会話をしていた。

「あれ、何してる?」
「ヤオハン」

このまちの人は、未だにマックスバリューをヤオハンと呼ぶという話を聞いていたが、それを生で聞けて、ヤオハン発祥の地である熱海に住んでいる1人としてちょっと嬉しく思うと同時に、「マックスバリューに来る人を見てみよう」と思い、マックスバリューに併設されたマクドナルドで、コーヒーを飲みながら買い物に来る人たちを眺める。

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せっかくまちに来て、地元の喫茶店でもないマクドナルドでコーヒーを飲むことに少しの違和感もあるけれど、まちと歴史に疑問を感じている状況だと、そこに違和感を感じることに、違和感も感じる。

まちの人のことを知りたいなら、まちなか歩くのも良いけど、ここでブース作ってヒアリングするのが一番だよな〜
絶対にこの家族とか、公害の話とか知らないよな〜
やたらオシャレな子どもがいると思ったら、ハロウィンの仮装か・・・

なんて思いながら、昼までぼんやりと稲取の人を眺め、お昼ご飯に移動する。

歴史・まち・人・まちあるき、そんな言葉で頭がぐるぐるしながら、昨日の「町長と焚き火を囲む会」で、最初の問いかけとして出された、
「話のきっかけとして、皆さんの稲取のまちの好きなところと、嫌いなところを、まずは短くて良いので話してください。」
という、決して悪くはない質問に対しての、違和感が蘇る。

「まちの好きなところ」って何だろう? 自分の好きなところなら分かるが、「まちの」となると難しく感じるのは、自分の性格の歪みからくる違和感な気もするが、【自分にとっては不快でも、まちにとっては快適なこと】もあり、しかもその中で【好き】って何だろう? という違和感だったが、思えばず〜っと同じようなことを悩んでいる気もする。

とりあえず体力をつけようと今日も肉チャーハンを食べ、午後はずっとモヤモヤしながら歩いていたが、2日目の夜に駅前のスナックのママに「稲取のことを知りないなら、あそこじゃない」紹介された「笑の家」という飲み屋さんに行って、少しだけモヤが晴れた気がした。

そこは外見もメニューも本当に普通の良さげな居酒屋さんだったが、大将にまちのことを知りたいと伝えたら、なんと次々と資料が出てきた。

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(この料理本に関しては、取り扱う素材が偏っており難しい広報物だったが、稲取への思いは感じる素敵な資料だった。)

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「飲みながら読んでみなよ!!」
そんな提案をいただき、美味しい肴とお酒を飲みながら、資料を見ながら、時折大将に稲取のことを聞きながらという幸せな時間を過ごせたが、

今回、自分は稲取の歴史から「公害」「特攻隊」といった【分かりやすいけど扱い辛い】テーマに(無意識でも)意図的に反応したので、痕跡が見つかりづらいだけで、稲取のことを大事に思っている人は多く、そしてそれぞれが自分の関心を、自分なりの大事さで扱っているという当たり前のことに気付けた気がした。

「明後日までに市役所に資料が余ってるか聞いといてやるから、明後日また来いよ!!」と言う大大将(大将のお父さん?)の漁村らしい圧に押されて、明後日の晩御飯が決まってしまったが、今日の美味しいご飯と面白い話が聞けるなら、まぁ良い夜だったと思う。

明日はスナックのママさんにもう一つ紹介された「一番、稲取の言葉が聞けるスナック」に行くことを楽しみにしながら、今日の稲取のちょっと不思議な風景を紹介して、4日目のレポートとする。

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